異世界から審神者達がやって来ました

「げほごほ…」
「いわんこっちゃない。おら、水飲めよ」
治療師が用意してくれた小皿に水を注いで、戦術師がこんのすけの前に差し出す。
「有り難く…」
ペロペロと水を舐めるこんのすけに、一同和む。
しかし、和むのは刀剣男士のみである。四人は立ち上がり、荷物を手に取った。それに続き、お付きも立ち上がる。
「こんのすけ、僕達は離れに行きます。君は後から来て下さいね」
「お、お待ち下さい!!話はまだっ!!」
「これ以上はありませんよ、僕達には。それに…、そろそろ限界でしょう?同じ空気を吸うのは」
「……え?」
「空気、淀んできています」
ふふっ、と柔らかく笑う幻獣師。その目は、刀剣男士に向いていた。
「僕達が口にした条件は覚えていますね。貴方方が自分で決めて下さい。どうしたいのか?どうするのか?自由に。その結果がどうなろうと、後悔しないように」
「………………審神者として来たのだろう?」
「ええ。そうですね。でも僕達、色々することがあるので。ぶっちゃけますと、構ってられません。色々山積みなんです。時間も惜しいです」
「……はい?」
「詳しくは、こんのすけからどうぞ。
では、失礼します」
ぺこりと頭を下げて立ち去る幻獣師。何時の間にか、彼以外はもう移動していたらしい。彼等が居た場所には、山姥切の白い布が置いてあった。それも綺麗に畳んで。
「こんのすけ」
彼等を呆然と見送った後、全員の視線がこんのすけに移る。
「どういう事だ?」
「は、はい。えっとですね…、彼等が異世界から来た事はお話いたしましたね。
彼等の世界の文化と、こちらの世界の文化は全然違います。よって、こちらの世界の読み書きや会話、機械の操作から何から何まで、審神者様方は知らないのです。その為、先ずは勉強をなさらなければなりません」
「ん?
それにしては、会話が成立してましたが…?」
「彼等の世界には、翻訳機能の魔術があるのだそうで、それにより会話が成立するとの事です」
「……便利じゃのう」
「ええ、本当に。政府も、会話が成立出来た時は大変喜んだそうです。何分、異世界の審神者様を探す事ラスト一回で彼等の世界に当たったそうですから。
あちらの世界は、【魔術】というモノが存在するようでして、そちらの方で発展していった世界なのです。機械は【ロストテクノロジー】といい、失われた技術だそうです。因みにそれらは共通語で【マキナ】と呼ばれ、良い値で売買されるそうですよ。専ら貴族や王族に」
「へ、へえ~……」
「貴族や王族って…」
「どちらかといえば、西洋の貴族や王族に近いようですよ」
「そうなのか…」
「政府の方が変な生き物に襲われ、たまたまそれを討伐に来たギルドの方に助けられ、そこから仕事の依頼を頼むのは【ギルド】という組織にと知り、沢山のギルドを渡り歩いては追い出され、時には盗賊に襲われ、時には見たことのない生き物に襲われ、最後にあの方々が居るギルドに巡り会ったそうです」
「た、大変だったんだね、政府も…」
「ええ、そのようでして…」
「で、胡散臭い仕事を請け負ったと?」
「いえ、最初は断ったそうです。当たり前でしょうね」
「…それならどうして受けたんだ?」
「政府の方が一人、命をかけまして…」
「ハァ?!」
「…いえ、その~…、ちょっとあったようでして、詳しく存じておりませんが、その結果政府の方を信じて下さって、その後もまあゴタゴタがありまして、結果的に来て下さった訳です」
「ゴタゴタってなんですか?」
「御四方とも、【ギルド・シャノワール】の創始者でして、特に幻獣師様は御自身で述べた通りギルドマスター…、こちらでは【審神者】に価しますますね。その立場に居たものですから、引き継ぎなどなんだのとか、ギルドの所属していた人達は引き止めたりとか、襲撃があったりとか、その他諸々てんやわんやだったらしいですよ」
「最初の二つはわかるが、襲撃って何だよ」
「詳しくは知りません。ただ、ギルドの内外では有名だったそうですよ」
「強いのか?」
「その時巻き込まれた政府の方がいうには、竜狩人様が大暴れしたそうで、それを観戦応援していたギルドの方々は黄色い声を上げていたと」
「え?
襲撃されたんだよね?」
「はい。暫くは連日襲撃を受けていたと報告書にも記載がありました」
「はあっ?!」
「政府の方もこう連続して襲撃されるのを見ているのも慣れてしまったらしく、お茶を飲みながら観戦していましたと」
「それってどうかと……」
「告白大会もありましたから、そのせいもあるようですよ」
「ちょっとまて。襲撃が何で告白大会になる?」
「それって求婚されてたとか?」
「え、マジ?」
「知名度が高いと、人気も出て来ますからね」
「三日月じいさんのようなものか?」
「止めてくれまいか。気分が悪くなる」
「三日月殿、お気を確かに」
「ただ、政府の方はこう報告書に書かれました。
何よりも、誰よりも、自身の大切なモノを護る為なら、どんな苦難も苦渋をも厭わない方々だと。自身の選択した結果だからと、心から笑って言える方々だと。そう、書かれていました。憶測ですが、連日の襲撃も、引き止める為に行われていたのではないかと、そう思うのです。ただ純粋に、強いというだけというのではなく、心身共にお強いのです。誰かの指針になれる程に、その者達はその背中に憧れたりしたのではないのでしょうか?
我等の世界の審神者達は、平和な世界の中で育っています。ですから、まず戦場に立つ事はありません。それは、こちらでは当たり前で、当然で、変わらない事でしょう。でも、御四方は戦場に立ちます。刀剣様と同じ場所に。前任者とは違いただの道具とは見ず、共に戦う仲間として側に置いてくれるのではないかと、こんのすけは思うのです。皆々様、どうかお願い申しあげます。今一度、どうか人を信じては頂けないでしょうか」



『…………………』






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