刀剣乱舞 クロスオーバー

バレンタインのチョコフェアを行っているとあるデパート。
十階建てのデパートの九階全フロアを、世界のブランドチョコから国内有名なパティシエや老舗のチョコを多く取り揃え、喫茶コーナーやBARでチョコメインのメニューを楽しめたり、イートインスペースにて買ったチョコを食べる事が出来るようになっているこのイベントに、三年前から毎年ある二人の青年が一日のみ、来店している。その青年とは、アイドルやモデル顔負けの容姿端麗な二人組だ。
別に、イベントの責任者が売上に貢献してもらいたいがために仕事を依頼した訳では無い。全くの無関係だ。雑誌やテレビ・ネット等、全て探しても痕跡等出てこないのだから。お陰で、イベントを担当する事になる女子販売員達の志願率は、年々恐ろしいと感じる位に鬼気迫る勢いな上、売上も恐ろしい程上がるのである。
何せ、女性の一般客や女子販売員達は、一目で心を奪われ恋情を抱き、男性でも一目視界に入れてしまえば、見惚れてしまう程その青年達は、たいへん見目麗しい。眉目秀麗とは彼等の為にある。
イベント中、その青年達がいつ来るかは分からない。だが、二年間平日の午前中に来ていたので、今年もそうだろうと店側は憶測を立てていたいたので、そこに狙いを定めていたり、来場客の入りも多いのもそのためだった。
だったのだが──。
今年は平日の午後に、それも一人の小柄な女の子を連れてやってきたものだから、さあ大変。
あわよくばお近づきになりたい女性陣は、絶望感と煮えたぎる程の嫉妬心を抱いた。
「妹よ、大丈夫かい?」
「大丈夫だよ。ごめんね、アドバイス欲しくって」
「構わない。先に喫茶コーナーに行くか?確か、妹好みの可愛いラテアートが施されたカフェセットがあった筈だが」
「あ、僕は」
「アフォガードだろう、兄者。俺はジェラートにするか」
「パフェもいい?」
「可愛い妹のお強請りだからね、いいよ」
「やった」
とそんな会話をしながら、三人は揃って喫茶コーナーの入口をくぐった。
どうやら彼等が連れた女性は【妹】らしい。
荒ぶったこの場に居る女性達は、内心安堵の溜息をついた。現金なものだ。妹に対して決して口では言い表せない暴言を頭中で吐いていた癖に。
そんな陰の気に当てられた妹の具合が悪くなったのを察した二人は、態と【妹】発言したのである。
さて、会話で解るかもだが、青年二人組の正体は【髭切】と【膝丸】だ。此方の源氏兄弟、物凄くチョコレートが大好物なのである。
顕現したのが冬の季節であり、この時期のチョコレートはバレンタインデーが近い事もありで、何より冬チョコは美味なものが多く販売しているものだから、源氏兄弟はチョコレートの虜になってしまったのだ。
バレンタインの時期になると、色んなチョコを物色して買ってくる。顕現をしている刀剣男士全員の分も買ってくるので、大変喜ばれていた。昨年は短刀男士に人気だった惑星チョコは今年も買う事が決定。酒飲み男士はボンボンで決定している。他の男士は今年のラインナップを見て決定するつもりでいた。
麻衣はといえば、実はバレンタインのチョコを買う為に来ている。それも“本命チョコ”をだ。高校最後の一年の終わりに、恋人という新たな関係を持った谷山麻衣と、ナルことオリヴァー=デイヴィス。初の恋人とのイベントに、麻衣は『流石に手作りを作って不味いなんて言われたら、嫌』という乙女心故に、無難に買う事にしたらしい。ただ、まあ……、そんな事を言ったら最後、全ての刀剣男士を敵に回すが──。というか、ナルがそんな台詞を口にするワケ無いだろう、と男士達は思っているのだが、乙女心は難解で複雑なのだろう。
「──で、買うチョコはだいたいは決めたのか?」
パフェを堪能していた麻衣は、膝丸がテーブルに広げたフロア地図の、ある一角を指さした。
「ここにしようかなって」
そこは、バレンタイン仕様にした和菓子を商品として売り出している、和菓子の老舗が出店している所であった。
三店あるので、その中から選びたいと麻衣は告げる。
「──ああ、所長殿はベジタリアンだったな?」
「そ。だから、和菓子で攻めようと思って。
それに、歌仙さんが作った練り切り、残した事ないんだよね」



((初期刀くん(歌仙殿)に頼べば早いと思うんだけど(だが)……。これが複雑な乙女心というのかな(というやつなのだろうか)?))



