刀剣乱舞 クロスオーバー

新たに仲間になった刀剣男士、山姥切長義。
麻衣の本丸にも彼はやって来た。
勿論例の如く、山姥切国広を“ニセモノくん”と呼んだ彼。その彼は現在、執務室内で麻衣の目の前に正座しており、麻衣といえば涙を堪えながら彼を睨んでいた。
「山姥切さんの馬鹿ーーーっ!!」
流石に涙目で睨まれては―――と、長義に反論できるはずもなく言葉に詰まる。──決して、その後ろの、絶対零度の視線で睨みつけ、柄を握り締めて今にも斬り掛からんと構えをとっている歌仙兼定・へし切長谷部・薬研藤四郎(よくも我らの主を泣かせたな(怒))に怯えた訳では無い。断じてない。
「国広さん、“ニセモノ”じゃないよ。“写し”だもん。ずっと、自分の本歌が凄いって教えてくれたもん。本歌が凄すぎて俺何かが【山姥切】を名乗るのは間違っているなんて言ってたくらい、本歌を自慢してたのにーーーっ!!」
「あ、主?!」
「本歌の写しとして、本歌が誇りに思える位強く気高くなりたいって言ってた「主、それ以上は言わないでくれーーーっ!!」やだ、言い足りないっ!!」
真っ赤になって主の言葉を止めようとする国広と麻衣の攻防が始まる中、本歌である長義といえば、此方も真っ赤になって、居た堪れないのか瞳をあちら此方に泳がせていた。
「【写し】って、本歌が素晴らしいから生まれるんでしょ。て事は、本歌である彼は、政府で働ける程優秀なんでしょ。だったらちゃんと理解してない訳ないじゃない!ニセモノって“山姥切長義”を名乗るって事でしょ。山姥切国広って名乗ってるもん。山姥を斬ってないって言ってたもん。詐称もしてないもん。酷いよ!!
国広さん、本歌の事、昔から大好きのに!!」
「主、ステイッ!!シャーラップッ!!!」
「国広さんがおかしくなったーーーっ!!」
──と、何故か混沌と化してきたのを感じ、歌仙が抜刀の構えを解き、息を深く吐く。
「──さて、山姥切長義殿。
少し、話そうか」
歌仙は座布団に座り直し、長義と向かい合う。
「山姥切国広本人から、君の話は良く聞いたよ。君が居るから彼は作り出された。その事は、彼の在り方であり存在する定義であり、己の根源だ、とね。
僕達はね、国広が君の話をする時の、その姿を見てきた。嬉しそうに楽しそうに自慢するように、本歌の君の話をしていたよ。誰が見ても、本歌が大好きだと分かるくらいにね。
──本題に入ろう。何故、山姥切国広を“ニセモノ”と呼ぶんだい?」
「……俺という【本歌】の存在を食らおうとしているからだ」
「山姥切国広が、かい?」
「そうだ」
「何かそう思わせる出来事があった、という事かい?」
「──彼自身がした訳では無いのは分かっている。しかし人間は、あやふやになった伝聞や物の歴史から本歌と写しを混同させたりと、曖昧な知識の所為で俺が揺らいでいくのを止められない。そうした結果が、俺を政府所属の刀剣男士にしたんだ。揺らいでいた俺を政府の審神者や陰陽寮の術士が繋ぎ止めてくれて、その対価に監査官や他の部署に、俺という刀剣男士が働いていた。その結果、政府に働いている人間は、山姥切の刀は山姥切長義という認識が根付いた事に加え、聚楽第の任務によって、本丸への顕現も可能となった。
初期刀として何故写しが選ばれていたのか、分かるかい?これも、認識を改める為でもあったんだ。なのに、初期刀に山姥切国広を選んだ大多数の審神者ときたら、山姥切の称号は山姥切国広と言い聞かせるわ、本歌より山姥切国広の方が立派な刀だとか、その他にもまあ色々やらかしてくれてねえ。
──巫山戯るな。審神者が山姥切国広を本歌喰いの刀に引き摺り落とす気か、この審神者の面汚しが!!
