仮面達の夜想曲
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そして月日が流れて–––吾朗さんと出会って約2年後。
私達は今・・大阪駅のホームで新幹線が来るのを待っていた。
「しかしよぉ・・お前その髪型何なの?支配人だった頃のキマった服や髪型はどうしたんだよ。」
「元はこうやったって散々言うてるやろが!」
「全く、これじゃ子供に悪影響ね・・。」
「大丈夫ですよ、私がしっかりしますから!」
「どういう意味やシエル?!」
ついにこの時がやってきた。
吾朗さんが・・極道に戻る日が。
グランドでの最後の仕事を終えてすぐに吾朗さんは長く伸ばしていた髪の毛をテクノカットになるまで切った。昔はこの髪型だったって聞いたけど・・服だって素肌に蛇柄ジャケットにレザーパンツって・・どう見ても極道・・・。
・・個室予約してよかった。
「グランドを頼むでアンナ。折角俺がのし上げたんや、他の店に負けるんやないで?」
「任せなさいよ!蒼天堀ナンバー1、維持してみせる!」
グランド支配人の後任は、アンナさんに決まった。
店の状況を一番理解しているのはアンナさんだからって理由もあるけど・・・一番の理由は、オーナーである佐川と頑張りたいって言ってた。
あの時のアンナさん、凄いいい笑顔だったなぁ・・。
「着いたら嶋野の兄弟によろしくな。たまには来いよって言っといてくれ。」
「はいはい。まっ、来る事はないやろうけど。」
「一応だよ一応。社会の常識だよぉ真島ちゃん?」
「どうでもええわ。」
「元気でね!また会えるの楽しみにしてるから!」
「アンナさんこそ、お元気で。」
そんな談笑をしていると、私達が乗る予定の新幹線がやってくるアナウンスが流れ背後にゆっくりと止まった。扉が開かれ他の乗客達が乗るのを見ていると、吾朗さんは荷物を抱えてくれる。
「ほんじゃ行くか!神室町に!」
「・・・うん。」
「・・?どないした?」
・・とうとう蒼天堀を離れる。分かっている事ではあったけど、どこか寂しくも感じる。
確かに嫌な事はたくさんあった。けど・・楽しい思い出だってある。それに私がここにやって来なかったら、吾朗さんと出会う事だってなかった。そのきっかけを与えてくれた人に・・・まだ私は何も言えていない。それを言う為に私はその人物に近づく。
「・・・佐川・・さん・・・。」
「・・はっ、”さん”って慣れねぇなぁ。どうした?」
昔は・・この佐川さんの微笑みが一番怖かった。当時は何を考えているのか分からないその目はただの恐怖でしかなかった。
けど・・全てを知った今は・・佐川の普段を知り過去を知った今だったらもう怖くない。
今だから・・今更だけど、やっと言える。
「ありがとう・・ございました。」
「・・!」
「今日まで、本当に・・ありがとうございました。」
「・・嬢、ちゃん・・・。」
”ありがとう”。
そんなたった一言が、ずっと言えなかった。私達の子供の面倒を見てくれた事だけじゃない。私を守る為にグランドに連れてきた事。自分を悪者にしてまでも、嘘をついてまでも私の事を守ってくれた。
色んな・・本当に色んな事にお礼を言わなくちゃいけないのに・・やっと言えた。
佐川さんは視線を少しずらして頭を軽く掻き始めた。
「・・はっ、いいから早く行け。元気でな。」
「・・・うん。」
「あぅ〜・・。」
(・・え・・?)
