異世界から審神者達がやって来ました

新しい審神者見習いが来て一週間が経った。
あれから刀剣男士の前には一切姿を見せず、気が付けば本丸全体が新品同様になっていたり、家具や家電・設備等も新しく導入れていたり、どんどん過ごしやすくなっていく。
今日は手入れ部屋の総入れ替えと掃除が終わったとこんのすけが伝えに来たのだが、同時に手入れは自動で行える様になったと知らされた。こんのすけ曰く、四人共に空く時間が余り無いとの事。手入れの霊力は自動的に四人から取られるようになっているので、手伝い札も使って良いと言うのだ。
「貴重な札だろう。良いのか?」
「使わなければ唯の紙の束でしかないので、気にせずお使い下さいと」
「……………紙の束って」
「在庫数を確認しましたが、刀剣男士全員使っても余ります。なら、使った方が良いと。
手入れを受けたくないのなら無理には言いませんが、周り(身内)がどう思うか想像して同じ事言えるならどうぞ。だそうです」
「…………おい、最後」
「それでは、私はこれで失礼します。もう、忙しいのですよ。何なんですかね、あの知識欲の溢れたというか垂れ流しの方は。あんなにあった分厚い本五十冊強、読み終わるってどんなに速いんですか、読む速度。百冊借りなきゃ駄目なんですかねえ………」
等と、ぶつくさ言いながら出て行ったこんのすけ。角を曲がる所で。



『こんのすけ』



誰から声が掛かり、こんのすけは足を止めて声の方を振り向いた。
そこには三日月宗近にも劣らぬ程の美貌の容姿をした青年。
淡い金の髪は柔らかく、陽の光を吸収し煌めき、緩く纏めた髪は質の良いリボンで止められ肩から垂れ流していて、蒼の瞳はこんのすけを写している。
──彼は人では無い。
人の姿を形どっているだけの、正真正銘“化物”である。
その表情は少し困ったように、眉を下げていた。
「どうかなさいましたか?」
「マスターが、全ての本を読み終えました」
「……………………はい?」
「追加を所望されておられますので、直ぐ御用意出来ますでしょうか?」
「………早っ!!」
実はもう、三百を超える本を政府の図書館から借りてきている。これをたった五日で読みきったというのだ。相当速い。速読したとして、有り得ない速さだ。
戦術師は四人の中で一番先に此方の言語を理解した。一日で此方の使う日本語を理解し、その後、英語から始まり中国語とフランス語は読み書きが出来る。英語はもう聞く話すが出来る。貴方の頭脳指数は一体幾つなんですか?!とツッコミを入れたあの日はつい2日前の事であった。
そんな遣り取りをしていたら、小さな男士が会話に入って来た。彼は比較的最近鍛刀された短刀である謙信景光。彼は駆け寄って、躊躇したものの、はっきりとした物言いで青年に問い掛けてきた。
「あの、ききたいことがあるのだ」
「──確か【謙信景光】様でらっしゃいましたか?」
「そうだぞ」
「私に聞きたい事とは何でしょうか?」
「さくやのことなんだけど、にょにんにあったのだ。もっていたつえのさきがかがやいていた。あれはなにをしていたんだ?」
「シャンファ様が成されていた事ですか。少々ご説明が長くなりますが、よろしいでしょうか?」
「かまわないぞ」
「ありがとうございます。
こんのすけ、私は説明致しますので、本の件はよろしくお願いします」
「良いのですか、執事殿?お一人で?」
「問題は御座いません」
「わかりました。では私は、政府の方へ行ってきます」
「お気を付けて」
「貴方も」
こんのすけはドロンと白煙を残し、その場から姿を消す。残った男性は、謙信の前に膝を付き目線を合わせた。
「一つずつお答え致しますが、先ず何をお聞きしたいですか?」
「──どうして、にげないのだ?」
「マスターより、ご命令を承っておりますので」
「ぼくがこうげきするかもしれないのにか?」
「したいのでしたらどうぞ御自由に、と、ファリス様がお伝えしていた筈でしたが、お忘れになられましたか?」




