仮面達の夜想曲
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着替え終わった私が部屋に戻ると、支配人はグラスや氷をテーブルの上に準備していた。
・・・本当にやるんだ。
「おぅ、こっち来ぃや。」
私が戻ってきたことに気付いた支配人は手招きで私を呼ぶ。
「ほれ、練習始めるで。」
「・・・・。」
「あんなぁ・・ここで働く決めたんやろ?せやったら少しはやる気を———」
「——好きで働くんじゃないっ!!!」
「うぉ?!な、何やねん急に!」
「私の意思で決めたんじゃない!!あの男が勝手に・・!!」
(佐川が勝手に・・決めたのに・・!!)
大きく反応した私に驚いた支配人だったけど、私の拒絶が大きかったのが気になったのか少し鋭い目になって私を見てくる。
「・・佐川と何かあったんか?」
「・・・っ・・!」
(話したって・・何も変わらない・・・。)
ここでアイツの文句を言ったところで私がどうなるか分からない。この人だってここで働いてるんだ・・ただの知り合いじゃない可能性だってある・・・告げ口されるかもしれない・・・。
唇を嚙みしめて下を向いてると、支配人は私の肩に軽く手を添えながらソファに座らせてくれる。ついでに隣に座った支配人は蝶ネクタイを外して煙草を取り出す。
「煙草苦手か?」
「・・・・。」
「1本吸うてええ?」
「・・どうぞ・・・。」
「おおきに。」
別に許可なんか取らなくてもいいのに・・佐川はいつも勝手に吸うんだから・・・。
煙草を取り出し火を点けふーっと息を吐く支配人。白い煙が天に昇って匂いも出てくる。その匂いは甘いものじゃなくて、鼻に残る強い匂いだった。
(・・・こんな匂いのもあるんだ・・。)
嗅いだ事のない匂いに反応した私は支配人を思わず見てしまう。お父さんも煙草を吸っていたわけじゃないから、佐川の煙草の匂いしか知らなかった。
見られているのに気付いた支配人と目が合って、ずっと見ているのが意外だったのか目をパチクリさせていた。
「・・嫌やないんか?」
「・・・この匂い・・嫌いじゃない・・・。」
「ほ~珍しいの。煙草ん中でもキツイ方なんやがな。」
「・・甘い香りより全然いい。」
「甘い?・・・あ~キャビンか。佐川はんよう吸うとるの。」
「・・キャビンも佐川も・・・大嫌い。」
あの男が大嫌い。あの男が吸う煙草の香りも大嫌い。嫌いな人がやっている事は・・・どんな事でも嫌い。
思わず出てしまった嫌いという言葉に、支配人は鼻でふっと笑ってくる。
「ふっ、奇遇やの。俺もアイツが嫌いやで。」
「・・え?」
「無茶言うて好き放題するからのぉ・・ホンマうざいわぁ。」
「え・・・えぇ?」
そ、そんな風に思ってるの・・?確かに不機嫌そうな顔してたような・・・でも、こんな堂々と言う・・?
