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「ふ〜・・・」
また1年が経とうとしとる。
蒼天堀という檻に閉じ込められてもう暫く経つ。どんなに稼いでも稼いでも、俺が解放される日は訪れない。
もしかしたら、永遠にこのままかもしれん。俺は極道に戻れずずっとここで生きる事になるんや。・・・そんなん、俺には無理や・・。
(・・・ドブ川に落ちれば、終わるんかのぅ・・。)
俺の精神はいつも限界ギリギリや。折れんように何度も耐えてきたが、もうアカン・・・。
・・・すまん兄弟、俺は・・・・。
ガチャ
「・・・支配人?どうしたんですか?」
「・・シエルちゃん・・・?」
扉から出てきたのは、俺が支配人になる前からグランドで働いとるベテランのシエルちゃんやった。
「何や、休憩か?こない寒いところ来なくてもええやんか。」
「ここ、蒼天堀の街が割と一望できるやん?割と好きやねん。あ、支配人タバコ吸っとる!うちも吸うわ!」
「おいおい、タバコ臭い女の子はアカンやろ!」
「ええやんか別に!ウチもう上がりやし!」
「まぁ・・・それならええか。」
「やったー♪」
ご機嫌で煙草を吸い始めるシエルちゃん。
歳は俺と変わらんくらいやのに、煙草の吸い方も接客の立ち振る舞いも大したもんや。常に堂々としとる、立派な大人や。
「・・なぁ支配人、何かあったん?」
「あ?何でや?」
「何や最近元気ないやん?たまたま街で前見た時も、えらい暗い顔しとったから。」
「・・・・何でそう思ったんや?」
「だって支配人、元気ない時の笑顔下手くそなんやもん。」
「笑顔下手くそて・・ショックやわ。」
・・・せやけど、ホンマよう見とるなこの女は。
「さすが接客のプロやな。敵わんわ。」
「せやろせやろ?もっと褒めて!褒めても何もでぇへんけどな!」
「ないんかい!それもっと悲しいわ!」
「ぷっ、あはは!支配人オモロ!」
「シエルちゃん意地悪やわ〜!」
俺とシエルちゃんは顔を合わせて笑い合う。
暫く談話をした後、シエルちゃんは微笑みながら俺の顔を見る。
「ん?何や、なんかついとったか?」
「・・・うち、支配人がここに来てくれてホンマ良かった思うわ。」
「はっ・・?な、何や急に。」
「ウチ、お母ちゃんも昔ここで働いとってな。キャバレーに憧れてたんや。高校卒業してここで働き始めて・・嬉しかったけど、経営は最悪。いつまでできるか分からんかったんや。」
・・・確かに、俺が来た当初グランドは店閉まる直前やった。そんな状況までロクに対応せんかった佐川に問題あるがな・・・。
トップにのし上がるのに散々苦労したなぁ・・。
「でも、支配人が変わってから全部が変わった。蒼天堀で一番になって、グランドにたくさんのお客さんがきて、仕事もメッチャ楽しくなったんや!・・・全部、支配人が頑張ったおかげや。」
「・・・。」
「・・せやから、支配人が元気ないのウチ嫌やねん。支配人が困っとるなら、今度はウチが助けたいねん。全部話してとは言わん。・・でもせめて、愚痴くらい言うくれてもええと思うで?・・・ウチは、その・・・えっと———えっ?!」
思わずシエルちゃんを抱きしめとった。
・・・支配人なんて仮の姿や。極道に戻る為に金を稼ぐ為の、偽物の俺や。
・・・・そんな俺を見て"ありがとう"なやんて・・この気持ちは何や・・・?
