刀剣乱舞 クロスオーバー

春先のポカポカ日和。
麻衣は小夜左文字と手を繋ぎながら、後ろで歩いている宗三左文字と江雪左文字と四人一緒に、自然公園に散歩がてらピクニックに来ていた。
浮き世離れした江雪と、ヤケに色っぽさが際立つ宗三に、通り過ぎる人々は視線を奪われる。中には真っ赤になる者達もいる。しかし、その前に歩いている麻衣と小夜が時折振り返っては二人に話し掛け、その二人が笑うと優しげに微笑めば、家族連れの人達には微笑ましく映る。周囲には兄弟に見えるようだ。
さて、そんな四人に空気を読まない人達がいるようで、お近付きになろうとナンパしてくる者達も。
自然公園に居るから、ただ“モデルになって欲しい”という類のものだけなら、丁重に断るようにしている。特に害は無いからだ。大体『久しぶりに兄達が帰って来てくれたので、仕事から解放させて穏やかに今日は過ごして欲しいんです』等と、良心に訴える様に言えば、相手は諦めてくれるのだ。
しかしそうでない、特に獲物を狙うような、やけに媚びを売るような、お前等何しに此処に来たんじゃ!?みたいな目的の肉食系女子には、辛辣をもって対処して頂いている。
最近覚えた断り文句、『鏡を見てから出直して下さい』byナル、この台詞は効果覿面であった事は、記しておこう。






「ひゃ~!!
凄いね~、小夜ちゃん。色取り取り、鮮やかだね~!!」
「うん。…凄い…」
互いに手を繋いだまま掛けだして、いろあざやかお花畑を眺める。柵が設置されている為中に入る事はできないが、手を伸ばすと触れられるので、優しく花片に触れた。
きちんと手入れをされている公園内をゆっくり歩き、時折写メを撮っては皆で覗き込んだり、家のパソコンにメールで送ったりしている。 
実はこういった事は、麻衣がバイト休みの日に行われている。その最たる理由は、麻衣が家族で出掛ける事が余り無かった。という事だ。
母子家庭であった麻衣。その母親も中学時代で亡くしている。まだ義務教育期間の中で天涯孤独の身になってしまった彼女は、親身になって助けてくれた人達がいても、甘えずに強く生きていこうと決めていた。
そんな麻衣が、ふと審神者をしていた時に洩らした、『何処かに出掛ける家族連れを見掛けるとさ、羨ましいなって。お母さんと買い物するのは、それはそれで楽しいし、頼りにされてるって感じがしてさ、嬉しい事だったんだけどね。二人で遠くに出掛ける事は無くて……。日帰りで出掛ける場所に行ったり、泊まりの旅行なんか憧れだったなあ……』、何て、些細な願いを口にした彼女の表情。切なくも健気で、痛々しい。そして、諦め。そんなものが、滲んで現れていた。
それを覚えていた刀剣達は、麻衣が休みの日に気分転換に散歩に誘ったのが始まり。それから、日々色んな場所に雑誌を何冊か広げて検討する、そんな構図が出来上がったのである。
それには、麻衣も薄々は気付いていたが、敢えて知らない振りをしていた。彼女も、刀剣達に今の世の平和な世界を見て感じて欲しかったからだ。
刀が活躍するという事は、その時は乱世であった時代という事。戦いだけの日々ではなかったが、刀が名を馳せるという事はそういう事だ。
だからこそ、今の平和な時代を築き上げた彼等に見て欲しいと思ったのだ。その目に、映して欲しいと__。
麻衣の願いと刀剣達の願い。
双方の願いによって、もう一年以上続いている、お出掛け。
今回は、左文字兄弟と出掛けだった。前回は、御手杵と蜻蛉切り。次回は、鯰尾籐四郎と骨喰籐四郎。
こうして、絆は深く硬く結ばれる。
家族の絆は今も、互いに思い遣る優しい情で強く結ばれているのだ、と__。








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