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仕事の休みをもらった私は、洛外の鍛冶屋へ向かう。
「いらっしゃい。・・おや、女の方が来るとは珍しい。何をお探しで?」
「短刀を一つお願いします。」
「護身用かい?だったら・・これでどうだい?」
「はい、お願いします。」
この街は平和なところもあれば危険な場所もある。ましては戦国時代、突然の事だってあり得る。自分に身を守る為には持ってなきゃいけない。
(短刀の扱いは慣れてる・・身にあるだけで落ち着く。)
お金を払って店を出ようとすると、戸に手を掛ける前に開かれた。目の前に立っていたのは、見覚えのある人物だった。
「八神?」
「あ・・えっと、井上さん・・・?」
「こんな所で何をしている。・・何か買ったのか?」
「えぇ、まぁ・・井上さんは手入れですか?」
「あぁ。今預けるところだ。・・この後時間あるか?」
「え・・はい、大丈夫ですけど・・。」
「茶でもどうだ?」
井上さんとお茶、か・・・。
「はい、是非。」
「分かった。では少し待っていてくれ、預けてくる。」
刀を預けた井上さんは、鍛冶屋から少し近くにある”宇治茶屋”に連れて行ってくれた。和菓子とお茶を慣れたように注文をし、私達は席に着く。
(・・井上さんとはあの日以来だから、どういう人物なのかよく分からないなぁ・・。)
注文した和菓子とお茶が運ばれて少し茶を飲むと、井上さんは初めて会った時よりも優しい表情で話しかけてくる。
「元気そうで何よりだ。寺田屋にいると聞いたが・・生活の方はどうだ?大丈夫か?」
「はい。みなさんが親切で・・何とかなってます。」
「それなら良かった。何か足りない物や困った事があったら、斎藤経由で構わないからいつでも言ってくれ。近藤さんが面倒を見ると言っていたからな、頼っていいんだぞ。」
あ・・・そう言えば、そう言われてたんだった。
「・・・はい、ありがとうございます。」
新撰組のお世話になる・・それはできない・・しちゃいけない。
甘えるわけにはいかない・・・それに、あの人に会う回数も増えるって事・・・それだけは・・・駄目・・・。
「・・・総司が心配していたぞ。」
「——っ・・え・・?」
沖田・・・さん・・?
思わぬタイミングでその名前を出されて動揺してしまう。それに気づいた井上さんは、私の目を見てくる。
「この間、呉服屋の前で会ったそうだな。その時に総司から逃げたと聞いた・・何かしてしまったのではないかと、アイツはずっと気にしているぞ。」
「・・っ・・・。」
そう・・・だよね・・・酷い事しちゃった・・。
「・・・お前に以前見せてもらったあの写真・・総司そっくりの男と親しげにしていたな。」
「・・・そ、れは・・。」
「初めて会った時も、総司を見て泣いたと新八から聞いている。お前にとって総司に似ているあの男は・・大事な男なのか?」
大事な男・・・そうです・・あの人は、私の・・・。
「・・たった一人の・・大事な・・・大事な人なんです・・。」
「・・八神・・・。」
「・・・その人の名前を、思い出せないんです・・思い出も会話も全部・・覚えてるのに・・なのに・・・。」
「総司から逃げたのはそれが理由か?総司を見て・・辛いから?」
「・・・っ・・!」
駄目・・何を言ってるの・・頼らないって、決めたのに・・!
「・・・ご馳走様でした。ありがとうございます。」
「待て八神!」
立ち上がる私の腕を掴んでくる井上さんの声は鋭かった。
でも・・・。
「以前よりお前の雰囲気が変わったと斎藤から聞いていた。見せる笑顔が作りものだと・・一人で無理をしていないか?」
その鋭さの中に感じる、井上さんの優しさ。
「俺達を少しは頼ってくれ。戻る方法は分からないが・・ここで生きる術を教える事はできる。それに一人で張り詰めていたら、いずれお前の精神が壊れてしまうぞ?」
「・・・・。」
「俺達新撰組が面倒を見ると決めたんだ。それに総司だって、お前の事——」
「”独り”には慣れています。」
「・・!」
「私はずっと・・・独りでしたから。」
私は井上さんの腕を、優しさを振り払って店を出て行った。
私に優しくしないで、お願いだから・・・。
「あれ、シエルさん!もう戻って来たん?・・・顔色悪いで?何かあったん?」
「・・・何でもないよ。ありがとう、おりょうさん・・。」
部屋に戻った私は、夜になるのを静かに待って荷物をまとめる。
(ここにいたら、斎藤さんに告げ口される・・。)
これ以上・・・新撰組の人達に私を知られるわけにはいかない。
誰にも頼らず、自分の足で生きなきゃ。あの頃みたいに・・・あの頃の、人形だった時みたいにならなきゃいけない。
人形になれば・・・この切なさも、この辛さも・・全部忘れられるはず。
感情を殺せ。感情を失くせ。そうすれば・・・
(私はまた、何も感じない人形になれるんだから。)