という理由の元、先ず山姥切長義の腐れ縁である南泉一文字を尖兵として送った。何せ、南泉は俺と長い付き合いがあるし、誰よりも本歌と写しに詳しいからだ。その後俺が実装された時、南泉から情報を受け取り、その情報を元に対策をとる。政府に戻る場合もあれば、俺がそれが出来ない場合は、南泉がそれを担っている。南泉が居ない本丸では、情報を受け取るこんのすけが担っているね。
最悪な事に、本歌喰いの山姥切国広が審神者によって生まれてしまった事例があるから、厄介なんだ」
「──それは、僕らが聞いても良い話かい?」
「問題はない。
元々、内容に規制はないからね。
主である向日葵殿に関しては、政府より情報公開の規制が緩和されているのも背景にはあるが、黒丸対策の監査部所属の俺がこの本丸に来たのは、主が何度かそういう輩に絡まれた報告が管理部経由で届けられていたから、その対策も兼ねて政府が俺をこの本丸に行くように指示したんだ。
──主。
山姥切国広への【ニセモノ】呼びは、もうしないと約束しよう。
貴方は本当に、鋭い。その第六感が敵に悟られ知られてはならない。俺を認めなくても構わない。だから「やだ」……え?」
「何で、他人行儀で自分の心を置くの?
山姥切さん、この本丸で私達と戦ってくれる仲間になったんだよ。認めなくても構わないなんて、本心じゃないのに言わないでよ」
「南泉さんの事だって、どうせ自分が罰を受けるとか言うつもりでしょ」
「……」
「私、楽しみにしてたの。山姥切さんから【山姥切長義】の話を聞くの。本当に本当に、楽しみにしてたの」
「主…」
「だから逃げるのは許さないから。
逃がさないもん。絶対お話聞くんだから。一緒に暮らしてくんだから。馴れ合うんだから。兄になってもらうんだから」
「………兄?
俺が、かい?俺で、良いのかい?」
「良いに決まってるでしょ。山姥切さん、国広さんの親みたいなものだけど、外見が年の差ないみたいだから、お兄さんみたいに見えるし。国広さんは、ちょと世話のやける兄だけど、頼りになる兄だよ。ちょっと脳筋ぽいけど。心配性だけど。いじけると茸が生える位ジメッとするけども」
「主、主」
「………(ズーン………(泣))」
「旦那、気をしっかり持て」
「主、押し切ってます押し切ってます」
「……(ちょっと同情)」
「でも、大好きだよ。ずっとずっと支えてくれた兄を、嫌いになれるわけないじゃない。大好きな兄が大好きだと言う【山姥切長義】に、どんな刀剣男士か想像したけど、やっぱり思ってた通りだった。山姥切さん、とても優しい刀だね。だって、国広さんの事目に掛けて、心配してる。『ニセモノ』って言っていながら、写しとして大事にしているんだもん。嫌いになれるわけないじゃない、こんな優しい刀剣男士を」
「「………////」」
(((………誑してる)))
「南泉さん、素直に言わなかったけと、山姥切さんの事、教えてくれたよ。言動は良くないし、歌仙さんなんか『雅じゃない』なんていっていたけど、山姥切さんの事を思いやっているのが分かる位に、優しい表情を浮かべていたの。大事なんだね、山姥切さんの事」
(……嫌そうな顔だったと思ったが…成程、主にはそう見えたのだね)
「貴方を心配している人がいる。貴方を思ってくれる人がいる。心の底から。私も、山姥切さんとそんな風に、なりたい。なっていきたいんだ」
「主………。
参った。降参だ。だからもうそれ以上口は閉じてくれ羞恥で死ぬ」
「へ?」
((((解る!))))
分からないとばかりに首を傾げる麻衣の後ろで、同意とばかりにうんうんと頷く四振り。そうして長義は、一呼吸して思考を切り替え整えると、しっかり麻衣の顔を見た。
「山姥切長義、我が主の為に腕を振るおう
。よろしく頼むよ、主」
「はい。
よろしくお願いします、山姥切さん」






