刀剣乱舞 クロスオーバー

「兄弟、これを見てくれ」
「何々?
___あ、これは!」
ある雑誌の特集記事を読んで、見せた【骨喰藤四郎】と見せられた【鯰尾藤四郎】は互いの顔を見合わせて、頷いたのだった。





場面は変わり、此処は静岡県のとある場所にある掛川高校。日曜日である日にも関わらず部活をしている高校生の存在で、学校は賑やかだ。
そんな部活動中の生徒の中で、サッカー部所属の二年、エースである田仲俊彦は、朝から溜息を零していた。
原因は、彼の刀剣男士【三日月宗近】である。
何故か、朝起きた時から俊彦に『俺も学校に行く!』と駄々をこねたのである。
はっきり言おう。無理だ。
天下五剣で最も美しいと称される三日月宗近を連れて歩ける分けないだろう!!周囲がヤバイ!!
唯でさえ、審神者の役目を終えても離れたがらない天下五剣全員連れて帰った時の家族でさえアレ(思い出したくない)だったのに、その後の道案内もアレ過ぎたし怖かった((((;゜Д゜))))のに(恐怖以外の何物でも無い)、早朝の走り込みを大典太光世と一緒にするのが唯一平和だが、兎も角、針のむしろは御免だ。
そんな朝の出来事を頭の奥に追いやって、休憩の後ミニゲームをしていた中、恐れていた事態が起こりました。




(何で居るだよ、三日月ーーーーーっっっ!!!!)




すまなそうな顔をしている光世の隣に、ほけほけとした三日月の笑顔。
俺に手を降っている三日月に気付いた白石健二と平松和広の、生暖かい眼差しと共に、それぞれにポンと叩かれた両肩。俺はガクッ…と頭垂れた。
健二と和広の二人は、三日月の事を『並のモデル以上の美形のくせに、ほけほけマイペースな天然』と思っている。光世に対しては、『トシの恋人』と認めてくれているが、『ネガティブ思考の苦労人』とも称していた。そうそう、光世との関係は二人にしか話していないので、二人しか知らないよ。だってね、世間では認められない関係だから。きっと黙ってた方が最善なんだって理解もしていたけれども、一番信じている二人だから、軽蔑されても構わない覚悟で話したんだ。結果、二人は、俺を軽蔑しなかった。祝福さえしてくれた。うん、思い出しただけで泣く。もう、光世と二人で泣いたさ。
因みに俺が【女側】であると話すと、『一生童貞か』と健二にシミジミ言われ、『痔の薬差し入れようか?』と和広に言われた。余計なお世話だ。後、コン○ームを無言で渡された時はぶん殴った。確かに中出しは処置しなきゃ腹下すけど、光世は俺の事考えてくれるから問題ないっての。ちゃんと掻き出してくれるから。男らしく筋張った長い指してるから、奥まで届くし、次のラウンドが始まる確立高いけどさ。まあ、一応好意は受け取っとくよ。あった方が良いからね。
ただ、『トシよ、穢れた強かな大人になって……。サッカー少年時代のトシ戻ってこ~い』、『なんて生々しい惚気……。聴いてるこっちが羞恥で悶える恥ずかしい』と言われた。解せぬ。
一応恋人関係だけ二人以外には秘密にしているが、刀剣男士と審神者であることは絶対に秘密にしておかないといけないので、他の関係者に【親戚】と説明してある。ほんとに親戚かと疑われたけれども、それでも押し通した。
「光世、三日月」
俺は慌てて二人に駆け足で近寄り、それぞれの手を取ると、急いで部室に押し込む(逃げ込むともいう)。外に出しておくと二人の周囲に女性の人垣が出来るからだ。それも短時間で分厚いのが、だ。お前等、特に三日月、お前は少しは自分の容姿で引き起こる騒動を自覚しろ!!
「で、何しに来たんだよ?」
「うむ。トシの勇姿を見に来たのだ」
「…………おい(-_-#) ピクッ」
__いや、胸張って言う事かよ、そ。
「……スマン、止められなかった」
光世は巻き込まれただけだから、怒る気はないよ。
俺より高い位置にある頭を撫でて、そう伝えると、三日月が微笑ましく見てくるが__、無視だ。
「うむ、心温まる光景だな。よきかなよきかな」






