異世界の神器

〔おまけ〕



石切丸は早朝、誰よりも早く起きて祈祷場に向かう。そして加持祈祷を行う。それは、前日あんな騒動が起こったとしても、変わらない日課である。
加持祈祷を終え祈祷場から出てくると、そこにはいつから居たのか、羽衣が立っていた。
最初に見た服装と異なり、肩を曝したワンピースとストールを巻いた洋装で。相変わらずマスクで目元は隠されていたが、彼女の白銀の髪が腰の下まである長い髪だと初めて知ったその髪が、朝日を浴びて煌めいていた。
「おはようございます、旦那様」
「おはよう。君も早いんだね」
彼女は、自分の契約者に【旦那様】呼びする。それは、特別な相手だと他者に認識させる事も目的になっている。石切丸としては、恥ずかしいのでやめて貰いたいが、男性の比率が多いこの場所に居るので、牽制の意味を持つためにそのままにしていた。
「少しお話をと思いまして」
「話、かい?」
「はい。
単刀直入にお尋ねします。無理はしていませんか、私と契約した事」
石切丸は彼女を見詰めた。
彼女は静かだった。笑みさえ浮かべて、穏やかに尋ねたのだ。
「貴方自身では、納得いっていませんでしたでしょう。日和様、強引でしたし」
「……まあ、ね」
確かに、主のアレは強引だった。でも、決めたのは自分の意思だった。彼女の言葉が、決めさせてくれたのだ。
「納得いかなかったのは契約の仕方だから、契約自体は気にはしていないよ。ちゃんと納得しているから気にしないでいい」
「そうですか」
そう告げると、返事を返した羽衣が、目元を隠しているマスクに手を掛けた。
外されたマスクから見えた瞳は、深紅。
「私、死出の羽衣は」
そして、石切丸の手を取ると、両手で包むようにして持つ。
「貴方様のお側にあります」
フワリと柔らかく微笑むのは、とても武器とは思えない程、美しい女人。
「苦楽を共に、歩み、進みましょう。私の、全てを、ただ、貴方様の為に」

石切丸は、魅入られた。
例え、契約口上だとしても、関係なかった。
ただ、【恋】をした。
人の姿をして、初めて。


切なくて。
愛しくて。
狂おしいくらい。


武器であり、一人の女性である彼女に。


【一生に一度の恋】をした。








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