そして翌日の朝早く——私は誰に何も告げずに、寺田屋を出て行った。
「いらっしゃい。・・おや、女の方が来るとは珍しい。何をお探しで?」
「短刀を一つお願いします。」
「護身用かい?だったら・・これでどうだい?」
「はい、お願いします。」
この街は平和なところもあれば危険な場所もある。ましては戦国時代、突然の事だってあり得る。自分に身を守る為には持ってなきゃいけない。
(短刀の扱いは慣れてる・・身にあるだけで落ち着く。)
お金を払って店を出ようとすると、戸に手を掛ける前に開かれた。目の前に立っていたのは、見覚えのある人物だった。
「八神?」
「あ・・えっと、井上さん・・・?」
「こんな所で何をしている。・・何か買ったのか?」
「えぇ、まぁ・・井上さんは手入れですか?」
「あぁ。今預けるところだ。・・この後時間あるか?」
「え・・はい、大丈夫ですけど・・。」
「茶でもどうだ?」
井上さんとお茶、か・・・。
「はい、是非。」
「分かった。では少し待っていてくれ、預けてくる。」
刀を預けた井上さんは、鍛冶屋から少し近くにある”宇治茶屋”に連れて行ってくれた。和菓子とお茶を慣れたように注文をし、私達は席に着く。
(・・井上さんとはあの日以来だから、どういう人物なのかよく分からないなぁ・・。)
注文した和菓子とお茶が運ばれて少し茶を飲むと、井上さんは初めて会った時よりも優しい表情で話しかけてくる。
「元気そうで何よりだ。寺田屋にいると聞いたが・・生活の方はどうだ?大丈夫か?」
「はい。みなさんが親切で・・何とかなってます。」
「それなら良かった。何か足りない物や困った事があったら、斎藤経由で構わないからいつでも言ってくれ。近藤さんが面倒を見ると言っていたからな、頼っていいんだぞ。」
あ・・・そう言えば、そう言われてたんだった。
「・・・はい、ありがとうございます。」
新撰組のお世話になる・・それはできない・・しちゃいけない。
甘えるわけにはいかない・・・それに、あの人に会う回数も増えるって事・・・それだけは・・・駄目・・・。
「・・・総司が心配していたぞ。」
「——っ・・え・・?」
沖田・・・さん・・?
思わぬタイミングでその名前を出されて動揺してしまう。それに気づいた井上さんは、私の目を見てくる。
「この間、呉服屋の前で会ったそうだな。その時に総司から逃げたと聞いた・・何かしてしまったのではないかと、アイツはずっと気にしているぞ。」
「・・っ・・・。」
そう・・・だよね・・・酷い事しちゃった・・。
「・・・お前に以前見せてもらったあの写真・・総司そっくりの男と親しげにしていたな。」
「・・・そ、れは・・。」
「初めて会った時も、総司を見て泣いたと新八から聞いている。お前にとって総司に似ているあの男は・・大事な男なのか?」
大事な男・・・そうです・・あの人は、私の・・・。
「・・たった一人の・・大事な・・・大事な人なんです・・。」
「・・八神・・・。」
「・・・その人の名前を、思い出せないんです・・思い出も会話も全部・・覚えてるのに・・なのに・・・。」
「総司から逃げたのはそれが理由か?総司を見て・・辛いから?」
「・・・っ・・!」
駄目・・何を言ってるの・・頼らないって、決めたのに・・!
「・・・ご馳走様でした。ありがとうございます。」
「待て八神!」
立ち上がる私の腕を掴んでくる井上さんの声は鋭かった。
でも・・・。
「以前よりお前の雰囲気が変わったと斎藤から聞いていた。見せる笑顔が作りものだと・・一人で無理をしていないか?」
その鋭さの中に感じる、井上さんの優しさ。
「俺達を少しは頼ってくれ。戻る方法は分からないが・・ここで生きる術を教える事はできる。それに一人で張り詰めていたら、いずれお前の精神が壊れてしまうぞ?」
「・・・・。」
「俺達新撰組が面倒を見ると決めたんだ。それに総司だって、お前の事——」
「”独り”には慣れています。」
「・・!」
「私はずっと・・・独りでしたから。」
私は井上さんの腕を、優しさを振り払って店を出て行った。
私に優しくしないで、お願いだから・・・。
「あれ、シエルさん!もう戻って来たん?・・・顔色悪いで?何かあったん?」
「・・・何でもないよ。ありがとう、おりょうさん・・。」
部屋に戻った私は、夜になるのを静かに待って荷物をまとめる。
(ここにいたら、斎藤さんに告げ口される・・。)
これ以上・・・新撰組の人達に私を知られるわけにはいかない。
誰にも頼らず、自分の足で生きなきゃ。あの頃みたいに・・・あの頃の、人形だった時みたいにならなきゃいけない。
人形になれば・・・この切なさも、この辛さも・・全部忘れられるはず。
感情を殺せ。感情を失くせ。そうすれば・・・
(私はまた、何も感じない人形になれるんだから。)
そして翌日の朝早く——私は誰に何も告げずに、寺田屋を出て行った。