刀剣乱舞 クロスオーバー



__まさか、一ヶ月後にまた会うとは思いませんでした。





ドレス姿の向日葵と、その彼女を庇う前田藤四郎。その二人に絡む、酔っぱらいの中年男性。




(………ほう、良い度胸だな、おっさん………(-_-#) ピクッ)




俺は、いつも通り後ろに控えていてくれる俺の“加州清光”に目配せして、視線で『(精神的に)ヤ(殺)レ』と合図した。








フロアにある椅子に、隣り同士に座る【向日葵】こと谷山麻衣と、【昴星】こと江戸川コナン__もとい工藤新一。麻衣の左隣に前田藤四郎。コナンの右隣に加州清光が座っている。
「ありがとう昴星、加州さん」
オレンジのAラインのフリルが可愛いミニドレスに身を包んだ麻衣。髪も白と黄色と橙色の花の髪飾りで纏めて、何処かの令嬢と間違えても可笑しくない程に、とても良く似合っていて可愛らしい。
「ありがとう御座います。助かりました。何度も繰り返し注意をしたのですが、随分酔っていらしていたもので……、昴星殿、加州殿、感謝いたします」
前田は深々と頭を下げてくる。それに気にするなとばかりに手を振るのは、加州の方だった。
「いいって。主の義妹(いもうと)の向日葵ちゃんに手を出す輩には、お灸を据えないと」
ニンマリと加州は笑っているようで笑っていない顔をして言う。彼の美貌と相成って背筋にゾクリと走る。
コナンから命令された加州は、その男の腕を捻り上げてから、二人を庇う様に立つ。