「じゃあ、僕が攻撃しても問題無いよね」




声と同時に煌めきが走る。
トン、と軽く謙信を押して、彼は身を外へと動く。
線は彼の右腕を引いた。
彼が地面に立つと、彼の右腕は切り落とされており、地面に転がっている。それを刀で突き刺し持ち上げたのは、白と黒を纏う二振一具の片割れ、源氏刀──兄刀髭切。
「確か、【髭切】様、でしたか?」
腕を斬り落とされているにも関わらず、涼しい顔をして彼は髭切を見つめる。
「気になっていたんだ。
やっぱり人間じゃなかったね。血を流さない生き物なんていないよ。カラクリ人形か何かかな?」
「返答はなしですか。まあ、宜しいですが。
貴方が仰られたように、私は【人間】ではありません。だからといって、【カラクリ人形】?という物でもありませんが。それと、腕は返して頂きます」
彼は指をパチンと鳴らす。するとどうだろう。刀で突き刺された腕は消え、彼の腕は本人の元の位置へと戻っていた。まるで切り落とされていたのが嘘のようであるかのように──。
これには髭切だけではなく、見ていた他の刀剣男士達も驚く。
「…へえ、君、正真正銘化物だったんだ」
「そもそも、【人間】などと名乗ってはおりませんが」
「じゃあ、なんだい?」
「種族はダークエンパイアになりますね。ダークネス系統ですよ」
「………は?」
「長命種ですので、千年二千年軽く生きる個体も多くいますが、その分、種族の数は人間より遥かに個体数は少ないですね」
「君、幾つだい?」
「三千は超えてます」
「……三千?」
「まだ若輩者ですね、私は」
「三千年以上生きて、若いの?」
「最年長が一万歳超えていますので。
一番若い個体は五百歳超えていた筈ですね。千年超えないと赤子同然の扱いですよ、ダークネス系統は」
「……………へえ。それって僕等を乏しめているって事と同義かい?」
「いいえ。前提として種族が違いますので、同一扱いは致しません。私は【刀剣男士】ではありませんし、髭切様も、【ダークエンパイア】では無いでしょう。違いますか?」
「確かに。じゃあ、何で人間何かに従ってるの?」
「契約しましたので」
「契約?名乗ったのかい?」
「そもそも、契約の仕方が違います。【ダークエンパイア】との契約は『命懸け』。人間は、命を掛けるのですよ」
「命を?」
「はい。契約に失敗しますと、【餌】になりますから」
「えさ……?」
「私は【人間】を食べます。人間も“食糧の一種”なのです」
「…………は?」
流石の髭切も、この言葉には耳を疑った。
人間を食べるだなんて、ありえない。
「貴方方刀剣男士も食糧の一種となりますが、食べませんので、そこは御安心を」
「安心出来ないね」
油断無く刀を構える髭切。周囲の刀剣男士達も、得物に手を添え始める。剣呑な雰囲気が漂う中、執事の彼といえば構える素振りさえない。
「そもそも、味が好みでは無いんですよね。鉄錆の味が強過ぎて」




『はい?!』




「鉛臭いですし、鉱物食べてる様な感覚になりますから。同じ鉱物でも、まだ魔石の方が美味しいです」
そんな感想を聞かされた刀剣男士達といえば、何とも表現しきれない様な微妙な表情を浮かべた。いや、浮かべるしか無かった。
「お掃除いたしましたから今は良いのですが、お解りになられます?辺り一面に醜悪な鉛臭と鉄錆臭で臭覚が刺激された私の気持ち」




『いや、解らんわ!!』




「という理由で食べませんので、御安心下さい」
これまた見惚れるぐらい美しく微笑んだ執事に、警戒したのが馬鹿らしくなった彼等は、得物から手を離したのだった。



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