離れようとしたその時だった。私の腕に抱かれていた私達の子供が、佐川の方に手を伸ばしてた。それに気づいた佐川が驚きながらもそっと手を近づけると・・その小さな手が佐川の指を掴んだ、ご機嫌な笑顔で。
「あぅ・・う〜。」
「へっ、バイバイしとるんとちゃうか?」
「あは・・そうかもね・・グスッ、ふふ・・可愛い・・。」
「・・うん・・きっとそうだよ。ね?」
「あぅ!」
「・・はぁ・・・こりゃ参ったな・・。」
今の私達は昔とは違う。以前までは仮初の笑顔を浮かべるしかなかった。辛さを隠す為、過去を隠す為、私達は色んな仮面を被りながら生きるしかなかった。
でも今こうして笑えてるのは・・その仮面を剥がして”本音”を出しているから。本音のままでいられるのは・・この子のおかげでもあるのかな。まだ生きる辛さも、嘘も誤魔化しも知らないこの子がいるから・・・私達は自然の笑顔のまま話す事ができる。
「ほな・・行くか。」
「うんっ。じゃあ・・またいつか。」
「元気でね、二人とも!」
「・・・・。」
別れを終えた私達が新幹線に乗ると、ちょうど扉が閉まるアラームが鳴り響く。予約した個室部屋に向かおうとした、その時。鳴り響くアラームの中に小さな呼び声が聞こえた。
「–––シエル。」
「・・・え・・?」
(今・・名前・・・?)
声をした方に振り返ると、そこにいたのは佐川さんだった。佐川さんが私を・・・初めて名前で呼んでくれた。
「幸せになれよ。」
そう言う佐川さんの笑顔は、初めて見る・・・ううん。
子供の頃に見た時と同じ、優しい笑顔だったのを––私は一生忘れない。
「こらっ!もうすぐパパが帰ってくるんだからテーブルの上片付けなさい!」
「え〜、もうすこしでできるからまってよ〜!」
「もぉ全く・・。」
あれから何年経ったんだろう。
「お〜い、今帰ったで〜。」
「あ、おかえりなさい!ほら帰ってきたよ?」
「もうちょっと〜!」
「お?何書いとるん?」
吾朗さんと私は、あれからずっと神室町で過ごしている。
東城会で自分の組みを持つまでになった吾朗さんは本当に忙しそうだけど、あの頃よりも生き生きとしてる気がする。
私は主婦として家にいるのが当たり前になってるけど、そういう女としての幸せを過ごさせてくれる吾朗さんに感謝しながら生きている。
愛する夫と、愛する子供と一緒に生きる事ができる幸せを。
「じぃじと、ばぁばと、パパとママと、わたし!」
「めっちゃえぇ絵やんか!今度渡すんか?」
「うんっ!おおさかたのしみ!」
「はいはい、じぃじに渡す絵汚したくないでしょ?早く片付けて?」
「は〜い!」
その絵に描かれているのは、私と吾朗さんに、私達の子供・・そしてアンナさんと・・佐川さんが笑顔で描かれていた。
「こりゃ佐川はんも喜ぶんやないか?年に一度しか会えへんのに、ホンマよう懐いとるの。」
「子供って純粋だから、いい人だって分かるんじゃない?」
「ほ〜そうかもなぁ。・・・ホンマ、ええ子に育ったの。」
「うん。・・私みたいに悲しい思いをさせたくないから、頑張らなきゃ。」
両親を失った時の悲しみ、辛さは充分分かってる。あの頃の思いを私達の子供に味合わせたくない。
「シエル。」
「ん?」
吾朗さんに声をかけられ視線を上げると、そっと私のおでこにキスをしてきた。そしてそのまま片腕で抱き寄せてきて耳打ちしてくる。
「2人で頑張る・・やろ?」
「・・!・・うん、そうだったね。」
そうだ。今の私は1人じゃない。
私には・・この人がいるんだ。大丈夫。私はこの人と一緒に、生きていける。
「あ〜!パパずるい!わたしもママにぎゅーする〜!」