呆気にとられていると、支配人は煙草を外して煙を吐いた後に少し微笑みながら顔を向けてくる。
「今のは内緒やで?」
しーっと人差し指を唇に当てながら笑ってる。
(・・変な人・・・。)
そんな事を考えながらぼうっとしていると、煙草を吸い終わった支配人は灰皿に押し付けて「よし!」と一声出す。
「始めるか!」
「・・・はい。」
話してみると意外と悪い人じゃないのかもしれない(見た目は怖いけど・・・)。
そんな不思議な支配人に少しだけ心が開いたのが分かる。
(・・ちょっとだけ、頑張ってみようかな・・。)
それならちゃんと・・挨拶しなきゃ。
「ほんなら最初に・・。」
「あの。」
「?」
始めようとする支配人を止めて立ち上がる私。
・・・お母さんが言ってた。人への挨拶はちゃんとしなきゃ駄目だって。さっきはできなかったけど・・今ならできる。
「・・八神シエルです。よろしくお願いします、支配人。」
私はそう言いながら支配人に頭を下げる。その行動が意外だったのか、頭を上げて支配人の顔を見ると目をまたパチクリさせていた。
(・・この人はこんな顔もするんだ。)
挨拶をした私を気に入ったのか、支配人は少しだけ口角を上げて立ち上がり私の前に手を差し伸べてきた。
「真島吾朗や。よろしゅうな。」
ニコッと笑う優しい顔。お父さん以外にこんな優しい笑顔をする人を見るの初めてだった私は、少しだけ心臓がドキッとした。
差し伸べられた手を握って握手をし、私達は接客練習を始める。
夜の世界の人間になる為に——。
それから数日後。
今日も支配人と接客練習をしていた私は、明日からホールに出て実践することになった。最初はぎこちなかったけど、支配人のおかげで何とかカタチになってきた。
(いよいよ・・明日から本物の接客・・。)
最後の練習を終えた後、支配人は最後のアドバイスをくれる。
「ええか?もし何かあったら我慢するんやないで?近くのボーイに声をかけて助けを求めるんや。トラブルになったとしても冷静に対処せなアカン。ええな?」
「はっはい!頑張ります!」
正直自信はない。ここにはヤクザも来るだろうからもし接客する事になったら・・ううん、今は先の事を考えても仕方ない。
うーんと考えている支配人は、思い出したように手を合わせる。
「あ、せや。源氏名どないする?」
「源氏名?」
「流石に本名はアカンやろ?キャストは大体仮の名前を作るんや。それが源氏名っちゅうやつや。」
そっか・・そんなのがあるんだ。
どうしよう、そんなの考えてなかったなぁ・・そういうの考えるの苦手だし・・・どうしよう・・。
(あ・・そうだ。)
「あの・・支配人が決めてくれませんか?」
「あ?俺が?」
「はい。特にこだわりとかないので。」
「ん~・・せやなぁ・・・。」
支配人は頭を掻きながら考えてくれる。暫く「う~ん」と唸りながら考えて考えて、何かを閃いてくれた。
「”サクラ”・・なんてどうや?ホンマパッと出で申し訳あらへんけど・・・。」
(”サクラ”・・・。)
「はい、それでお願いします。」
「え、ええんか?ホンマ適当やで?」
「大丈夫です。」
「そうか?・・ほんなら明日から頑張りや!サクラちゃん!」
”サクラ”。それが私の夜の世界での名前。
支配人から与えられた——もう1つの人生の始まり。
・・・本当にやるんだ。
「おぅ、こっち来ぃや。」
私が戻ってきたことに気付いた支配人は手招きで私を呼ぶ。
「ほれ、練習始めるで。」
「・・・・。」
「あんなぁ・・ここで働く決めたんやろ?せやったら少しはやる気を———」
「——好きで働くんじゃないっ!!!」
「うぉ?!な、何やねん急に!」
「私の意思で決めたんじゃない!!あの男が勝手に・・!!」
(佐川が勝手に・・決めたのに・・!!)
大きく反応した私に驚いた支配人だったけど、私の拒絶が大きかったのが気になったのか少し鋭い目になって私を見てくる。
「・・佐川と何かあったんか?」
「・・・っ・・!」
(話したって・・何も変わらない・・・。)
ここでアイツの文句を言ったところで私がどうなるか分からない。この人だってここで働いてるんだ・・ただの知り合いじゃない可能性だってある・・・告げ口されるかもしれない・・・。
唇を嚙みしめて下を向いてると、支配人は私の肩に軽く手を添えながらソファに座らせてくれる。ついでに隣に座った支配人は蝶ネクタイを外して煙草を取り出す。
「煙草苦手か?」
「・・・・。」
「1本吸うてええ?」
「・・どうぞ・・・。」
「おおきに。」
別に許可なんか取らなくてもいいのに・・佐川はいつも勝手に吸うんだから・・・。
煙草を取り出し火を点けふーっと息を吐く支配人。白い煙が天に昇って匂いも出てくる。その匂いは甘いものじゃなくて、鼻に残る強い匂いだった。
(・・・こんな匂いのもあるんだ・・。)
嗅いだ事のない匂いに反応した私は支配人を思わず見てしまう。お父さんも煙草を吸っていたわけじゃないから、佐川の煙草の匂いしか知らなかった。
見られているのに気付いた支配人と目が合って、ずっと見ているのが意外だったのか目をパチクリさせていた。
「・・嫌やないんか?」
「・・・この匂い・・嫌いじゃない・・・。」
「ほ~珍しいの。煙草ん中でもキツイ方なんやがな。」
「・・甘い香りより全然いい。」
「甘い?・・・あ~キャビンか。佐川はんよう吸うとるの。」
「・・キャビンも佐川も・・・大嫌い。」
あの男が大嫌い。あの男が吸う煙草の香りも大嫌い。嫌いな人がやっている事は・・・どんな事でも嫌い。
思わず出てしまった嫌いという言葉に、支配人は鼻でふっと笑ってくる。
「ふっ、奇遇やの。俺もアイツが嫌いやで。」
「・・え?」
「無茶言うて好き放題するからのぉ・・ホンマうざいわぁ。」
「え・・・えぇ?」
そ、そんな風に思ってるの・・?確かに不機嫌そうな顔してたような・・・でも、こんな堂々と言う・・?
