刀剣乱舞 クロスオーバー
麻衣が病院に緊急搬送されて目覚めてから、今日で五日目。
本日のお見舞い刀剣男士は、鶯丸と獅子王である。手土産は大福。鶯丸が煎れてくれたお茶とで、唯今仲良く一服中だ。
麻衣を付きっきりで看病しているのは、歌仙兼定。彼は麻衣が退院するまでの護衛も兼ねてもいた。
今日は政府の機関で、主にブラック案件の対策本部の方が、担当の方と一緒に見舞いに来ると伝えられていたので、リクライニングベッドで身体を起こしている麻衣と共に室内で談笑しながら待っていた。
ちょうど定期健診が終わった頃、病室をノックする音が。歌仙が促すと、成人した二人の男女がスーツ姿で入って来る。男性は、当本丸の担当である人間。ならば、女性の方が対策本部の人間なのだろう。担当とは随分纏う雰囲気が違っていた。
「担当さん、お疲れ様です」
麻衣の笑顔に、担当も自然と笑みを浮かべる。それと同時に、ホッと内心安堵のため息を吐いた。
今回の事件によって明るみになったブラック案件は、もう、対策本部も総動員したくらいだからだ。
上位ランカーであり、力もある審神者だったが、呪詛返しにあい死亡。それは仕方のない事であった。麻衣の本丸の御神刀ズは軒並み練度が高い上、石切丸はカンスト済み。対して呪詛を行っていた本丸は、刀剣破壊されていて、新たな二振り目はまだ練度が低い処か顕現されていなかった。
まあ、他人を呪詛する審神者に呼び出されなくて良かった、と、担当は率直に思ったが。
件の本丸に乗り込むと、ブラック本丸だった上、どうやらそこそこ後ろ盾があったらしく、証拠隠滅だの揉み消せだので逐一横槍が入り一苦労。よって、審神者でブラック本丸対策本部所属の女性に協力(物理)してもらい、やっと麻衣のお見舞いと、途中ではあるが結果報告に来れたというわけである。
「じゃあ、この綺麗なお姉さん、同じ審神者なんだね」
「審神者名は【壬生狼】よ。初めまして、よろしく【向日葵】さん」
見た目、二十代後半頃程の若さの女性は、麻衣にニコリと笑った。
「よろしくお願いします。
__なんか、仕事にプライドを持っている出来る女性が同じ審神者だなんて、ちょっと憧れるな~」
「あら、私の方こそ、刀剣男士と強い絆を築いている貴方が凄いと思うけど」
「壬生狼さんが一番信頼してるのは、その指輪をくれた男性ですか?」
「………………解るの?」
「何となく、ですけど…?
ただ大事に想い想われてるなって、感じたかな?」
「成程。此方の担当から伺っていたけれど、素晴らしい勘の鋭さと霊力の持ち主ね」
ニッコリと微笑む顔は、先程よりも柔らかい。多分、この笑みは彼女の素の表情の一つなのだろう。
「私が一番信頼しているのは確かに、『彼』ね。刀剣男士は同僚感覚というものかしら。“同じ目的を持った同志”、という感じね」
「もしかして……、引き続き、ですか?」
「知っているのね。“引き続き”の意味は」
「情報という形ですけど。さにちゃんもありますし、会合でも聞いた事あります」
「なら、“ブラック本丸”も、わかるわね」
「はい」
「なら、此方二点の説明は、省かせて貰うわね。
経緯と結果から報告させてもらうけれど、向日葵さんは、呪詛を受けていた。それも、強烈な負の感情によって強化された呪詛。相手は、呪詛を受ける前日の演練の相手、二戦目に相対した対戦相手の審神者。名前は『陽炎』。覚えている?」
「………鶯丸の事で、絡んだ人ですね」