「し、支配人・・?!」
「・・・・。」
さっきまで冷えとった俺の心が、少しずつ暖かくなるのを感じる。
・・・嬉しかったんかもしれん。事情は知らんと言えど、俺の努力を見とってくれとる奴がおった。それを知れただけで、充分やったのかもしれんな。
「ど、どないしたん支配人?き、きき急に・・!」
「・・・なぁ、もう上がり言うたやろ?この後暇か?」
「え?う、うん・・家帰るだけやけど・・・。」
「飯でも行かんか?奢ったるで。」
「え・・・ほ、ホンマ?!やったー!もうすぐ年越すから、蕎麦食べたい!」
「おう任せとき!ほな行くで!」
「はーい♪」
心が死にそうやった俺を、この子は助けてくれた。
これはその礼や。
・・・もしかしたら、惚れてしもうたかもな。喜ぶ姿見て、めっちゃ可愛ええ思うとる俺がおる。たったこれだけのきっかけで惚れるなんて・・・それだけ、救われたんやな。
「そういやシエルちゃん、言いかけとった事あるやろ?何て言おうとしたんや?」
「え?!い、いや・・・き、気のせいやないかなぁ?!あ、あはは!」
「・・・自分、嘘下手やなぁ。」
「ううう、うっさいわ!」
その言葉の続きを聞く前に、俺は蒼天堀を離れる事になる。
それは、まだ先の事。そんな事も知らん俺達が食べた年越し蕎麦は格別に美味かった。
また1年が経とうとしとる。
蒼天堀という檻に閉じ込められてもう暫く経つ。どんなに稼いでも稼いでも、俺が解放される日は訪れない。
もしかしたら、永遠にこのままかもしれん。俺は極道に戻れずずっとここで生きる事になるんや。・・・そんなん、俺には無理や・・。
(・・・ドブ川に落ちれば、終わるんかのぅ・・。)
俺の精神はいつも限界ギリギリや。折れんように何度も耐えてきたが、もうアカン・・・。
・・・すまん兄弟、俺は・・・・。
ガチャ
「・・・支配人?どうしたんですか?」
「・・シエルちゃん・・・?」
扉から出てきたのは、俺が支配人になる前からグランドで働いとるベテランのシエルちゃんやった。
「何や、休憩か?こない寒いところ来なくてもええやんか。」
「ここ、蒼天堀の街が割と一望できるやん?割と好きやねん。あ、支配人タバコ吸っとる!うちも吸うわ!」
「おいおい、タバコ臭い女の子はアカンやろ!」
「ええやんか別に!ウチもう上がりやし!」
「まぁ・・・それならええか。」
「やったー♪」
ご機嫌で煙草を吸い始めるシエルちゃん。
歳は俺と変わらんくらいやのに、煙草の吸い方も接客の立ち振る舞いも大したもんや。常に堂々としとる、立派な大人や。
「・・なぁ支配人、何かあったん?」
「あ?何でや?」
「何や最近元気ないやん?たまたま街で前見た時も、えらい暗い顔しとったから。」
「・・・・何でそう思ったんや?」
「だって支配人、元気ない時の笑顔下手くそなんやもん。」
「笑顔下手くそて・・ショックやわ。」
・・・せやけど、ホンマよう見とるなこの女は。
「さすが接客のプロやな。敵わんわ。」
「せやろせやろ?もっと褒めて!褒めても何もでぇへんけどな!」
「ないんかい!それもっと悲しいわ!」
「ぷっ、あはは!支配人オモロ!」
「シエルちゃん意地悪やわ〜!」
俺とシエルちゃんは顔を合わせて笑い合う。
暫く談話をした後、シエルちゃんは微笑みながら俺の顔を見る。
「ん?何や、なんかついとったか?」
「・・・うち、支配人がここに来てくれてホンマ良かった思うわ。」
「はっ・・?な、何や急に。」
「ウチ、お母ちゃんも昔ここで働いとってな。キャバレーに憧れてたんや。高校卒業してここで働き始めて・・嬉しかったけど、経営は最悪。いつまでできるか分からんかったんや。」
・・・確かに、俺が来た当初グランドは店閉まる直前やった。そんな状況までロクに対応せんかった佐川に問題あるがな・・・。
トップにのし上がるのに散々苦労したなぁ・・。
「でも、支配人が変わってから全部が変わった。蒼天堀で一番になって、グランドにたくさんのお客さんがきて、仕事もメッチャ楽しくなったんや!・・・全部、支配人が頑張ったおかげや。」
「・・・。」
「・・せやから、支配人が元気ないのウチ嫌やねん。支配人が困っとるなら、今度はウチが助けたいねん。全部話してとは言わん。・・でもせめて、愚痴くらい言うくれてもええと思うで?・・・ウチは、その・・・えっと———えっ?!」
思わずシエルちゃんを抱きしめとった。
・・・支配人なんて仮の姿や。極道に戻る為に金を稼ぐ為の、偽物の俺や。
・・・・そんな俺を見て"ありがとう"なやんて・・この気持ちは何や・・・?
「し、支配人・・?!」
「・・・・。」
さっきまで冷えとった俺の心が、少しずつ暖かくなるのを感じる。
・・・嬉しかったんかもしれん。事情は知らんと言えど、俺の努力を見とってくれとる奴がおった。それを知れただけで、充分やったのかもしれんな。
「ど、どないしたん支配人?き、きき急に・・!」
「・・・なぁ、もう上がり言うたやろ?この後暇か?」
「え?う、うん・・家帰るだけやけど・・・。」
「飯でも行かんか?奢ったるで。」
「え・・・ほ、ホンマ?!やったー!もうすぐ年越すから、蕎麦食べたい!」
「おう任せとき!ほな行くで!」
「はーい♪」
心が死にそうやった俺を、この子は助けてくれた。
これはその礼や。
・・・もしかしたら、惚れてしもうたかもな。喜ぶ姿見て、めっちゃ可愛ええ思うとる俺がおる。たったこれだけのきっかけで惚れるなんて・・・それだけ、救われたんやな。
「そういやシエルちゃん、言いかけとった事あるやろ?何て言おうとしたんや?」
「え?!い、いや・・・き、気のせいやないかなぁ?!あ、あはは!」
「・・・自分、嘘下手やなぁ。」
「ううう、うっさいわ!」
その言葉の続きを聞く前に、俺は蒼天堀を離れる事になる。
それは、まだ先の事。そんな事も知らん俺達が食べた年越し蕎麦は格別に美味かった。