刀剣乱舞 クロスオーバー

「あれ?
…………向日葵ちゃん?」
「あ、杜糸。
あれ?何でいるの?」
「いや、それこっちの台詞なんだけど?」



「「アレ??」」



互いに首を傾げる二人だった。





まず、【向日葵】こと谷山麻衣。
彼女は、静岡県のとある場所に来ていた。もちろん仕事で。
この家を買った依頼人が、心霊現象に悩まされているからだ。
世帯主が幽霊など信じない気質の人間なので、科学的に調べてくれる此方を紹介してくれたと、依頼人である奥様が言っていた。因みにその紹介者は、広田正義なので事務所の全員で『ああ、同類ね』と納得したものだ。
余談だが、広田は刀剣男士を未だに人間と勘違いする。特に脇差しと短刀勢を。麻衣の式神と認識はしているのだが、あまりにも人間染みている為に。
偶に頭を抱えて陰を背負ってしゃがみ込み、ブツブツ言うのは良く発生する事象である。




話を元に戻し、次に【杜糸】こと田仲俊彦。
彼は、他校への練習試合への帰りである。
掛川高校三年、サッカー部主将神谷篤司が高校を中退、イタリア──セリエAへと旅立ち、新たに主将となった二年平松和広を中心として、新たなスタイルを模索する為、練習試合を繰り返して日々研磨し続けている。暫く前までスランプで負け続けていたが、久里浜との練習試合でスランプを脱する事が出来たので、心に余裕が出てきた所だ。
今回の対戦相手は、地区大会予選が同じ学校である県内の高校であったという訳で、トシの周りには掛川サッカー部一同が揃っていた。
そして麻衣の方は、傍に居るのはにっかり青江である。
長髪で、左右非対称の瞳の色。大学生位の青年。カジュアルな服装で、手にはバインダーと、機械を持っている。
「向日葵ちゃん、今日は青江なんだね」
「仕事中だからね」
「久しぶりだね、杜糸殿」
「久しぶり」
杜糸に挨拶し、青江がにっかりと微笑む。
容姿端麗な青年が微笑んだ為、一緒にいるマネージャーの二人は頬を薄らと染めてしまう。
「ところで、相変わらずなのか、青江?」
「キミと濃密な一日を過ごした事がある青江というのが僕を指しているのなら、これで答えになるかな?」
「…………うん、相変わらずだな」
しみじみと、額を抑えて頷くトシ。
「………………………………………………………トシ」
ギギギ…と音が聞こえそうな程、トシの部活仲間全員の視線がトシ本人に集中する。
面倒な事に、と、トシはジト目で青江を睨む。
そんなトシの態度に、ちょっと困ったな風を装ってから青江はサラリと真実を告げた。
「サッカーを教えて貰ったんだよ、小さい子達と一緒にね」
「…………………………………………………そうですか………………」
「何を想像したかは聞かないけど、杜糸殿に失礼だよ」




“いや、アンタの所為だろ!!”