「そう。鶯丸難民でストレスを溜め込み__、この時からボロが出始めていたらしいわね。それから、自分より若い向日葵さんが連れていたショックと、貴方に負けたショック、最後は演練での事で政府から警告された。猫を被り取り繕っていたものが剥がれていき、追い詰められた末、貴方を殺して奪い取るつもりで、呪詛を仕掛けた。後先考えずにね。正気であれば、向日葵さんが上位ランカー用の演練に出ていた意味を理解出来たでしょうに。
陽炎の近侍から聞いた情報提供と、刀剣男士からの告白で、おおよその憶測だけど、まず間違いないでしょう」
「……俺の所為か?」
黙って聞いていた鶯丸が、そう口にする。その表情は、彼らしくなく暗い。
「結果的にはそうなります。しかし、貴方が悪いと言うわけではありません。貴方も、いえ、向日葵さんの本丸に住む全員が被害者となります。
もし向日葵さんでなく違う審神者が鶯丸を連れていても、彼は間違いなく同じ事をしたでしょう。
あの演練では、向日葵さんしか鶯丸を連れてはいなかった。それから遡る半月間は鶯丸を連れた審神者は居ても、同じ組み合わせにはならなかった。
要は、切っ掛けに過ぎないという事です」
「しかし」
「鶯丸さんは悪くないよ」
「主っ」
「だって、鶯丸さんを連れて行くと決めたの、私だよ。私が、選んだ、んだよ。その日の演練に、薬研くんと平野くん。清光さんと蜂須賀さん。鶯丸さんと日本号さんを選んで、護衛に歌仙さんを選んだ。それは、鶯丸さんが自分から言ったわけじゃないでしょう?私から頼んだんだよ。知ってるでしょ。ほら、悪くない」
「あるじ…」
「鶯丸さんは、わたしの家族で、わたしのおじいちゃんだよ。家族を守るのは、当然だもん。
審神者としてだけじゃなく、家族としてだけじゃなく、その両方の意味を持って、私は守るの。皆が守ってくれるから、私も皆を守るの。
私の家族の鶯丸さんは、目の前に居る鶯丸さんだけだから、【刀解】する気も【譲渡】する気もありません」
「「「!!」」」
「どうして………」
「ちょっと待ちなさい、鶯丸!!
そんなこと考えてたのかい!?」
「じっちゃん、何馬鹿考えてんだよ?!?」
「そうです、お二方の仰る通りです!!向日葵さんの事を思うのであれば、どうかお止め下さい、鶯丸様!!」
麻衣に考えていた事を当てられた鶯丸は、呆然と麻衣を見つめて。そして、
二人のやり取りを見守っていた歌仙と獅子王は、鶯丸の考えていた内容に吠え、担当は殆ど絶叫に近い悲鳴で叫んだのだった。
看護婦に『静かにして下さい!!』と注意を受け、暫く落ち着いた後、麻衣は鶯丸の手を取った。
「温かいでしょ?」
「ああ…、主も温かいな」
「私はね、失いたくないの。誰かを“また”失いたくないの。
温かさを、無くしたくないんだよ」
「…………」
「傍に居て下さい」
「…………ありがとう、主。
あと、済まなかった、主。
俺の、鶯丸の名にかけて、主の傍で、主を護ると、再度、ここに誓おう」
一筋の涙と共に誓った宣誓。
神の、魂を掛けた言霊。
「ありがとう、鶯丸さん」
麻衣は、笑った。
〔オマケ〕
「よかった……、うう……、よかったですねぇ………ズヒッ」
「……汚い」
看護婦に謝罪していた為、病室から出ていた担当と、空気を読んで彼等だけにする為に同じく病室から出ていた壬生狼。二人は病室の入口に立っていて、中の会話を聞いていた。
担当はもう感極まって、涙と鼻水を垂れ流して、ハンカチはとうにビシャビシャである。
これはもう、もう少し時間を置いた方が良いでしょうねと、壬生狼は頭の中で算段を付け、担当をチラリと再度視界に入れると溜息を吐いたのだった。