「ヒヒッ、ほれ来い!まとめて抱きしめたるでぇ!」
「ご、吾朗さんそんな事言ったら・・!」
「わ〜い!」
吾朗さんの言葉に走ってきた私達の子供は勢いよくジャンプしてきて、勢いそのまま私達は床に寝転がってしまう。
痛かったけど、怒ることはなかった。今の私達は笑顔しかない。
嘘偽りのない、幸せな笑顔で溢れている。
仮面達の夜想曲 –完–
私達は今・・大阪駅のホームで新幹線が来るのを待っていた。
「しかしよぉ・・お前その髪型何なの?支配人だった頃のキマった服や髪型はどうしたんだよ。」
「元はこうやったって散々言うてるやろが!」
「全く、これじゃ子供に悪影響ね・・。」
「大丈夫ですよ、私がしっかりしますから!」
「どういう意味やシエル?!」
ついにこの時がやってきた。
吾朗さんが・・極道に戻る日が。
グランドでの最後の仕事を終えてすぐに吾朗さんは長く伸ばしていた髪の毛をテクノカットになるまで切った。昔はこの髪型だったって聞いたけど・・服だって素肌に蛇柄ジャケットにレザーパンツって・・どう見ても極道・・・。
・・個室予約してよかった。
「グランドを頼むでアンナ。折角俺がのし上げたんや、他の店に負けるんやないで?」
「任せなさいよ!蒼天堀ナンバー1、維持してみせる!」
グランド支配人の後任は、アンナさんに決まった。
店の状況を一番理解しているのはアンナさんだからって理由もあるけど・・・一番の理由は、オーナーである佐川と頑張りたいって言ってた。
あの時のアンナさん、凄いいい笑顔だったなぁ・・。
「着いたら嶋野の兄弟によろしくな。たまには来いよって言っといてくれ。」
「はいはい。まっ、来る事はないやろうけど。」
「一応だよ一応。社会の常識だよぉ真島ちゃん?」
「どうでもええわ。」
「元気でね!また会えるの楽しみにしてるから!」
「アンナさんこそ、お元気で。」
そんな談笑をしていると、私達が乗る予定の新幹線がやってくるアナウンスが流れ背後にゆっくりと止まった。扉が開かれ他の乗客達が乗るのを見ていると、吾朗さんは荷物を抱えてくれる。
「ほんじゃ行くか!神室町に!」
「・・・うん。」
「・・?どないした?」
・・とうとう蒼天堀を離れる。分かっている事ではあったけど、どこか寂しくも感じる。
確かに嫌な事はたくさんあった。けど・・楽しい思い出だってある。それに私がここにやって来なかったら、吾朗さんと出会う事だってなかった。そのきっかけを与えてくれた人に・・・まだ私は何も言えていない。それを言う為に私はその人物に近づく。
「・・・佐川・・さん・・・。」
「・・はっ、”さん”って慣れねぇなぁ。どうした?」
昔は・・この佐川さんの微笑みが一番怖かった。当時は何を考えているのか分からないその目はただの恐怖でしかなかった。
けど・・全てを知った今は・・佐川の普段を知り過去を知った今だったらもう怖くない。
今だから・・今更だけど、やっと言える。
「ありがとう・・ございました。」
「・・!」
「今日まで、本当に・・ありがとうございました。」
「・・嬢、ちゃん・・・。」
”ありがとう”。
そんなたった一言が、ずっと言えなかった。私達の子供の面倒を見てくれた事だけじゃない。私を守る為にグランドに連れてきた事。自分を悪者にしてまでも、嘘をついてまでも私の事を守ってくれた。
色んな・・本当に色んな事にお礼を言わなくちゃいけないのに・・やっと言えた。
佐川さんは視線を少しずらして頭を軽く掻き始めた。
「・・はっ、いいから早く行け。元気でな。」
「・・・うん。」
「あぅ〜・・。」
(・・え・・?)