にっかりと笑った青江に、麻衣と杜糸を除く全員が心の底からそう叫んだ。







「谷山さん?
賑やかですけど、お知り合いですか?」
そこへ、いつの間にか戻ってきていたのか。情報収集に出ていたアルバイトその2、安原修が帰って来て(因みにアルバイトその1は麻衣である)、何時ものように食えない笑みを浮かべて尋ねてくる。油断は禁物、なバイト仲間だ。
「そうだよ。僕のお姫様とは特別な関係でね。ああ、友人という意味だよ」
「おや、そうですか。隅に置けないですねえ、谷山さん」
ニコニコ笑顔で微笑み合う安原と青江に、頬を引き攣らせる一同。しかし、麻衣とトシはサラリと躱して、囁き合う。
「青江みたいな人だね」
「癖ある大学生だからね。因みに高校生の時の渾名が【越後屋】だよ」
「ああ、成程」
距離が近い二人に、トシに恋情を抱いている一年のマネージャーが割って入ろうとしたが、それより先に安原が、麻衣に言葉を投げ掛けた。
「谷山さん、所長という人がありながらその距離感は駄目だと思いますよ」
「?
杜糸は友達(=審神者仲間)だよ。それに、杜糸、恋人(=婿)いるよ。ね、青江」
「そうだね。
見てて微笑ましい光景だよね。今二人がした光景なんて、良く見る程に恋人としてたよ」
「……………否定はしないけど、大っぴらに言わないでくれないか。と言うか、バラすなよ」
軽く頬を染めて文句を言うトシに、青江は麻衣と微笑み合いながら『だって、ね~』『ね~』と楽しそうに頷き合う。
その事で、平松和広と白石健二の二人は、麻衣がトシの恋人の正体を知っているのを知る。それに祝福しているという事にも。だからあんなに仲良いのかと思っていると、トシが顔を赤らめながらも更に詰め寄った。
「そ・れ・よ・り・も!
ちょっと聞き逃せない台詞聞いたんだけど。『所長というものがありながら』って、何?向日葵ちゃん、彼氏できたの!?」
「え?
あ、あははははは………。ん、実は………(照)」
「…………マジ?」
「うん。えへへ(照)」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ええええええっっ!?!?!」
「そんなに溜めて驚く事!?!」
「彼氏は五体満足無事!?!」
「無事だってば!!」
「……………………よかった。本当に良かった。(;▽;)」
「泣いて喜ぶ程なの!?!」
大げさに驚いたと思ったら、今度は神に祈るかのように手を組んで、泣いて喜ぶ姿に、麻衣は思いっきりツッコミを入れた。
「だって、アレじゃない。向日葵ちゃんの過保護組、向日葵ちゃんに近付く男性に容赦ないじゃん。俺も初めて会った時、威嚇されたし」
「あ~……」
「それに、過保護四天王が易々と認めないでしょ?」
「…………………うん。大変だった」
「やっぱし」
アレだもんなぁ………と、遠い目をするトシに悪気は無く、至って本心からだ。
彼等は麻衣に過保護である。それ故に、“麻衣に手を出すなら、俺達に勝ってからにしろ”を地で貫くのだ。
つまり、生身で刀剣男士と闘えと言っている様なもので…………。



──恐ろしい………。:(´◦ω◦`):ガクブル



そこでふと、向日葵の兄弟子であり義兄の昴星を思い出し、トシは早々に訪ねた。
「…………そういえば、昴星は知ってるの?」
「…………知らない」
「!!
向日葵ちゃん、それマズイって。昴星、“シスコン”だよ。例え軽度でも、“シスコン”。シスコンなんだよ」
「そこまで“シスコン”“シスコン”連呼しなくても………。間違ってないけどさぁ」
「血の雨が降る──」
「降らないよ!!」
「………あの~、谷山さん。お兄さん居たんですか?」
暗に、刀剣男士の他に兄的立場が居たのかと言う問いに、麻衣は肯定で返す。
「いるよ。全く血は繋がってないけど。
私の“義兄”で、杜糸とは“親友”なんだ。昴星経由で知り合ったんだよ、杜糸とは」
「俺には親友が三人居まして、二人は今此処に居る健二と和宏なんですけど、もう一人が昴星。因みに昴星、軽度ですけど“シスコン”です」
「そ、そうなんですか…?」
「大丈夫ですよ、向日葵ちゃんを悲しませるようなことはしないです(だぶん)。……その、所長さんには…………ま、頑張れ、と」
「あ、はははは…………。応援、ありがとうございます(汗)」
引き攣った笑いを浮かべた安原。
ただし、あのナルと喧嘩して勝てるのだろうか?と、会ったことの無い昴星を心配してだが。
「じゃあ、俺、そろそろ行くね。仕事中にゴメンな」
「気にしないで。今度の大会、頑張ってね」
「おう。
今度、休みの日、皆と行くわ」
「その時、彼氏紹介するね」
「楽しみにしてるよ、じゃあな」
「またね~」
そうして別れの挨拶を交わして、麻衣と杜糸は別れた。






