刀剣乱舞 クロスオーバー

翌日、本格的な調査の前に、事前に関係者達から話を聞こうと、湯浅高校に向かった面々。勿論、滝川も一緒に、だ。
麻衣は、車から降りる時に長曽根虎徹と御手杵を現出させた。さも最初から車に乗っていたように装えるように。端から見ていたその場に居た関係者の面々は、驚き通り越して最早慣れてしまっていたが__。因みに、ナルは溜息零していて、それを耳聡く聞いた麻衣もまた、溜息を零したりする。心情を訳して言えば、『記録したかった』『いい加減にして』というやり取りだ。
そうして、玄関口に向かって歩いていた面々だったが、ふと麻衣が足を止めた。その目は校庭の生徒達から学校に映ってからだったが、眉を顰めている。
「………どうしたんだ、お嬢?」
学校を見上げたまま、麻衣が動きを止めたのを見て、御手杵もまた足を止め、不思議そうに声を掛ける。
「あ、うん?
ん~、んん?」
「主?」
麻衣は首を傾げながらうねっていて、御手杵の問い掛けに応えない。
「仕事中は『お嬢』だろう、御手杵」
「だけど、長曽根…」
「お嬢、どうした?」
麻衣の斜め後ろを歩いていた長曽根は、彼女の隣に立った。
「………ん~、なんか…、変」
「「変?」」
麻衣の言葉に、長曽根と御手杵が顔を見合わせる。
「……………こう、貼り付け?違うな…?………ん~、捨て置き…置き捨て…か、な?」
「『な?』って…」
「…………まあ、注意しておこうか」
何時の間にか、ナルとリンと滝川は玄関口に向かって歩いていて、長曽根は麻衣の背を軽く叩いて、歩くように促す。
「行こうか、お嬢。置いて行かれるぞ」
「あ、そうだね。行こうか、長曽根さん、御手杵さん」
三人は歩き出し、先に行った三人を追って行った。







湯浅高校の三上校長から改めて挨拶をされ、一同は生徒指導の吉野先生に案内を受け、校長室から出た。向かう先は会議室。そこが調査中の拠点となる。
麻衣は仕事のファイルと筆記用具を取り出す。
そして放課後になり、相談者が現れた。
生徒達や先生。そして、事務所に来てくれた三組の相談者と、直接滝川に相談した相談者。
その中には、余り気にならないものや、大事になったものまであった。
「普通、学校の怪談なんて七不思議なんだけとねえ……数多いわ~……」
「七不思議?」
麻衣の言葉に、御手杵は首を傾げる。
学校の定番だと麻衣は言うが、何故【七不思議】となるのかは、彼女もまた深くは知らない。ただ、自分の通う学校にもあることは知っていたが、それだけだ。
「お嬢はどう思うんだ?」
長曽根は依頼内容を思い出すと、そう問い掛けて来た。
麻衣は、少し考えて首を振った。
「『違う』と、思った」
「『違う』か」
「…………漠然的だな、お嬢」
「…………仕方ないじゃん。そう思っただけだもん。でもさ、二人は何か解ったんでしょ?」
「大半は、気のせいだな」
「うんうん。他は、何か……ムカツク感じがなぁ……」
「そうだな。ドロッとした感じがした」
「………………つまり?」
「「【怨】」」
「成る程」
「………あのな、麻衣よ。全く解らんのだが、詳しく教えてくんないか?」
ナルとリンとこれからの対策を話していた滝川が、ファイルを解りやすく纏めていた麻衣と刀剣二人の会話に混ざってくる。
「簡単に言うと、霊が関係している感じがしないという事だ」
長曽根の言葉に、滝川の頭上に?マークが数個浮かんだ。
相談者からの内容はどう考えても、霊が関わってるような感じがするのに、だ。
「俺達、これでも“神”だぜ。そういうの位簡単に解るさ。でだ。さっき、依頼者の中に何人か、黒い靄に纏われたのが居たんだ。まあ、俺たちと同じ空間に居たことで、弱いやつは祓われちまったけどな」
「まあ、問題はそこじゃない。問題は、【黒い靄】の方だ。原因迄は知れんが、随分【怨】が強い」
【怨】は怨み妬みなど負の私怨。人間の念である。それは時に、死を招く程強い。死霊ももっているが、今回は“生きている人間”の【怨】。
つまり、【呪詛】。
これが厄介でなくて、なんとする。
先ず上げると__。

