短編集
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「囚人番号21563。」
その名前と共に渡されたのは一通の手紙。手紙の送り主はいつも決まっとる。達筆な字で書かれている送り主の名前は、桐生ちゃんや。封を開けると数枚の手紙が入っておって確認する。内容の大半は東城会関連のことやがそないな事は正直どうでもええ。俺が読みたいんは…たった数文の文章や。
【この間シエルと出かけたんだが少しだけ笑顔が戻ってきてる。きっと元気になるさ。】
「………。」
手紙に書かれておる名前の女は桐生ちゃんの女であり–––俺の女でもあった。
数年前に仕事をやらかした俺は刑務所にぶち込まれる直前、桐生ちゃんにシエルを託したんや。アイツがシエルに片想いしとったんは知ってた。刑務所から何年すれば出られるか分からん…そんな状況でシエルを一人にさせるわけにはいかんかった。せやから…捕まる前日に、桐生ちゃんに土下座した。
『シエルを幸せにしてくれ。』
(あん時は思いっきり殴られたのぉ…今でも覚えとるわ。)
『ふざけんな!!アイツは…アイツはそんなの望んじゃいねぇ!!そんなん余計に悲しむだけだ!!』
『仮にそうやったとしても…俺は…アイツが俺を待っとるのが原因で泣かせることはさせたないんや。なんでもええから、アイツには笑顔で生きとってほしい…例えそれが俺の隣やなくてもええ。俺はアイツが笑顔になれるんやったら…なんでもええんや。』
そんなことも言うとったな……今頃シエルは元気にしてるんやろか。桐生ちゃんの隣でちゃんと笑えとんのやろか。俺のせいで泣いてないやろか。気になることは山程ある…けど、俺は二度とみんなの前に戻るつもりはない。
一度離れると決めたんや…都合よくみんなのところに戻ってヨリを戻すやなんてことはしたない。シエルのことだけやない、東城会内部にも迷惑かけたんや。戻るやなんてことするわけにはいかん。
(そういや出所まであと少しやな。)
退屈な日々が終わるまであと少し。
孤独の生活を始めるまであと少し。
(今度はどこに行くか…北の方にでも行ってみるかの。)
出所の日は誰にも伝えん。出迎えもさせず俺は一人この地を去る。
「……。」
『ねぇ吾朗、私達ずっと一緒だよね?二人で幸せになろうね!』
…俺はシエルとの思い出があるだけで…充分やから……。
「じゃあな。二度と戻ってくるなよ。」
「世話んなったの。ほな。」
看守に見守られながら門を出た俺は久しぶりの娑婆の空気を目一杯吸って体を大きく伸ばす。
「ん〜〜……っはあぁぁ…さて、行くか。」
荷物はボストンバックただ一つ。この小さな荷物だけでどっか行くのもええの、考えるだけで楽しそうや!これから俺の新しい人生が始まるんやな。
事前に看守から聞いていた駅のある方向に歩こうと一歩踏み出した–––その時やった。
「……!」
目の前におるのは…俺の知っとる人間やった。こっちを見て涙を流しとる。
嘘や…なんで、なんでここに…?
「……シエル…?」
「…お帰りなさい…吾朗……。」
一歩、また一歩、シエルが近づいてくる。近づくにつれて俺の決心は揺れ動く。
なんで足を動かさんのや…ここでシエルの元を離れなアカンのに…なんで動こうとせんのや俺は……いや、答えはわかっとる…だって……だって俺は…。
「…桐生さんにお願いして知り合いの刑事さんに出所する日を調べてもらったの。私…吾朗に言いたいこと、いっぱいあるから…。」
目の前まで近づいてきたシエルは歯を食いしばりながら大きく手を振りかぶって…俺の頬を思い切り叩いてくる。乾いた音が鳴り響き頬には痺れる痛みがどんどん広がってきよる。視線をシエルに向き直したら、大粒の涙を流しながら俺の胸板あたりを両手で交互に叩き始めよる。
「捕まるからって…桐生さんに私を託すって、なんなのよ…!!俺の隣じゃなくてもいいから幸せになってほしいって…!!私の幸せをっ…勝手に決めないでよ!!」
…頼む、シエル……その言葉の先を言わんでくれ…。
「私の幸せは…誰かの隣にいることじゃない…!私が隣にいたいのは…!!」
その先を聞いたら…俺は……。
「私は…!!吾朗の隣じゃなきゃ幸せじゃないのよ!!」
「っ…。」
「吾朗と幸せになりたいっ…一緒に笑顔で、生きていたいの…!!それがっ…私の、幸せっ…なんだからぁ…!!」
「…っ……!」
(そんなん…俺やって……!)
