仮面達の夜想曲
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「はぁっ・・はぁっ・・・!」
私の人生が大きく変わったのは、20歳の誕生日を迎えたあの日の事だった。家に帰ったら見覚えのあるスーツを着た男達が家に押しかけているのが見えて、私は慌てて家の中に入る。
「お父さん!お母さん!」
私が帰ってくると、お父さんは新聞を読むのを止めて優しい笑顔で「おかえり」と言ってくれる。お母さんはいつも暖かい料理を作ってくれていて「おかえりシエル!今日もお疲れ様!」と言って笑顔で迎えてくれる。
そんな当たり前の光景があると信じていた。でもそんな私の淡い願いは・・・もう存在しない。
「——っ・・・!!」
リビングには昔から見た事のある男が立っていた。
「・・さ・・が、わ・・・。」
いつも甘い香りのする煙草を吸っていて、そのひょうきんな笑顔からは計り知れない恐怖を感じる。佐川は私が帰ってきた事に気付いて、そのニヤついた笑顔を見せてくる。
「おぅ!おかえり嬢ちゃん。俺達が来た頃にはこうなっててよぉ?全く・・本当驚きだよなぁ?」
「あ・・・あぁ・・・!!!」
私の目の前には——2人で一緒に首を吊って、変わり果てた両親の姿があった。
——————
————
———
——
あれから1ヶ月。私は佐川に連れられて蒼天堀のキャバレー”グランド”に来ていた。裏口から入ってスタッフルームらしき場所で2人でソファに座っている。
ずっと下を向いている私と違い、佐川は堂々とした態度で煙草を吸って待っていた。
「遅ぇなあの野郎・・今日来るっつったのによぉ。悪いな嬢ちゃん。」
「・・・・。」
「んな怖い顔すんなよ~?今日からここで働くんだ、笑顔いっぱいで働かねぇと金は稼げねぇぞ?」
「・・好きで来てるんじゃない・・・!」
「ははっ!違えねぇな!そら悪かった。」
笑っているこの男が憎い。私の・・私たち家族の人生を狂わせたこの男が・・!!
1ヶ月間、私は外に出る事が許されなかった。逃げ出そうにもこの男がつけた監視の所為でいつも連れ戻されてしまう。久しぶりに外に連れ出されたと思ったら・・こんな場所に・・・!
「・・いつまで俺の事睨んでんだよぉ。いい女が台無しだぜ?」
いつもの調子で私に触れようとしてくる佐川の手を、私は思い切り叩き落とす。一瞬不機嫌な顔になるけど、すぐにそれすら楽しそうな笑顔になって私を見る。
「触らないで!!」
「ははっ!変わんねぇな・・だが本番でそんな態度とるんじゃねぇぞ。そんな事したら・・ここの支配人は怖ぇぞぉ?」
「・・・・・。」
キャバレー・・・確かに誰かに触られそうになる時があるかもしれない。その相手が極道だったら・・どうしようっ・・・想像するだけで吐き気がする・・!
「恨むなら自分の両親を恨めよ?借金重なって返しきれなくなった挙句自殺したんだからなぁ。」
「——アンタが殺したんじゃない!!」
自殺なんてそんなの信じない。だったらあの日どうしてこの男は私の家にいたの?私の両親を殺す以外に来るわけない・・私の両親が・・お父さんとお母さんが自殺なんかするわけない・・!!
叫びながら立ち上がった私を、佐川は下から睨みつけてくる。
「・・っ・・!!」
この男の目が怖い。何もかも見透かしたようなその鋭い目つきが怖い。
「何度も言わせんじゃねぇ。あれは立派な自殺だ。」
「そんなわけっ・・!!」
「いい加減現実を見ろ。でなきゃ・・命はねぇぞ?」
「——っ・・・!!」
それってつまり・・・あんまり逆らったら、殺す・・って事・・?