(-_-#) ピクピクッ





「……ふむ。主が本気で怒る前に本題に入ろうか。実はな、主よ」
__逃げたか。まあ、懸命な判断だとして__置くわけないだろ!!覚悟しとけよコノヤロウ!!
「主が走りに行っている時の事だがな、手紙が来た。骨喰藤四郎からだ」
「はい?!」
「この紋と此方の番号、覚えはあろう?」
手紙の宛名の裏、確かに、骨喰の紋と名前が書かれている。__ただその下の番号。これは審神者が所属する本丸のID番号だ。この番号の本丸に所属する審神者は、唯一人。審神者時代の親友【昴星】の妹弟子、審神者【向日葵】。俺の__初恋の女の子。
「……向日葵ちゃん」
孤児である彼女。けれど、一切それを感じさせない程強く、芯の強い女の子。
昴星に恋心を知られた俺に、『お前には彼女の彼氏になるのは無理だ』と言われた。
最初は昴星が可愛い妹分に手を出されるのが嫌だからと思ったのだが、違った。向日葵ちゃんの刀剣男士の所為だった。過保護四天王__恐るべし。
無理だと思った。
そう考えた時点で、俺の初恋は実らない。と、自分が理解してしまったんだ。
そして、それよりも強い理由を挙げるならば__。




ドンドンッ!!



「うわっ!!」
思考の海に漂っていた所に、思いっきりドアを叩いた音がして、トシは身体を跳ねさせた。
「田中!!」
扉の外から聞こえる声は主将の神谷篤司だ。非常に苛立った声で怒鳴り声を上げる彼に、非常に怒っているのが在り在りと解る。
「す、すいません。今二人を帰らせますからっ!!」
当たり前だ。
何せ、試合(ミニゲーム)中だったのだ。
「とっとと出て来い!!テメーに客だ!!」
「え?」
「早くしろっ!!」
「はい!!」
慌てて部室からでると、少し離れた場所で人盛りが出来ている。
「田中、お前、あんな可愛い子と何処で出会った」
その、恐ろしくもドス黒いオーラをドロドロ纏いながら、地の底を這う様な声音で強迫するよう問いかける神谷に顔を引き攣らせる。鬼の角と牙が見えるよ……。



「あ、杜糸(とし)。三日月さん、大典太さん」



この声に、弾かれる様に其方の方を見る。
そして彼女を目で捉えて、俺は目を見開き慌てて彼女に近寄り、その華奢な肩に両手を置いた。
「と、杜糸?」
戸惑っている彼女に追い打ちをかけてしまうかもしれないが、止まらなかった。
「ええっ!?何で泣くの?!?」
濁流の如く涙が溢れる。
周りも、何故俺が泣くのか解らないので驚いている。いや、俺の心が解る者は居る。俺の刀剣男士である光世と三日月。そして、向日葵の刀剣男士である鯰尾と骨喰だけだろう。光世と三日月は向日葵のある一部分を見て驚いていたし、骨喰と鯰尾は気持ちは解ると言わんばかりに頷いているからだ。
「ひ、ひ、ひまわりちゃん」
「な、なに?」
「その“髪”どうしたのっ!?!」
「か、髪?」
「向日葵ちゃんの髪が…髪が短い。何で短いの?え?もしかして失恋でも?いやそんなことあるのか?向日葵ちゃん可愛いし性格も良いししっかりしてるし悪い所ないよね。それなら相手側が浮気?え?マジでぶっ殺案件何だけど。そんな奴のアレなんてすり潰して当たり前だよね。__いや待て待ってまさか“虐め”とか?髪の毛切られた?陰険過ぎる。怪我はしていないから物理的暴力行為ではないけど精神的な暴力でも振るわれたって事?あ、髪が切られた時点で物理的か。アハハッ、どうやって報復してくれよう。刹那的じゃ易し過ぎだよね。とことん追い詰めないと駄目だよね」