杜糸サイド


和宏は、俊彦の言葉で気になる箇所があったので聞いてみる事にした。
「なあ、トシ。向日葵さんて、そんなに彼氏出来ると驚く事なの?」
「ん?
…ああ、向日葵ちゃん、周りが過保護なんだよ。付き合いたかったら、俺達に勝ってからにしろ、みたいな感じで。脳筋な所がある所為か、物理だし。それなりに武道でも嗜んでないと危険じゃないかなあ…?
後、昴星は頭良いから、それなりに学がないとなあ。彼奴、大学受験の問題集、満点叩き出したからなあ。今気付いたけど、………文武両道じゃないと無理かな………これ……。(;・∀・)
という事は、向日葵ちゃんの彼氏、文武両道?所長て言ってたから、年上?まあ向日葵ちゃん、見た目とは裏腹に大人顔負けの一面あるし、しっかりしてるしな……」
「トシ、トシ、お~い」
「ん~、……………………よし、乗り込むか( •̀ω•́ )✧」
「ちょっとトシ、何言ってんの!?」
「ん?ちょっと向日葵ちゃんの彼氏見に行こうかなと。明日部活休みだし、三日月の差し入れ持参で。仕事の邪魔するのはまずいから、長居はしないでおこう。あ、連絡しとかないとな」
ものすごく楽しそうにしている俊彦に、一年のマネージャーである女の子が戸惑いながら、声をかける。
「トシ先輩、こ、恋人、いるんですか?」
その表情は強ばっていて、焦りもみえていた。
それはそうだ。片想いしている意中の男に恋人が居ると、それも親密であると、全くの赤の他人である女性から聞いてしまったのだから。
それに関しては、和宏と健二以外の部員達は寝耳に水の話だが、だが俊彦の態度に思う所があったのか納得したのも早かった。何せ、彼女にモーション掛けられても、俊彦は一定の距離を保っていたり、時には断りを入れていたから。それに、驚いていない和宏と健二の態度に、二人には紹介済なのも察した。
「いるよ」
「そんな…」
サァ……と顔を青ざめる彼女。
「な、納得出来ません」
「……」
俊彦の表情がその途端掻き消える。真顔で纏う空気さえ重くなった様に感じてしまう。彼女なんて、見るからに真っ青だ。
「君に何故納得してもらわなきゃならないんだ?」
「それはっ!」
「俺と君の接点は【サッカー部のマネージャー】と【神谷さんの妹】だけだよ。それ以外はない。プライベートで関わるつもりは無いんだから、話す必要ないよね。
私が貴方を好きだからとか、そんな一方的な理由で、何でも許されると思っていたの?だったら心底軽蔑するけど」
普段の俊彦とは違う、冷めた瞳が縮こまった彼女を見下ろす。そこに普段の優しい色はどこにも無かった。
「神谷さんの妹だから無下にはしなかったけど、ほんと…………どうしてくれよ───」
「トシ、タンマッ!」
「ちょっとこっち来いっ!」
「うわっ!?」
「「お先に失礼します!!」」
俊彦を引っ掴んで、和宏と健二は連れ去る様に駆け出した。
唖然呆然と残ったサッカー部一同。和宏の彼女である遠藤は、駆け出した三人を呆れながら溜息を吐くと、好きな人に振られて泣いている後輩マネを慰めるのだった。


「バカヤロ、隠してる本性だしてどうする!」
「神谷さんの妹ってだけで図々しいこと言ったからだよっ!(俺の旦那様を否定するとはいい度胸だぁ(怒))」
「威圧感半端ないよっ!」
「……むぅ。───二人共、わかってるよね?」
「あ~、はいはい。美香ちゃんを近付けるなって事だろ」
「まあ、こればっかりは自業自得だしねぇ。可哀想だけど、仕方ない。一美さんにも伝えておくよ」
二人の言葉に俊彦の怒りが収まったのか、不穏な空気は霧散する。
全力疾走で俊彦の家に走っていた足を止め、三人は歩きに変えたのだった。


「──大塚先輩に妹さん慰めるようにしておいて」
「ああ?」
「え?」
「大塚先輩、妹さん好きみたいだから。慰めて男気上げたら告白して堕せって」
「「黒いわΣ(゚д゚lll)!?」」



