刀剣乱舞 クロスオーバー

麻衣は夢を見た。
その夢に出てきた人物は、彼女が良く知っている相手だった。
その人は、麻衣に話を掛けてきた。
良く知っている人物よりも、雰囲気が穏やかで柔らかい。
何より、__違う。
姿形は良く似ている。けど、違うとハッキリ判る。ならば、誰なのだろうか?
麻衣は、尋ねた。



「貴方は、誰?」



相手__少年は、目を見開いた後、嬉しそうに笑ったのだった。






麻衣の家は、セキュリティ対策バッチリなマンションの最上階で暮らしている。居間の窓から出るとバルコニーになっており、『ホストクラブ“とうらぶ”の刀剣男士の本気は凄い』とは麻衣の談だ。
そこで麻衣は、三日月宗近と石切丸と一緒に、麻衣が夢で出会った少年と再会を果たした。いや、問答無用で連れ込んだと言うべきだろうか。天下五剣が一振と御神刀である三条コンビが本気を出すと、異空間から連れ出すのも可能らしい。……畏るべし。
『ゴメン。突然夢の中に現れてしまって』
「まあ、驚いたけど……。怒るに怒れないよ。じいじにあんなにあわされちゃったらねえ……………(遠い目)」
『………………本当にスミマセンでした』
「……やり過ぎだよ、三日月」
「…………小僧が悪いのだろう。唯でさえ主が狙われたのは最近で、気が立っていたのにも拘わらず、主に寄ってきたのだからな。過剰反応してしまったのは悪いとは思うがのう」
『本当に本当に、申し訳ございませんでした』
「ふむ、まあ、そこまで反省しているのならば、許してやるとするか。但し__二度とするなよ』
その絶対零度の瞳を向けられた少年は、コクコクと青筋を浮かべながら何度も頷くのだった。






さて、事は昨夜__それも真夜中にまで遡る。
麻衣が、少年と夢の中で会合した時、麻衣は彼の名前を尋ねた。
ユージン・デイヴィスと名乗った少年は、雇い主の渋谷一也とは双子の兄弟であり、兄だと名乗った。麻衣は、驚きの余り絶叫してしまったが。
そこで、ナルの名前が偽名であると知った麻衣は、ユージン(愛称ジーン)からナルの本名を聞く。
オリヴァー・デイヴィス。愛称はナル。
愛称が、偶々勝手に付けたナルシストのナルと同じなのには、麻衣は思いっきり噴いてしまったが。
そうして、少し会話をしていると、そこに三日月が現れたのだ。それも随分と怒気を纏って、麻衣の真横に。
「じ、じいじ………?(汗)」
流石の麻衣もビシッと固まり、大量の冷や汗がダラダラと流れた。
「…………良い度胸よな?俺の主の夢の中に断りも無く土足で侵入しよって(-_-#)」
ズゴゴゴゴ……………!!
まるで噴火寸前の状態であるかのように見えて、ジーンは顔を引き攣らせながら、一歩足を引いた。
「あ、あの、そ?!」
「小僧」
三日月が麻衣を自身の背に隠し、ゆっくりと鞘から本体を抜いていく。
「覚悟はよいな」
カッと目を見開いた直後、先ずは一閃繰り出した。
その後、真っ青になって全力で逃げて行くジーンと、楽しそうに優雅に笑みを浮かべながらも、全く以て全然笑っていない怒気を纏った三日月が、いたぶる様に追い掛けるという構図が出来上がり、麻衣が三日月の怒気当たりより正気尽くまで、そして慌てて止めるまで、捕まる=死の地獄の鬼ごっこは続けられたのだった。