泣きながら俺を叩き続けるシエルの体を思い切り抱きしめる。
数年ぶりに抱きしめたシエルの体は…少し小さくなっとった。小さい体で精一杯の鳴き声を出して……そんなシエルが…酷く愛おしい…。
「……ごめんな…シエル…ホンマは、俺やって…シエルと一緒におりたい…!けど俺は、シエルを一人にしてもうた…何年も、何年もや…!俺は極道や…今回みたいなことがまた起こるかもしれん、また悲しい思いさせてまうかもしれん…。」
それでも…それでもお前は……。
「…俺の…女でいてくれるんか…?」
力ない声でシエルを抱きしめながら呟く。
一度は諦めた愛する女の温もりを…心が癒されるその声を…抱き心地がいいこの体を…手放したくあらへん…。
「…私はずっと…吾朗の女だよ…?例えまた離れることがあっても…私は吾朗だけの女なの。それが…私の幸せなの。だから…約束して?」
シエルは涙で赤くなった目で俺を見てくる。
「私と…幸せになろう?」
…幸せに…幸せになって、ええんか…?惚れた女と…幸せに……。
「……あぁ…約束や…。」
一度は手放した幸せ。ここにもう一度誓おう。
今度こそ何があってもシエルを手放さんと。シエルの男は…この世にたった一人。
この…真島吾朗なんやって。
その名前と共に渡されたのは一通の手紙。手紙の送り主はいつも決まっとる。達筆な字で書かれている送り主の名前は、桐生ちゃんや。封を開けると数枚の手紙が入っておって確認する。内容の大半は東城会関連のことやがそないな事は正直どうでもええ。俺が読みたいんは…たった数文の文章や。
【この間シエルと出かけたんだが少しだけ笑顔が戻ってきてる。きっと元気になるさ。】
「………。」
手紙に書かれておる名前の女は桐生ちゃんの女であり–––俺の女でもあった。
数年前に仕事をやらかした俺は刑務所にぶち込まれる直前、桐生ちゃんにシエルを託したんや。アイツがシエルに片想いしとったんは知ってた。刑務所から何年すれば出られるか分からん…そんな状況でシエルを一人にさせるわけにはいかんかった。せやから…捕まる前日に、桐生ちゃんに土下座した。
『シエルを幸せにしてくれ。』
(あん時は思いっきり殴られたのぉ…今でも覚えとるわ。)
『ふざけんな!!アイツは…アイツはそんなの望んじゃいねぇ!!そんなん余計に悲しむだけだ!!』
『仮にそうやったとしても…俺は…アイツが俺を待っとるのが原因で泣かせることはさせたないんや。なんでもええから、アイツには笑顔で生きとってほしい…例えそれが俺の隣やなくてもええ。俺はアイツが笑顔になれるんやったら…なんでもええんや。』
そんなことも言うとったな……今頃シエルは元気にしてるんやろか。桐生ちゃんの隣でちゃんと笑えとんのやろか。俺のせいで泣いてないやろか。気になることは山程ある…けど、俺は二度とみんなの前に戻るつもりはない。
一度離れると決めたんや…都合よくみんなのところに戻ってヨリを戻すやなんてことはしたない。シエルのことだけやない、東城会内部にも迷惑かけたんや。戻るやなんてことするわけにはいかん。
(そういや出所まであと少しやな。)
退屈な日々が終わるまであと少し。
孤独の生活を始めるまであと少し。
(今度はどこに行くか…北の方にでも行ってみるかの。)
出所の日は誰にも伝えん。出迎えもさせず俺は一人この地を去る。
「……。」
『ねぇ吾朗、私達ずっと一緒だよね?二人で幸せになろうね!』
…俺はシエルとの思い出があるだけで…充分やから……。
「じゃあな。二度と戻ってくるなよ。」
「世話んなったの。ほな。」
看守に見守られながら門を出た俺は久しぶりの娑婆の空気を目一杯吸って体を大きく伸ばす。
「ん〜〜……っはあぁぁ…さて、行くか。」
荷物はボストンバックただ一つ。この小さな荷物だけでどっか行くのもええの、考えるだけで楽しそうや!これから俺の新しい人生が始まるんやな。
事前に看守から聞いていた駅のある方向に歩こうと一歩踏み出した–––その時やった。
「……!」
目の前におるのは…俺の知っとる人間やった。こっちを見て涙を流しとる。
嘘や…なんで、なんでここに…?