「お前はここで借金を返すんだよ。この店で一生・・な。」
「・・・そ、んな・・。」
改めて突きつけられる私の現実。
両親が借金を抱えていた事は知っていた。だから仕事を頑張って私も一緒に返すってなったのに・・・両親が死んだ後に突きつけられた借金総額。
(——2億円。)
私はここで稼がなきゃならない。でも2億円なんていつ返し終わるか分からない・・・私はここで、一生働く運命なんだ・・。
体の力が抜けてソファに座り込んでしまう私を放っておいて、佐川は新しい煙草を取り出しまた吸い始める。・・・大嫌いな、甘い香り。
「ったく・・マジで遅ぇなぁ・・。」
佐川がそうポツリと呟くと——
『キィ・・』
それと同時に私達のいる部屋の扉が開かれる。開かれた扉に視線を向けた佐川は、ぱあっと明るい笑顔になり会話を始める。
「お?やっと来たな?遅ぇじゃねぇか!」
「トラブルがあったんや。しゃあないやろが。」
「そうなのか?そりゃご苦労なこって。・・おぅ嬢ちゃん、挨拶しな。ここの支配人様のお出ましだ。」
「・・・・。」
佐川に言われた通り後ろを振り返る。
そこに立っていたのは・・眼帯をつけたタキシード姿で、ポニーテールで髪を結っている男だった。この人が・・支配人?
(どこからどうみても・・ヤクザ・・・。)
私と目が合った支配人は、すぐに睨んでくる。
第一印象は——最悪。
「・・何やねんこの女。」
「人数足りてねぇって言ってたろ?だから連れてきてやった新人の女だ。使いまくってくれよ~?」
「はぁ・・勝手な事しおって・・・。」
「んじゃ俺は帰るよ。頑張れよ~嬢ちゃん。」
調子のいい笑顔で私を見た後、佐川は煙草を吸いながら部屋を出て行く。
不気味な支配人と2人きりになり静かな部屋が気まずさを増していく。
「・・あ~・・ほんなら今日からでええんか?」
「・・・そうですね。」
「経験あるんか?」
「ある訳ないじゃないですか。」
「・・はぁ・・・名前は?」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
明らかに面倒くさそうな顔を浮かべる支配人。頭を掻いた後、ロッカーから接客用にドレスを取り出して私に渡してくる。
「とりあえず着替えてみてや。今日はここで練習したら終いや。」
「・・・・。」
「・・アンタ返事くらいしたらどうや。」
「・・・・はい・・。」
「・・まぁええか。着替え室あるから行ってき。」
「・・・分かりました。」
私は黙って指示に従うしかない。逆らったら殺されてしまうから。
私の人生はどうなってしまうのだろう。
そんな不安な気持ちを持ちながら、着替え室に向かうのだった。
私の人生が大きく変わったのは、20歳の誕生日を迎えたあの日の事だった。家に帰ったら見覚えのあるスーツを着た男達が家に押しかけているのが見えて、私は慌てて家の中に入る。
「お父さん!お母さん!」
私が帰ってくると、お父さんは新聞を読むのを止めて優しい笑顔で「おかえり」と言ってくれる。お母さんはいつも暖かい料理を作ってくれていて「おかえりシエル!今日もお疲れ様!」と言って笑顔で迎えてくれる。
そんな当たり前の光景があると信じていた。でもそんな私の淡い願いは・・・もう存在しない。
「——っ・・・!!」
リビングには昔から見た事のある男が立っていた。
「・・さ・・が、わ・・・。」
いつも甘い香りのする煙草を吸っていて、そのひょうきんな笑顔からは計り知れない恐怖を感じる。佐川は私が帰ってきた事に気付いて、そのニヤついた笑顔を見せてくる。
「おぅ!おかえり嬢ちゃん。俺達が来た頃にはこうなっててよぉ?全く・・本当驚きだよなぁ?」
「あ・・・あぁ・・・!!!」
私の目の前には——2人で一緒に首を吊って、変わり果てた両親の姿があった。
——————
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あれから1ヶ月。私は佐川に連れられて蒼天堀のキャバレー”グランド”に来ていた。裏口から入ってスタッフルームらしき場所で2人でソファに座っている。
ずっと下を向いている私と違い、佐川は堂々とした態度で煙草を吸って待っていた。
「遅ぇなあの野郎・・今日来るっつったのによぉ。悪いな嬢ちゃん。」
「・・・・。」
「んな怖い顔すんなよ~?今日からここで働くんだ、笑顔いっぱいで働かねぇと金は稼げねぇぞ?」
「・・好きで来てるんじゃない・・・!」
「ははっ!違えねぇな!そら悪かった。」
笑っているこの男が憎い。私の・・私たち家族の人生を狂わせたこの男が・・!!
1ヶ月間、私は外に出る事が許されなかった。逃げ出そうにもこの男がつけた監視の所為でいつも連れ戻されてしまう。久しぶりに外に連れ出されたと思ったら・・こんな場所に・・・!
