異世界の神器

【朝の風景】

大広間に刀剣男士が全員揃う。そこに審神者である日和が近侍と共に、最後に揃う。
これがこの本丸の、いつもの食事風景。
今日からそこに、新たな二人が入るのだが、まだこの場には来ていなかった。
新たな二人は、異世界からやって来た
【刀剣女士】だ。実際は、別に付喪神でも何でも無く、【神器】と称する鍛冶の神より創られた武器なのだが。
__早朝、石切丸が死出の羽衣と会話をしたのは、石切丸自身が報告したので彼女が起きているというのは分かっている。しかし、未だに此方に姿を見せない。
「石切丸、むかえにいきませんか?」
「そうだぞ。あの女人はお主と口吸いまでした仲では無いか。のう、〔旦那様〕?」
「……岩融、君ねえ……」
頬を微かに染めてそっぽを向く石切丸に、ガハハハハッと笑う岩融は、酷く愉快そうだ。



『私、死出の羽衣は__』



早朝の遣り取りを思い出すだけで、石切丸の心はざわついて、平常心が保てない。
あの後、少しだけ会話をしていたら誰かの気配を察したのか、羽衣は『また、後ほど』と告げて、姿を消した。
その後少しして、朝稽古の自主鍛錬を終えた同田貫正国が姿を現した。
石切丸は何でも無い様に、怪訝そうな同田貫に対しなんでもないと繕ったが、彼自身は同田貫と分かれた後、彼女の事が頭から離れない状態だった。
「ま、からかうのは止めるとしてだな、本当に迎えに行った方が良いんじゃないのか?」
そう言われて、石切丸の視線は岩融に向かう。
「何故と尋ねても?」
「簡単な事よ。羽衣とやらは、我々に対して関わろうと思ってはおらぬだろう、だな」
「……」
「お主とて、気付いておろう。我々が警戒しておるのに気付いて、接触を控えているのを。
昨日のあの女人は、その場に居る、唯それだけであったにも関わらず、この俺に恐怖を抱かせた。主が申した通り、首を刈り取られそうであったわ。
お主と契約した時、それは一瞬で消え失せてしまったが、其れでも、未だに消えぬのだ。俺も、この今剣も、あの女人が【怖い】のよ。それを、気付いておらぬ程、羽衣とやらは鈍くあるまい」
「まあ、羽衣さんは、そうだね。加持祈祷の帰りに会ったけど、意図的に避けてる様子だったよ」
同田貫が姿を見せた数分前に、彼女は反対方向に姿を消した。
彼女は、自分が与える影響をきちんと正確に理解している。あの時会った同田貫の手にはしっかりと本体が握られていた事から、彼女を警戒対象にしているのだろう。もしくは、手合わせでも無理矢理したいのかもしれないが。
「だからといって、彼女は、誰かを意味なく傷付けるような武器ではないよ。私は、彼女の本質はとても思い遣りのある優しい女性だと思っている」



「あら、ありがとう御座いますわ」



「……………え?」



後ろを振り向くと、縁側に、片腕で闇水を抱えた羽衣が立っていた。
石切丸は座布団に座っていたので彼女を見上げる形になっているが、室内用の服であるワンピースにストールを巻いた彼女は、朝に会った姿そのままだ。そして周囲はといえば、明らかに華奢であり女性らしい装いをした彼女を見て、シーンと静まり返っている。
「あれ、どしたの?」
少しして、この本丸の主である日和と、近侍の長谷部が現れたが、未だにシーンと静まり返ったままだ。
「………………何処から?」
「会話でしたら、『彼女の本質は~』からですが?」
「石切丸様、おはようございま~す」
嬉しそうに挨拶を告げてくる、ケモミミを付けた、此方も室内用の服を身に付けた闇水。
ぎこちない動作の石切丸に、羽衣は首を傾げながら日和と長谷部に道を譲った。
「あ、歌仙、おはよう。頼みがあるんだけど、お茶二つ、二人に用意してあげて。二人共に、食事は要らないって」
室内に入って早々、日和は歌仙に声を掛ける。そして告げられた内容に、歌仙は目を瞬かせた。
「え?
食べないのかい?」
「そうだよ。一応食べれるといえば食べれるんだけど、基本的に食事は必要としないからね。だからといって、二人だけ食べないで此処に居るのは居たたまれないでしょ?だから、お茶二つ」
日和の言葉に歌仙は『解ったよ』と言って台所に向かった。
さて、石切丸といえは、非常に混乱していた。
聞かれた部分が部分だけに、恥ずかしい。いや、別に深い意味など無い。ただ、彼女を見て思っただけで__と、羽衣が石切丸に手を伸ばした事に気づいていなかった。
「!?」
気付いた時には、額に掌が触れた時で。
「熱は無いですね。付喪神とお聞きしましたので、人間の様に風邪をお召しになるとは思いませんが、無理はなさらないで下さいね、旦那様」
少し屈んで、覗き込む様に見て告げてくる羽衣に、目を覆うマスクを付けて解るのだろうかと、その場に居た岩融と今剣他が思う中、石切丸は多少ドモリながらも返事を返すのだった。





 
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