「……シエル…?」
「…お帰りなさい…吾朗……。」
一歩、また一歩、シエルが近づいてくる。近づくにつれて俺の決心は揺れ動く。
なんで足を動かさんのや…ここでシエルの元を離れなアカンのに…なんで動こうとせんのや俺は……いや、答えはわかっとる…だって……だって俺は…。
「…桐生さんにお願いして知り合いの刑事さんに出所する日を調べてもらったの。私…吾朗に言いたいこと、いっぱいあるから…。」
目の前まで近づいてきたシエルは歯を食いしばりながら大きく手を振りかぶって…俺の頬を思い切り叩いてくる。乾いた音が鳴り響き頬には痺れる痛みがどんどん広がってきよる。視線をシエルに向き直したら、大粒の涙を流しながら俺の胸板あたりを両手で交互に叩き始めよる。
「捕まるからって…桐生さんに私を託すって、なんなのよ…!!俺の隣じゃなくてもいいから幸せになってほしいって…!!私の幸せをっ…勝手に決めないでよ!!」
…頼む、シエル……その言葉の先を言わんでくれ…。
「私の幸せは…誰かの隣にいることじゃない…!私が隣にいたいのは…!!」
その先を聞いたら…俺は……。
「私は…!!吾朗の隣じゃなきゃ幸せじゃないのよ!!」
「っ…。」
「吾朗と幸せになりたいっ…一緒に笑顔で、生きていたいの…!!それがっ…私の、幸せっ…なんだからぁ…!!」
「…っ……!」
(そんなん…俺やって……!)
泣きながら俺を叩き続けるシエルの体を思い切り抱きしめる。
数年ぶりに抱きしめたシエルの体は…少し小さくなっとった。小さい体で精一杯の鳴き声を出して……そんなシエルが…酷く愛おしい…。
「……ごめんな…シエル…ホンマは、俺やって…シエルと一緒におりたい…!けど俺は、シエルを一人にしてもうた…何年も、何年もや…!俺は極道や…今回みたいなことがまた起こるかもしれん、また悲しい思いさせてまうかもしれん…。」
それでも…それでもお前は……。
「…俺の…女でいてくれるんか…?」
力ない声でシエルを抱きしめながら呟く。
一度は諦めた愛する女の温もりを…心が癒されるその声を…抱き心地がいいこの体を…手放したくあらへん…。
「…私はずっと…吾朗の女だよ…?例えまた離れることがあっても…私は吾朗だけの女なの。それが…私の幸せなの。だから…約束して?」
シエルは涙で赤くなった目で俺を見てくる。
「私と…幸せになろう?」
…幸せに…幸せになって、ええんか…?惚れた女と…幸せに……。
「……あぁ…約束や…。」
一度は手放した幸せ。ここにもう一度誓おう。
今度こそ何があってもシエルを手放さんと。シエルの男は…この世にたった一人。
この…真島吾朗なんやって。