麻衣サイド

モニターを監視をしていたリンが最初に気付き、カメラのマイクから音を拾う。
一緒に部屋にいてレポートを見ながら状況を検分しているナルと、霊の反応のあった部屋から戻ってきた滝川の三人が、麻衣と麻衣の友人らしき人物の会話を聞いていた。
「おや、杜糸殿だね」
ナルの護衛をしている二振り内の一振り山姥切長義が現世に顕現して、何者かの正体をあっさり告げる。
「【としどの】?」
「主の御友人だよ。安心するといい所長殿」
「……そうですか」
表情には全く持って出てないが、長義にはナルがからかわれてムスッとしたのが丸わかりであった。
「おやおや、可愛らしい反応で。
それでは、失礼するよ。
──ああ、そうそう主の義兄殿を攻略したいのなら、シャーロック・ホームズをお勧めするよ」
ちょうど杜糸が“麻衣の義兄”という存在を口にした映像だったので、長義はアドバイスを告げてから顕現を解いて消える。
ナルを簡単に手玉に取る長義に、強いと内心冷汗をかいたリンと滝川は、長義の言葉の意味が解らず、何故シャーロック・ホームズ?と首を傾げたのだった。


「シャーロック・ホームズ?」


お茶休憩中に滝川に尋ねられた麻衣は、首をコテンと傾げる。
「そうそう。長義さんが『おすすめだ』って言ってな」
それでピンときた麻衣は、昴星がシャーロック・ホームズマニアという事を教えた。
「昴星、何度も読み返しているくらい好きだからね。成人したらイギリスに行って聖地巡礼したいとか言ってたもん」
「…………ん?
あ~、もしかしてナル有利じゃね?」
「確かに、コナン・ドイル著書【シャーロック・ホームズ】は有名ですから。私も読んだ事あります。書籍も直ぐに手に入りますね。手配しておきます」
直ぐに動いたリンは、ネット通販で即座にシャーロック・ホームズを全巻仕入れる。後は配達されるのを待つのみだ。
ナルはイギリス国籍の人間だが、仕事中毒もしくは研究中毒人間なので、自国で有名な【シャーロック・ホームズ】の名前は知っていても、超常現象の研究には関係ない書籍など興味は無いし持ってもいないだろう。
「……」
確かにナルは持っていない。
勧められたことはあるが、そんなもの研究に何の役にも立たないから触れたことは無い。そういえばジーンが養父から借りて読んでいたな。その時の事を思い出して、ナルは顔を更に仏頂面にした。
「何、またジーンとの出来事思い出したの?」
「………別に」
「はいはい。早く仕事しろ、でしょ。図星刺された位で八つ当たりしないの」
「………麻衣」
「おやおや、所長殿。多少奥方の尻に敷かれる位が、夫婦円満の秘訣だよ。恥ずかしがらず主に甘えても、何の問題も無いからね」
「………別に…」
「主に八つ当たりした時点で、主に甘えているよ。自覚あるんじゃないのかい。
まあ、今すぐ主と夫婦になりたいなら、二人きりにしてあげようかな?」
「今は仕事中です」
「おや、主と二人の時間は欲しいのは否定しないんだね」
にっかりと笑ってナルをからかって遊ぶ青江に、滝川・リン・安原の三名は隅の方に寄って、物理的に距離を置いた。因みに麻衣の背後に周るのは、対ナル用最終手段だ。


麻衣の刀剣男士式神怖え~……。


正直な感想である。
その主の麻衣といえば、青江を窘めている所だ。
その後、ナルの機嫌を回復させている。手際がいい。
「谷山さんじゃないと、ナルはもう駄目ですね…」
しみじみ呟くリンに他二名が同意とばかりにうんうんと頷く。
「リンさんや、何がなんでもナルにシャーロック・ホームズ読ませにゃならんな」
「ええ、心得ました」
大人組は真剣に頷き合う。
安原は何故だか微笑ましいなあと感じて、一人笑ってしまうのだった。




「ナル、犯罪卿に興味持ちそうな気がする」
「昴星殿が言ってたシャーロック・ホームズのライバルで、ジェームズ・モリアーティ教授だっけ?───おや、構図としては、まんまだね」
「あ~、ナル、教授だもんね……」
「おやおや」



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