本日のお見舞い刀剣男士は、鶯丸と獅子王である。手土産は大福。鶯丸が煎れてくれたお茶とで、唯今仲良く一服中だ。
麻衣を付きっきりで看病しているのは、歌仙兼定。彼は麻衣が退院するまでの護衛も兼ねてもいた。
今日は政府の機関で、主にブラック案件の対策本部の方が、担当の方と一緒に見舞いに来ると伝えられていたので、リクライニングベッドで身体を起こしている麻衣と共に室内で談笑しながら待っていた。
ちょうど定期健診が終わった頃、病室をノックする音が。歌仙が促すと、成人した二人の男女がスーツ姿で入って来る。男性は、当本丸の担当である人間。ならば、女性の方が対策本部の人間なのだろう。担当とは随分纏う雰囲気が違っていた。
「担当さん、お疲れ様です」
麻衣の笑顔に、担当も自然と笑みを浮かべる。それと同時に、ホッと内心安堵のため息を吐いた。
今回の事件によって明るみになったブラック案件は、もう、対策本部も総動員したくらいだからだ。
上位ランカーであり、力もある審神者だったが、呪詛返しにあい死亡。それは仕方のない事であった。麻衣の本丸の御神刀ズは軒並み練度が高い上、石切丸はカンスト済み。対して呪詛を行っていた本丸は、刀剣破壊されていて、新たな二振り目はまだ練度が低い処か顕現されていなかった。
まあ、他人を呪詛する審神者に呼び出されなくて良かった、と、担当は率直に思ったが。
件の本丸に乗り込むと、ブラック本丸だった上、どうやらそこそこ後ろ盾があったらしく、証拠隠滅だの揉み消せだので逐一横槍が入り一苦労。よって、審神者でブラック本丸対策本部所属の女性に協力(物理)してもらい、やっと麻衣のお見舞いと、途中ではあるが結果報告に来れたというわけである。
「じゃあ、この綺麗なお姉さん、同じ審神者なんだね」
「審神者名は【壬生狼】よ。初めまして、よろしく【向日葵】さん」
見た目、二十代後半頃程の若さの女性は、麻衣にニコリと笑った。
「よろしくお願いします。
__なんか、仕事にプライドを持っている出来る女性が同じ審神者だなんて、ちょっと憧れるな~」
「あら、私の方こそ、刀剣男士と強い絆を築いている貴方が凄いと思うけど」
「壬生狼さんが一番信頼してるのは、その指輪をくれた男性ですか?」
「………………解るの?」
「何となく、ですけど…?
ただ大事に想い想われてるなって、感じたかな?」
「成程。此方の担当から伺っていたけれど、素晴らしい勘の鋭さと霊力の持ち主ね」
ニッコリと微笑む顔は、先程よりも柔らかい。多分、この笑みは彼女の素の表情の一つなのだろう。
「私が一番信頼しているのは確かに、『彼』ね。刀剣男士は同僚感覚というものかしら。“同じ目的を持った同志”、という感じね」
「もしかして……、引き続き、ですか?」
「知っているのね。“引き続き”の意味は」
「情報という形ですけど。さにちゃんもありますし、会合でも聞いた事あります」
「なら、“ブラック本丸”も、わかるわね」
「はい」
「なら、此方二点の説明は、省かせて貰うわね。
経緯と結果から報告させてもらうけれど、向日葵さんは、呪詛を受けていた。それも、強烈な負の感情によって強化された呪詛。相手は、呪詛を受ける前日の演練の相手、二戦目に相対した対戦相手の審神者。名前は『陽炎』。覚えている?」
「………鶯丸の事で、絡んだ人ですね」