三日月が麻衣の夢に入ったのは、麻衣が絶叫したのが原因。つまり、寝言で叫んだ事によって、麻衣の夢に誰かが侵入した事が石切丸の調べで判明。三日月が一番神力があるので、麻衣を助ける為に夢へと侵入した。というのが一連の行動の結果である。
ましてや、三日月は麻衣に“じいじ”と呼ばせるくらい、麻衣をめちゃくちゃ可愛がっている。つまり、親バカならぬ爺バカ。暴走するのは当然だし、前回の変態をブチのめしたのが良い例だ。
その結果、ジーンは三日月には何があっても絶対に逆らわない事を決めた。あんな恐怖体験はもうしたくないが為に。
さて、石切丸はといえば、今回のジーンの件に関しては、叱る程度に済ませた。三日月がやり過ぎた為に可哀想に思った事もあるが、教育はしっかり教えないといけないからだと判断した為だ。いくら何でも、異性の女性に対して不法侵入は良くない。だからといって、『お邪魔します』と一声掛けて夢にお邪魔するのも、それはそれで可笑しいが__。
ただ、石切丸が心配したのは、死者であるときちんと理解している霊に関わって、麻衣に何かしら影響が出ないか。その事だけだった。
麻衣の魂を確認した所、影響はないのが判ったので、説教だけに済ます事にしたのである。
所で、何故ジーンは麻衣に逢いに来たのかと問いただせば、彼はナルの事で接触しに来たのだという。
ナルが心配だと。
でも、死んだ事により、生前使えていた力が使えるとはいえ、ジーンからナルに接触出来ない状態になっているのだという事で、どうしようと悩んでた所に、麻衣という存在を見つけたのだという。
ジーンと麻衣の波長が合い、人形の家の事件でジーンが知った情報を麻衣が夢に見たという事もあり、接触したかったと、本人は言った。
「どうして私なのさ?」
「実は、麻衣が見た夢はね、ナルに見せようとしたんだ。夢としてね。そうしたら、何故かナルではなく、麻衣に行っちゃって……。
そこで気づいたんだけど、ナルと僕には双子ともあって“ライン”が存在するんだけど、それがどうやら一段ズレたような状態になっているらしくて、送受信が出来なくなっているみたいでね。そこに麻衣が代わりに受信して夢を見て……、それから、今までの誰よりも何よりも強い霊力を感じた事と、三日月様と石切丸様のような沢山の神様の強い加護を纏っていたから、どうしても接触したくて__」
「つまり、“利用”か?」
三日月の冷めた言葉に、ジーンは俯く。
どんなに繕っても、ジーンがしようとした事は間違いなくそれだ。彼は彼の目的の為に、麻衣を利用としたのだと。
「…否定出来ません。僕は、麻衣に関わる事ができれば、また、ナルと一緒にいれると思って行動しました。僕は、ナルが心配__」
「其方の心情等聞きたくもない。同情でも誘おうとしておるようにしか聞こえぬわ」
「じいじ、落ち着いて」
「三日月、少し黙ろうか」
そうしてジーンをチクチクと罪悪感を煽るように攻めていた三日月は、麻衣と石切丸によって強制的に後ろに追いやられる。
三日月は不満げにしていたが、話が進まないのは困るので、石切丸はジーンに話し掛けた。
「君は、所長くんを随分心配しているようけど、彼には何か力があるのかい?」
「はい。僕とは違い、強い超能力者です。幼い頃から“ポルターガイスト”を起こす事がよくありまして、その力はナル自身を害する程に強いんです。力を使って病院に緊急搬送されるのは良くありました」
「はあ?
ちょっと、それ、コントロール出来ないの?」
「出来るよ。出来るようにしたんだよ。でも、身を守る為に使う、つまり、攻撃や防御するような強力な力を使用とすると、心臓に負担が掛かかり、下手をすれば死んでしまう事になるんだ。僕が傍に居た時は、僕がナルの力を増幅させた事もあって、最低限の力で済んでいたんだけど、今はそれがないから、心配で」
「なる程、それは心配だね」
「無茶はしないんですけど、研究バカなので、それが関わると厄介で危険性も高い以来でも受けてしまうから、もう心配で心配で」
「………」
「リンがお目付役で傍に居てくれているので、ある程度は大丈夫でしょうけど、プライドも異様に高いから、傷付けられて暴走したら例えリンでも、止められないでしょうねえ………」
「………あの子供は、結構問題児なのかな?」
「…………否定出来ません」
「………………そうかい」
どうやら、彼は相当厄介な人物として形成されてしまっているらしい。
こればっかりは育っていた環境によるものだから、__そう考えていた石切丸は、麻衣の発言に目を瞬かせた。



「ナルてさ、もしかして、自分の力を調べたいの?」



麻衣の突然の発言。
実は、刀剣男士にとっては油断ならない。
妙に感が良いのだ。
一例を挙げるなら、麻衣が突然出陣を取り止めた日、検非違使が初めて出現した日でもあった。政府からの緊急事態宣言が来る前に、麻衣は『何か危険な感じがするから、取り止め』と言って、休養日宣言したのである。
こんな感じで、今まで刀剣男士達を守ってきた麻衣の突然の感は、侮れない。その麻衣が言ったのなら、ナルはそうなのだろう。
「自身の力の正体が知りたい。知らないのは、特に自身の事なら余計に気に食わない。違う?」
「ううん、違わないよ。だから、心配なんだ。今のナルはストッパーがいないからね。今も、仕事に集中していて自己管理疎かにしてるみたいだしね」
「バカじゃないの?」
「僕より頭が良いんだけどね。バカなんだよ、ナルって結構」
麻衣とジーンが同時に溜息を吐く。
深く、深く__。
「あっきれた。研究バカ過ぎ。で、そこが一番心配なのね、ジーンは」
「どんなに繕っても、大元は其処だね」
「じゃ、まどろっこしい所を省くと、ナルは無茶して暴走する場合があるから、其処を気を付けて見守って欲しい。て、事?」



いや、それ、随分端折り過ぎてないかい?



石切丸は思うものの、二人の会話は進む。
「うん。そんな感じ。
無茶したら、力ずくで止めて欲しい。普段は理性的だから心配ないけど、プライドが傷付けられると、自分の命を二の次にするから大変なんだ」
「分かった。ジーンの頼み、聞いてあげる。その代わり、調査の時は協力してね。こっち関係素人だから」
「僕の知識でよかったら、協力するよ。ありがとう、麻衣」
何気なく強かに協力要請まで結び、とんとん拍子であっという間に決まった事に、石切丸は頭を抑えていた。三日月などはもう、機嫌は最悪だ。
確かに、この二人が当事者であるし、第三者である石切丸と三日月がアレコレ口出す訳にもいかない。が、麻衣が傷つくのも避けたい。
多分、“予感”だ。
麻衣とジーン、そしてナルの三人が関わる事で、きっと何かが起きる。
それが、麻衣を傷つけるかもしれない。
それが、とても心配。
石切丸と三日月は互いに顔を見合わせて、その予感を互いに察している事を知ると、ただ頷いた。
その予感は、__当たる事になる。
麻衣は、深く悲しむ事になる。しかし、それはまだ先の事。
一人の少女と一人の少年と一人の幽霊は、まだそれを知るよしもない。
だが、始まりであった__。




刀剣達は、ただ守ると決めたあの日から、変わらない。
今も__。
これからも__。







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