離れようとしたその時だった。私の腕に抱かれていた私達の子供が、佐川の方に手を伸ばしてた。それに気づいた佐川が驚きながらもそっと手を近づけると・・その小さな手が佐川の指を掴んだ、ご機嫌な笑顔で。
「あぅ・・う〜。」
「へっ、バイバイしとるんとちゃうか?」
「あは・・そうかもね・・グスッ、ふふ・・可愛い・・。」
「・・うん・・きっとそうだよ。ね?」
「あぅ!」
「・・はぁ・・・こりゃ参ったな・・。」
今の私達は昔とは違う。以前までは仮初の笑顔を浮かべるしかなかった。辛さを隠す為、過去を隠す為、私達は色んな仮面を被りながら生きるしかなかった。
でも今こうして笑えてるのは・・その仮面を剥がして”本音”を出しているから。本音のままでいられるのは・・この子のおかげでもあるのかな。まだ生きる辛さも、嘘も誤魔化しも知らないこの子がいるから・・・私達は自然の笑顔のまま話す事ができる。
「ほな・・行くか。」
「うんっ。じゃあ・・またいつか。」
「元気でね、二人とも!」
「・・・・。」
別れを終えた私達が新幹線に乗ると、ちょうど扉が閉まるアラームが鳴り響く。予約した個室部屋に向かおうとした、その時。鳴り響くアラームの中に小さな呼び声が聞こえた。
「–––シエル。」
「・・・え・・?」
(今・・名前・・・?)
声をした方に振り返ると、そこにいたのは佐川さんだった。佐川さんが私を・・・初めて名前で呼んでくれた。
「幸せになれよ。」
そう言う佐川さんの笑顔は、初めて見る・・・ううん。
子供の頃に見た時と同じ、優しい笑顔だったのを––私は一生忘れない。
「こらっ!もうすぐパパが帰ってくるんだからテーブルの上片付けなさい!」
「え〜、もうすこしでできるからまってよ〜!」
「もぉ全く・・。」
あれから何年経ったんだろう。
「お〜い、今帰ったで〜。」
「あ、おかえりなさい!ほら帰ってきたよ?」
「もうちょっと〜!」
「お?何書いとるん?」
吾朗さんと私は、あれからずっと神室町で過ごしている。
東城会で自分の組みを持つまでになった吾朗さんは本当に忙しそうだけど、あの頃よりも生き生きとしてる気がする。
私は主婦として家にいるのが当たり前になってるけど、そういう女としての幸せを過ごさせてくれる吾朗さんに感謝しながら生きている。
愛する夫と、愛する子供と一緒に生きる事ができる幸せを。
「じぃじと、ばぁばと、パパとママと、わたし!」
「めっちゃえぇ絵やんか!今度渡すんか?」
「うんっ!おおさかたのしみ!」
「はいはい、じぃじに渡す絵汚したくないでしょ?早く片付けて?」
「は〜い!」
その絵に描かれているのは、私と吾朗さんに、私達の子供・・そしてアンナさんと・・佐川さんが笑顔で描かれていた。
「こりゃ佐川はんも喜ぶんやないか?年に一度しか会えへんのに、ホンマよう懐いとるの。」
「子供って純粋だから、いい人だって分かるんじゃない?」
「ほ〜そうかもなぁ。・・・ホンマ、ええ子に育ったの。」
「うん。・・私みたいに悲しい思いをさせたくないから、頑張らなきゃ。」
両親を失った時の悲しみ、辛さは充分分かってる。あの頃の思いを私達の子供に味合わせたくない。
「シエル。」
「ん?」
吾朗さんに声をかけられ視線を上げると、そっと私のおでこにキスをしてきた。そしてそのまま片腕で抱き寄せてきて耳打ちしてくる。
「2人で頑張る・・やろ?」
「・・!・・うん、そうだったね。」
そうだ。今の私は1人じゃない。
私には・・この人がいるんだ。大丈夫。私はこの人と一緒に、生きていける。
「あ〜!パパずるい!わたしもママにぎゅーする〜!」
「ヒヒッ、ほれ来い!まとめて抱きしめたるでぇ!」
「ご、吾朗さんそんな事言ったら・・!」
「わ〜い!」
吾朗さんの言葉に走ってきた私達の子供は勢いよくジャンプしてきて、勢いそのまま私達は床に寝転がってしまう。
痛かったけど、怒ることはなかった。今の私達は笑顔しかない。
嘘偽りのない、幸せな笑顔で溢れている。
仮面達の夜想曲 –完–
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