一・目的が判らない事。

対象に共通点がない。学校という共通点は有るものの、それだけでは信憑性が薄い。

二・犯人の存在。

学校に関わる者全てが、犯人だという疑いが持たれてしまう。
依頼者や相談者、靄があった者達は犯人から除外されるが、それでも数が多い。

三・呪詛の問題。

確実に素人の域は脱している。
回数をこなしているなら、厄介になってくるのだ。慣れはもとより、罪悪感も薄れているか、無いだろうから。


以上、三点。
そして、【呪詛】という言葉に、ナルとリンが食いつく。
「其処まで分かるのか?」
「呪詛の種類は解りますか?」
その言葉に御手杵と長曾根は首を振った。
「先ず、其処までの知識が俺達にはない。だが、【呪詛】に関しては経験が在るから解っただけだ」
「経験?」
「主が呪詛を受けた事があって、それを返しただけだよ。其奴は、死んだけどな」


(難民でブラックだったもんね~)


麻衣はその時を思い出す。
偶々演練で鶯丸を連れて行ったら、難民に絡まれて『よこせ』言われて、断ったら怨まれただけだったけど。まさか呪詛を掛けてくるとは思わなかったが。
同じ審神者をやっていただけに、物凄い負の影響が麻衣に襲い掛かり、御神刀が揃っていたから助かったようなものの、でなければ死んでいたそうだ。そうして、練度も高い御神刀ズが呪詛返しを行った処、その審神者が死んでしまったという訳である。自業自得であるとは、石切丸の談だ。
その後、暫く演練に行くのは中止となりました。こんのすけが、安全の為政府に免除を申請してくれて、健康診断を受けられるよう準備もしてくれたのである。
体力が著しく落ちているだけで、暫く安静にしていれば問題ないと医者から診断され、本丸にこんのすけと歌仙と共に戻れば、何故か暴走組が縛られて居間に転がされていた。後、血の気多い組がヤケに疲れていたし、冷静組が一仕事したって感じで、爽やかな笑顔で汗を拭っていたりと__、何があった!?と、歌仙に支えられながら思った麻衣だった。(因みに歌仙とこんのすけが麻衣に見えない様にGJしていたのには気付かなかった)




というわけで、呪詛に関しては多少の知識がある程度であり、詳しく知っている御神刀ズは今回表に出て来る気は無い。麻衣が呪詛に掛けられれば別だが、其処まで関わる気は今の所ないらしい。
「ちょっと待て!
麻衣よ、お前さん、呪われた経験あったのか!?」
「あったよ。まあ、昔の話だし、もう終わった事だよ?」
麻衣は用意したお茶で喉を潤す。
そりゃあ、呪われた事に怒りが無かったわけではないが、死んでしまったのではしょうが無いじゃないか。それよりも、その後が大変だったので、麻衣にしてみたら完全にどうでもいいらしい。あっけらかんと、答えた。
「今時いないくらい良い子なのになあ………、苦労したんだなあ………」
滝川が何か勘違いしたらしく、同情して麻衣の頭を優しく撫でる。今の彼の気分はお兄さんだ。そして麻衣は特に何も言わず、放置した。何せ、審神者時代の事だから、詳しく話せない内容なので。
そうして、打ち合わせは多少の脱線はあったものの、明日の仕事内容の方向性を決めたのだった。





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