──懐かしい夢をみたな。
長義はポカポカ陽気に当てられて眠ってしまったらしく、傍らに寝ていた麻衣を起こさないように体を起こす。
主である麻衣の反対隣には南泉一文字が居て、此方も眠っていた。
麻衣は使い過ぎた霊力回復の為、現在自宅療養中である。その為、護衛として二振りが傍に居る事が決まり、厳選なクジ引きの結果、今日の護衛の任をもぎ取ったのだ。眠っていたら護衛にならないだろう思うだろうが、この家は強力な結界が張られている。大太刀男士の本気丸出し200%の超強力結界が。そこら辺の霊など結界に触れることすら敵わない程に。
なら護衛は要らないだろう、と次は思うだろう。ところが彼女は、実は刀剣男士が傍に居た方が回復が早いのだ。故に、主の護衛争奪(もとい主に侍られる権利)戦が発生する。全男士が参加する故に。
「……何呆けてんだ?」
「……寝たフリとは随分といい趣味だね」
「今起きたんだよ」
ガシガシと後頭部を掻きながら、南泉が上半身を起こす。胡座をかいて欠伸をする様は、正しく不良のそれだ。
「──で?」
「──チッ」
品行方正な刀で通っている長義が、主以外で、南泉だけは一番近い位置に傍に在る事を許している。彼に対しては、主と同じく自分を偽る必要はなく、ありのままの自分で居られるから。素のままで居られる相手は貴重だ。だから、他人にどう見られようと、南泉だけは傍にいて欲しい。絶対の味方でいて欲しい。そう望む相手なのだ。
「歌仙に頼まれた事かよ?」
「………………」
「受けるんなら付き合うぞ」
「………過保護か」
「………お前が居ないとつまんねーんだよ。だから、俺の為だ。自惚れるんじゃねぇよ」
「そこは『主の為』、て言えないのかな、猫殺しくん」
「はっ、主の為なのは当然だろ。俺達は【刀剣男士】なんだからな。にゃ」



「「………………」」



南泉の最後の最後で呪いの発言で互いに言葉が止まり、互いに見つめ合う。
そうして、長義が『ぷッ』と漏らしたと思ったら、そのまま肩を震わせて笑い出した。
「だーーーーーーーっ!!笑うんじゃねぇよっ!!」
麻衣の霊力のお陰か、他の南泉一文字より猫の呪いが軽減されているとはいえ、猫語は健在だ。シリアス展開が途端にシリアルになる。でも、それが心地いい。肩肘張らずにすむ。
「なら、付き合ってもらうぞ、南泉一文字。主の為にもな」
「はっ。主の為なら当然だ、にゃ!」
この二振りは、主の為に決意を固める。
これから先の主の平穏な日々を守る為に。歌仙が提案した内容は、確かに二人ならば可能と判断された。それは、二人以外の刀剣男士にも話がいっているが、嫌なら断る事も出来るモノだ。
だが、全ては主の為。主の為ならば、どんな役目もこなそう。



「面識は初めてになるね。
僕は山姥切長義。これから、君の専属護衛になる。よろしくたのむよ、所長殿」

「同じく、南泉一文字だ。
文句は聞かないぜ。所長さん。
恨むんなら、自分の迂闊さを恨むんだな。にゃ」



「………よろしくお願いします」



紹介を受けたナルは、それだけを返事して再び書物に視線を戻す。二振りも大してリアクションを期待していなかったので、そのまま姿を消した。
以後、二振りはナルを怪異から護ることとなる。それは、近い未来で麻衣と結婚しても続いた。その事に一番喜んだのは、ナルの保護者も担っていた林さんだったりする。





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