「………歌仙さん、抹茶チョコと餡チョコは作れるけど、配合が極め過ぎて逆に過程が怖い」
「……鬼気迫ってるよね(そっちなんだ)」
「……反論は無い(そっちか)」
「後、材料にミルクが入ってる」
「「それは駄目だね(だな)」」
「現在豆乳で誠意製作中。だいぶ拘ってるから、頼むなら来年だよね……。みんな味見で胸焼け起こさなきゃ良いけど」
「………甘党男士以外は逃げてると思うぞ」
「明日は僕達も付き合うけどね」
「明日は、我等の他から一文字から山鳥毛・一文字則宗、長船からは小豆長光・謙信景光だったか」
「………ガチ勢すぎ。本気度合い半端ない」
今あげた刀剣男士は甘党男士の一部ではあるが、分野はそれぞれ違う。
一文字派は和菓子が好きで、特に季節の和菓子(練り切り)を好んでいる。
長船派は洋菓子を好み、作るのも食べるのも好き。小豆長光は生洋菓子、謙信景光は飴細工や焼菓子を特に好んでいる。
他にも、包丁藤四郎は駄菓子を、鶯丸は抹茶菓子、大倶利伽羅はずんだの和洋菓子というピンポイントで好む男士も居る。
「燭台切も本気でやる気満々で分量見極めてるから、当日は期待して家に連れ帰ってくるといい」
「ナルも家に来る度に泊まるし、……、いっその事居候すればリンさん安心するんじゃないかな。主に健康的な意味で」
「あははっ。そっちなんだ」
「だって、食事抜いたり徹夜で研究だのレポートだの論文だのするじゃない。近い内に所長室で倒れそう」
「まあ、しそうだよね」
「否定できんな」
うんうんと頷いているあたり、髭切も膝丸も仕事中毒の彼に対して思う所があるのだろう。まあ、最近は刀剣男士達がナルを麻衣の伴侶と認めたのもあり、気にかける男士達も多い。
「近い内に渡英するのだ。あちらの御夫妻にも許可をもらったほうが良いな」
「それは当然だけど、……夜会がなぁ……」
「頑張って」
「お兄ちゃん…、留守番だからって、楽しんでない?」
「歌仙殿と長谷部殿が居るから、安心しているからな」
「後、陽光君もね」
「日光殿だ、兄者」
「…ありゃ」
日光一文字は、今回の夜会に招待された麻衣の専属護衛を任されている。
夜会に招待された理由として、ナルが自分の婚約者となった麻衣を周知させる為だ。
主催者は公爵様でナルのパトロンであり、研究所の支援者でもあるので、ナル自身が紹介するのは当然義務がある。
勿論、公爵様にも友好関係が多岐に渡るので、様々な人がその夜会に招待されていると判断。遜色無くその場の空気に馴染む、一文字派か長船派に白羽の矢が立ち、補佐役に慣れている日光一文字が選ばれたという訳である。──くじ引きで。
因みに一文字派は一文字則宗が、長船派は大般若長光と小豆長光と福島光忠が候補に挙がっていました。
さて、そんな会話を交わしてしたら、『妹さんは、英国貴族様に見染められ、近々渡英する』というのが、店関係者に広まる。
妹さんが渡英するから、思い出作りにイベントを出汁に一緒に買い物に来たのね、と勝手に思った周囲は、邪魔しない様にしようと意識して、邪魔にならないよう道を譲ってあげたのだった。





【おまけ】


「ナル、バレンタインのプレゼント、ね」
「──ああ。日本は、そう、だったな」
「ん?」
「……………僕からだ」
「…………………へ?
あ、ありがとう////」
「いや……。…………帰るんだろう、早くしろ」
「ナル、照れてる?」
「………………麻衣」
「ふふ。
ねえ、薔薇三本の意味、調べていい?」
「好きにしろ」



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