「・・いつまで俺の事睨んでんだよぉ。いい女が台無しだぜ?」
いつもの調子で私に触れようとしてくる佐川の手を、私は思い切り叩き落とす。一瞬不機嫌な顔になるけど、すぐにそれすら楽しそうな笑顔になって私を見る。
「触らないで!!」
「ははっ!変わんねぇな・・だが本番でそんな態度とるんじゃねぇぞ。そんな事したら・・ここの支配人は怖ぇぞぉ?」
「・・・・・。」
キャバレー・・・確かに誰かに触られそうになる時があるかもしれない。その相手が極道だったら・・どうしようっ・・・想像するだけで吐き気がする・・!
「恨むなら自分の両親を恨めよ?借金重なって返しきれなくなった挙句自殺したんだからなぁ。」
「——アンタが殺したんじゃない!!」
自殺なんてそんなの信じない。だったらあの日どうしてこの男は私の家にいたの?私の両親を殺す以外に来るわけない・・私の両親が・・お父さんとお母さんが自殺なんかするわけない・・!!
叫びながら立ち上がった私を、佐川は下から睨みつけてくる。
「・・っ・・!!」
この男の目が怖い。何もかも見透かしたようなその鋭い目つきが怖い。
「何度も言わせんじゃねぇ。あれは立派な自殺だ。」
「そんなわけっ・・!!」
「いい加減現実を見ろ。でなきゃ・・命はねぇぞ?」
「——っ・・・!!」
それってつまり・・・あんまり逆らったら、殺す・・って事・・?
「お前はここで借金を返すんだよ。この店で一生・・な。」
「・・・そ、んな・・。」
改めて突きつけられる私の現実。
両親が借金を抱えていた事は知っていた。だから仕事を頑張って私も一緒に返すってなったのに・・・両親が死んだ後に突きつけられた借金総額。
(——2億円。)
私はここで稼がなきゃならない。でも2億円なんていつ返し終わるか分からない・・・私はここで、一生働く運命なんだ・・。
体の力が抜けてソファに座り込んでしまう私を放っておいて、佐川は新しい煙草を取り出しまた吸い始める。・・・大嫌いな、甘い香り。
「ったく・・マジで遅ぇなぁ・・。」
佐川がそうポツリと呟くと——
『キィ・・』
それと同時に私達のいる部屋の扉が開かれる。開かれた扉に視線を向けた佐川は、ぱあっと明るい笑顔になり会話を始める。
「お?やっと来たな?遅ぇじゃねぇか!」
「トラブルがあったんや。しゃあないやろが。」
「そうなのか?そりゃご苦労なこって。・・おぅ嬢ちゃん、挨拶しな。ここの支配人様のお出ましだ。」
「・・・・。」
佐川に言われた通り後ろを振り返る。
そこに立っていたのは・・眼帯をつけたタキシード姿で、ポニーテールで髪を結っている男だった。この人が・・支配人?
(どこからどうみても・・ヤクザ・・・。)
私と目が合った支配人は、すぐに睨んでくる。
第一印象は——最悪。
「・・何やねんこの女。」
「人数足りてねぇって言ってたろ?だから連れてきてやった新人の女だ。使いまくってくれよ~?」
「はぁ・・勝手な事しおって・・・。」
「んじゃ俺は帰るよ。頑張れよ~嬢ちゃん。」
調子のいい笑顔で私を見た後、佐川は煙草を吸いながら部屋を出て行く。
不気味な支配人と2人きりになり静かな部屋が気まずさを増していく。
「・・あ~・・ほんなら今日からでええんか?」
「・・・そうですね。」
「経験あるんか?」
「ある訳ないじゃないですか。」
「・・はぁ・・・名前は?」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
明らかに面倒くさそうな顔を浮かべる支配人。頭を掻いた後、ロッカーから接客用にドレスを取り出して私に渡してくる。
「とりあえず着替えてみてや。今日はここで練習したら終いや。」
「・・・・。」
「・・アンタ返事くらいしたらどうや。」
「・・・・はい・・。」
「・・まぁええか。着替え室あるから行ってき。」
「・・・分かりました。」
私は黙って指示に従うしかない。逆らったら殺されてしまうから。
私の人生はどうなってしまうのだろう。
そんな不安な気持ちを持ちながら、着替え室に向かうのだった。
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