「俺の知り合いに何絡んでるわけ?」


痛みに呻く男に対し、低くドスの利いた声音と共に、絶対零度の瞳で射貫いたのだ。それはもう、周囲にブリザードが吹き荒れるぐらいの錯覚が起き上がる程に。
その後、ホテルマンが警備員と共にやって来て引き渡したのだが、男が、加州に睨まれてお漏らしをしてしまうぐらい恐怖に震われていたのは言うまでもない。ホテルマンと警備員の方々、ご愁傷様です。
その後、その場を離れた四人は3階まで降り、そこの横長の椅子に座って、備え付けの自販機で飲み物を買い、のんびりと缶ジュースを飲みながら、会話を楽しんでいる。
このホテルは、1階から3階まで階段で繋がっており、2階と3階はショップで買い物や、喫茶コーナーで談話などがゆったり出来るようになっていて、そこに足を運んで会話を楽しむ四人。ちょっとした近況報告など、話題には事欠かさないので、会話は弾んだ。
コナン側は、幼なじみの親友に、半ば無理矢理というか強引に誘われて来た事。
麻衣側は、アルバイト先の所長のパトロンの一人が日本に来日してパーティーを開くからと、ホテルに来た事を。
「パトロン=スポンサーみたいなものだから、出席義務があるんだけど、ナルってば、上司に『論文があるから』みたいなセリフ吐いて断ったんだよね、一度。そうしたら、『子供みたいな我侭言わないの。これも立派な仕事の一つです。今後の貴方の研究の為にも、出なさい』、これをニコニコ笑顔で有無言わさずの空気纏って言われて、ようやっと頷いたんだよね。で、運悪く居合わせていた私はそのパートナーとして来たんだけど、場慣れしてないから酔っちゃって」
「所長殿には許可を貰い、会場から出たのですが」
「彼処には自販機がないから、エレベーターで下に降りて、飲む物を選んでいたら、絡まれちゃったわけ。酔っぱらいて厄介だよねぇ……」
「主君、本来ならば手討ちものです。無礼千万です。今からでも」
「うん、前田君物騒。落ち着こうか」
「しかし!」
「ダ・メ・だよ。認めません」
「…承知致しました」
二人のやりとりを横で見て、変わらないなあとコナンは昔を懐かしむ。
麻衣の刀剣男士達は、全員が麻衣に過保護な性質を持っている。特に暴走組は厄介で、麻衣に絡んだ他の審神者達が、ズタズタのボロボロにされたのは良くあった事だ。因みにズタボロにされたのはその審神者達の刀剣男士達だが(演練なので刀剣破壊がないのが救い)。
軒並み強いのだ。特に過保護四天王は群を抜いている。当時、上位ランカー八位【槍焔】師匠の第一部隊に、模擬演練はいえ勝利を収めた実力は侮れない。
麻衣を守るという思いがとても強い彼等は、そうとう努力してきたのを知っている。まして、麻衣自身の能力は特殊。勘の良さばかりではない、戦う為の能力もある。能力自体は防衛・浄化・サポートに特化しているのだが、それ故に狙われていた事がある。故に、過保護四天王を筆頭に、彼等は強さを求め努力してやまなかったのだから。
「向日葵、まだ戻らなくていいのか?」
「へし兄と宗三さん傍に置いてきたから大丈夫じゃないかな?もたなくなったら薬研くんに呼んでくる様に頼んだし」
「…………長谷部と宗三を置いてきたって………。おい、大丈夫か、それ?(汗)」
「へし兄、別にナルに喧嘩売らないよ。仕事の姿勢に関しては好感持ってるって言ってたし。宗三さんは、まあ、傾国系男士のお色気で、無駄に自意識過剰な女性の牽制作用を期待して、なんだけど」
「………そこら辺の女性より色気あるもんな、【宗三左文字】って」
「うん。逆ナンされても鼻で笑って、グサグサ抉るように言っちゃうから」
「………向日葵の宗三って、容赦ないな」
「ナルのおかげで各車が掛かったみたいで……」
「余計に輪を掛けた、と……」
「…………まあ……、アハハ……」
「笑えねぇっての………」
麻衣の宗三左文字、恐るべし。
いや、麻衣の左文字兄弟は全員がそうだったな………。
ちょっと遠い目をしてしまう。
どっかズレてるこの三兄弟。因みに一番ズレてるのは長兄の江雪左文字だったりする。何処がズレてるって?__聞くな。
そうして会話を楽しんでいたら、見知った少年が近寄って来た。
見た目儚げな印象を受けるが、性格は非常に物凄く男前。短刀詐欺な皆のアニキ【薬研藤四郎】である。麻衣の過保護四天王の一角だ。
「大将、前田__って、昴星の旦那と加州の旦那も一緒だったか」
「よ、薬研」
「久し振り」
「ああ、久方ぶりだな、旦那方」
相も変わらず男前の笑い方だと、昴星は思う。彼の少し離れた場所には、明るめの茶髪に変わっている、艶に磨きが掛かったお色気爆弾宗三左文字と、必殺仕事人な雰囲気を纏っているへし切長谷部。そして、不機嫌さを隠さない氷の美貌の所長オリヴァー・デイヴィスが立っていた。
どうやらもう帰ることに決まったらしい。部下のリンがいないのは、先に車に向かったのだろう。
「どうやら帰るみたい。
昴星、私達帰るね」
スクッと麻衣が立ち上がって、前田が二人に頭を下げる。
「お二方、ありがとう御座いました」
「またね」
麻衣は手を振ると、前田と共に彼等に合流する。
薬研は二人を促してから、身体を屈めて加州の耳元で言葉を紡ぐと、身を翻して最後に『じゃあな』と告げて去って行った。
そして残った二人はといえば、薬研の残した言葉に溜息を漏らす。
どうやら、幼なじみとその親友が宗三と長谷部とナルとリンに接触したらしい。
「………だから嫌だったんだけど、俺」
「………………………悪いな、清光」
「………帰るよ、主」
「……………………せめて、フロントに伝言だけは残させてくれ」
携帯電話を取り出した加州は、家に待機している友人を呼び出す。今居るホテルまで迎えに来て欲しいと。
新一は、麻衣には前もって雇い主達の人物像を聞いていた事、また麻衣が顕現して、所長の傍に置いていた刀剣男士の二人の性格を正確に把握した上で、予想はつく。
きっとけんもほろろな目にあっただろう位は。
幼なじみの毛利蘭とその親友の鈴木園子は、ハッキリいえはミーハーな部類だ。長谷部と宗三だけでなく、麻衣の所長である彼もまた見目麗しい。それほどの美形を見て、行動をおこさないわけがない。蘭は尻込みをする為、初めは園子を止めようとするが、根底ではお近づきになりたいのだろう。強く止める事は無く、彼女の好きにさせてしまう。言葉ばかりで態度がそれに伴っていないのだ。
そうして接触した事で、二人は痛い目を見た。自業自得なので慰める言葉は無い。
麻衣曰く、四人全員他者を拒絶するタイプだ。身内にはそうではないが、知り合いならば譲歩しようとはする。しかし赤の他人ならば容赦しない、あらか様に拒絶するのだ。まして、園子の様なタイプは特に。
辛辣に色々言い捨ててきただろうな。
特にメンタルを剔る台詞を容赦なく辛辣に吐き、蔑む様に嘲う宗三を思い浮かべて、コナンは乾いた笑いを浮かべたのだった__。




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