トシ(田中)が壊れた。




チームメイトがあまりのトシの様子にドン引きする。突然大粒の涙を流したらと思ったら、麻衣に一方的に言葉を告げながら段々薄暗い笑みを浮かべて、最終的に笑顔ではあるけど全く笑っていない状態なったのだから。物凄く物騒な台詞を携えて。
「………杜糸、落ち着いて」
「落ち着けない」
「髪は自分で切ったんだけど」
「…………………………え?」
「自分で切った、ハサミで」
「………………な、な、なななななあっ、何だってーーーーーーーーーっっ!!!!」
『自分で切った』って、何だってそんな………勿体なっ!!
「何でそんな馬鹿な事したのさ!!」
だって、腰より長い髪だったんだよ。生半可じゃ伸ばせないんだよ。手入れもしっかりとされてて艶があって、フワフワと風に踊る髪がとても綺麗だった。綺麗だったんだ。
それを、ハサミで……。髪を切る用のハサミ、だよね。ただのハサミだったら余計に泣くよ、俺!!
「う、う、向日葵ちゃんの髪、綺麗だったのに………」
1枚の絵の様に、とても綺麗で……。
飾らないありのままの可愛い君が、あの瞬間、知らない女性に見えた。儚く美しい姿に、俺は目を奪われた。
恋するきっかけとなったんだ。
「………」
現在の短い髪の彼女も可愛いけれど、審神者時代の【向日葵】ちゃんは、俺の【永遠の初恋】の女性なのだ。嘆き落ち込んで何が悪い。
ズーン……と沈んだ俺を、向日葵ちゃんは『あ~……』と困った様に呟いて、頭を撫でてくれた。
「また伸ばしてるから、そんなに落ち込まないでよ」
「………ホントに?」
「うん」
「よかった~」
ホッと安堵の息を吐いて、俺はふにゃりと笑った。




「…………で、彼女とはどういう御関係で?」




「「審神者仲間(お友達)です」」
『ね~っ!』と俺達は笑い合った。







【オマケ】

「三日月、手紙が一週間前ってどういう事かなあ?(^-^)」



ギクッ(--;)



「三日月?( #^_^)」
それはもう、背後に仁王像を背負ったトシの、それはもうどす黒い笑顔に、三日月は真っ青になり冷や汗が溢れ出る。
「…………………………………………すまぬorz」
「へえ………………覚悟しろ(▼皿▼)」
「((((;゜Д゜))))」




そして、三日月を地面に直接正座させたトシは、コンコンと説教を1時間程言い聞かせた。涙が滲んできてこようが、涙を零そうが、1時間弱、コンコンと説教するトシ。それはそうだ。手紙の日付が一週間前になっているのだから。さっさと渡してくれれば、向日葵ちゃんとの時間が取れたのに。と大変怒りまくっているのだから。
「三日月さん、やっちゃったんだね」
「見苦しい所を見せて済まない」
「あの二人のアレ、懐かしいな。な、兄弟?」
「ああ。仲良くて何よりだ」
それを微笑ましく見守っている、麻衣・光世・鯰尾・骨喰。
杜糸の三日月は、審神者時代の杜糸が三振り目に迎えた、古参な刀剣男士だ。
よって、最初の頃は短刀達が多かった為、短刀達の保護者役を務めていた。その所為が【三日月宗近】としてはかなりしっかりしていて、家事全般が得意である。台所の主とまで呼ばれたのが、杜糸の三日月宗近なのだ。
しかし大世帯になった時、今まで現れなかったマイペースぷりが出て来た。余裕ができるようになった弊害なのだろう、コロリと物忘れが起きるようになったのだ。
今回も引き起こったコレは、麻衣の方といえば問題ない。麻衣の鋭い勘から『学校の方に行こう』という事になったからだ。そして、杜糸と問題なく再開という、麻衣側としての目的を達成したのは変わらないので。
それに、三日月がどうしてあんな風に物忘れが起きるのか、原因については解っているからに他ならない。
三日月が時折ああなるのは、杜糸に対して見て欲しいという願望の現れだ。そうすれば、自分だけを見てくれるから。要は“嫉妬”である。手段としては褒められるものではないが、其れでも、その間は自分しか見ていないのが、例え怒られているとはいえ、心の奥底では嬉しいのである。
それをこの場に居る杜糸と向日葵、刀剣男士はきちんと理解していた。
最後に三日月の頭を撫でてからポンと叩くのが、杜糸からの説教が終了した合図で、三日月は恐る恐る彼を見上げる。
杜糸としては辞めて欲しいのだが、__可愛いんだよなぁ、この三日月__と思っている時点で、まあ『次はするなよ』と言うけれど、“絶対に”と付け加えて言わないのだから、察してほしい。
そうして涙目のまま、心の底から気を許したような、甘えたような、蕩けるような笑みを浮かべた三日月。__を見た周囲のチームメイト・学生・大人達が、男女関係なく顔を真っ赤にして撃沈したのは___全力で見ない振りをした彼等だった。




本日の部活動、強制的終了。









.
18/25ページ
スキ