呆気にとられていると、支配人は煙草を外して煙を吐いた後に少し微笑みながら顔を向けてくる。
「今のは内緒やで?」
しーっと人差し指を唇に当てながら笑ってる。
(・・変な人・・・。)
そんな事を考えながらぼうっとしていると、煙草を吸い終わった支配人は灰皿に押し付けて「よし!」と一声出す。
「始めるか!」
「・・・はい。」
話してみると意外と悪い人じゃないのかもしれない(見た目は怖いけど・・・)。
そんな不思議な支配人に少しだけ心が開いたのが分かる。
(・・ちょっとだけ、頑張ってみようかな・・。)
それならちゃんと・・挨拶しなきゃ。
「ほんなら最初に・・。」
「あの。」
「?」
始めようとする支配人を止めて立ち上がる私。
・・・お母さんが言ってた。人への挨拶はちゃんとしなきゃ駄目だって。さっきはできなかったけど・・今ならできる。
「・・八神シエルです。よろしくお願いします、支配人。」
私はそう言いながら支配人に頭を下げる。その行動が意外だったのか、頭を上げて支配人の顔を見ると目をまたパチクリさせていた。
(・・この人はこんな顔もするんだ。)
挨拶をした私を気に入ったのか、支配人は少しだけ口角を上げて立ち上がり私の前に手を差し伸べてきた。
「真島吾朗や。よろしゅうな。」
ニコッと笑う優しい顔。お父さん以外にこんな優しい笑顔をする人を見るの初めてだった私は、少しだけ心臓がドキッとした。
差し伸べられた手を握って握手をし、私達は接客練習を始める。
夜の世界の人間になる為に——。
それから数日後。
今日も支配人と接客練習をしていた私は、明日からホールに出て実践することになった。最初はぎこちなかったけど、支配人のおかげで何とかカタチになってきた。
(いよいよ・・明日から本物の接客・・。)
最後の練習を終えた後、支配人は最後のアドバイスをくれる。
「ええか?もし何かあったら我慢するんやないで?近くのボーイに声をかけて助けを求めるんや。トラブルになったとしても冷静に対処せなアカン。ええな?」
「はっはい!頑張ります!」
正直自信はない。ここにはヤクザも来るだろうからもし接客する事になったら・・ううん、今は先の事を考えても仕方ない。
うーんと考えている支配人は、思い出したように手を合わせる。
「あ、せや。源氏名どないする?」
「源氏名?」
「流石に本名はアカンやろ?キャストは大体仮の名前を作るんや。それが源氏名っちゅうやつや。」
そっか・・そんなのがあるんだ。
どうしよう、そんなの考えてなかったなぁ・・そういうの考えるの苦手だし・・・どうしよう・・。
(あ・・そうだ。)
「あの・・支配人が決めてくれませんか?」
「あ?俺が?」
「はい。特にこだわりとかないので。」
「ん~・・せやなぁ・・・。」
支配人は頭を掻きながら考えてくれる。暫く「う~ん」と唸りながら考えて考えて、何かを閃いてくれた。
「”サクラ”・・なんてどうや?ホンマパッと出で申し訳あらへんけど・・・。」
(”サクラ”・・・。)
「はい、それでお願いします。」
「え、ええんか?ホンマ適当やで?」
「大丈夫です。」
「そうか?・・ほんなら明日から頑張りや!サクラちゃん!」
”サクラ”。それが私の夜の世界での名前。
支配人から与えられた——もう1つの人生の始まり。