「そう。鶯丸難民でストレスを溜め込み__、この時からボロが出始めていたらしいわね。それから、自分より若い向日葵さんが連れていたショックと、貴方に負けたショック、最後は演練での事で政府から警告された。猫を被り取り繕っていたものが剥がれていき、追い詰められた末、貴方を殺して奪い取るつもりで、呪詛を仕掛けた。後先考えずにね。正気であれば、向日葵さんが上位ランカー用の演練に出ていた意味を理解出来たでしょうに。
陽炎の近侍から聞いた情報提供と、刀剣男士からの告白で、おおよその憶測だけど、まず間違いないでしょう」
「……俺の所為か?」
黙って聞いていた鶯丸が、そう口にする。その表情は、彼らしくなく暗い。
「結果的にはそうなります。しかし、貴方が悪いと言うわけではありません。貴方も、いえ、向日葵さんの本丸に住む全員が被害者となります。
もし向日葵さんでなく違う審神者が鶯丸を連れていても、彼は間違いなく同じ事をしたでしょう。
あの演練では、向日葵さんしか鶯丸を連れてはいなかった。それから遡る半月間は鶯丸を連れた審神者は居ても、同じ組み合わせにはならなかった。
要は、切っ掛けに過ぎないという事です」
「しかし」
「鶯丸さんは悪くないよ」
「主っ」
「だって、鶯丸さんを連れて行くと決めたの、私だよ。私が、選んだ、んだよ。その日の演練に、薬研くんと平野くん。清光さんと蜂須賀さん。鶯丸さんと日本号さんを選んで、護衛に歌仙さんを選んだ。それは、鶯丸さんが自分から言ったわけじゃないでしょう?私から頼んだんだよ。知ってるでしょ。ほら、悪くない」
「あるじ…」
「鶯丸さんは、わたしの家族で、わたしのおじいちゃんだよ。家族を守るのは、当然だもん。
審神者としてだけじゃなく、家族としてだけじゃなく、その両方の意味を持って、私は守るの。皆が守ってくれるから、私も皆を守るの。
私の家族の鶯丸さんは、目の前に居る鶯丸さんだけだから、【刀解】する気も【譲渡】する気もありません」
「「「!!」」」
「どうして………」
「ちょっと待ちなさい、鶯丸!!
そんなこと考えてたのかい!?」
「じっちゃん、何馬鹿考えてんだよ?!?」
「そうです、お二方の仰る通りです!!向日葵さんの事を思うのであれば、どうかお止め下さい、鶯丸様!!」
麻衣に考えていた事を当てられた鶯丸は、呆然と麻衣を見つめて。そして、
二人のやり取りを見守っていた歌仙と獅子王は、鶯丸の考えていた内容に吠え、担当は殆ど絶叫に近い悲鳴で叫んだのだった。
看護婦に『静かにして下さい!!』と注意を受け、暫く落ち着いた後、麻衣は鶯丸の手を取った。
「温かいでしょ?」
「ああ…、主も温かいな」
「私はね、失いたくないの。誰かを“また”失いたくないの。
温かさを、無くしたくないんだよ」
「…………」
「傍に居て下さい」
「…………ありがとう、主。
あと、済まなかった、主。
俺の、鶯丸の名にかけて、主の傍で、主を護ると、再度、ここに誓おう」
一筋の涙と共に誓った宣誓。
神の、魂を掛けた言霊。
「ありがとう、鶯丸さん」
麻衣は、笑った。
〔オマケ〕
「よかった……、うう……、よかったですねぇ………ズヒッ」
「……汚い」
看護婦に謝罪していた為、病室から出ていた担当と、空気を読んで彼等だけにする為に同じく病室から出ていた壬生狼。二人は病室の入口に立っていて、中の会話を聞いていた。
担当はもう感極まって、涙と鼻水を垂れ流して、ハンカチはとうにビシャビシャである。
これはもう、もう少し時間を置いた方が良いでしょうねと、壬生狼は頭の中で算段を付け、担当をチラリと再度視界に入れると溜息を吐いたのだった。