「真島さん、あの・・お願いがあるの。」
「お？どないした？」
「あのね———」



「まさかそちらから会いに来て頂けるとは・・そちらに向かえなくて申し訳ありません。」
「こちらこそ突然お会いしてすみません。貴重なお時間をありがとうございます。」
「・・真島さんは？」
「あ〜・・・外で待ってもらってます。」

私が真島さんにお願いしたのは、堂島大吾さんと会う事。
この前は私達の勘違い(桐生さんのせいなんだけど！)のせいでろくに話ができなかったから、会って話してみたかった。真島さん達のいる東城会のトップがどんな人なのか純粋に気になるしね。

「よく外で待ってもらえましたね。」
「桐生さんに手伝ってもらいました。この間は誰かさんのせいでお話できませんでしたし。」
「ふっ・・確かに、そうですね。」

・・・こう見てみると若いのに雰囲気あるなぁ・・。
若いっていっても私よりは年上だけど・・。

「あの、堂島さん。敬語使わなくて大丈夫ですよ？」
「ですが・・あなたは真島さんの女で・・・。」
「堅っ苦しいのあんまり好きじゃないんです。・・・その、前にいた組織でも・・そんな感じだったので・・・。」
「・・・そうか。じゃあそうさせてもらう。・・実は俺もあんまり固いのは好きじゃないんだ。大吾とも呼んでほしいしな。」
「わかりました、大吾さん。」



「あはは！そんな事があったんですか？」
「あぁ・・・あの時は大変だったよ。真島さんが暴れるもんだから抑えるのが精一杯で・・。」
「ふふっ・・なんか想像できちゃうなぁ。」

大吾さんと面白おかしく話していると、少し外が騒がしくなってきた。ドカドカと足音を鳴らして私達のいる部屋に近づいてくる。

「な、何・・？」
「シエルさん、こちらへ。」

大吾さんの背中に隠れて扉を見つめる。
大きな足音と同時に、聞き覚えのある2人の声が声を荒げて近づいてきた。

「おい、兄さん待てって！」
「うっさいわ！話すにしても長すぎるわ！」
「シエルが待っててって言ったんだろ？！だったら待ってろって！」
「んな事言うて何かあったらどないすんねん！」
「この前のはただの勘違いだったろ？！」
「おどれのせいやろが！！」
「うっ・・・。」

・・・・・・・。
扉の目の前で真島さんと桐生さんが口喧嘩してる・・・。

「・・・あの2人本当仲いいよな。」
「・・えぇ・・・。」
「今日はここまでにしよう。今度また来てくれ。」
「はい、分かりました。」

さて・・前の2人を止めないと。
扉を開けると、案の定暴れている真島さんを桐生さんが羽交締めしていた。
扉を開けた私と目が合って、抑えられている腕を振り解き私の肩に手を乗せる。

「大丈夫やったかシエル？！大吾ちゃんに変な事されへんかったか？！」
「だ、大丈夫だよ真島さん！ただ話してただけだから！」
「・・・ホンマやろな。」
「俺に真島さんの女、手ぇ出す勇気ありませんよ・・。」
「・・・・・・そらそうか。」

えー・・何か納得してる・・・。
でも確かに真島さん半殺しとかにしそう・・。

「どんなこと話してたんだ？」
「主に2人の話だった気が・・大吾さんにあんまり苦労かけさせちゃだめですよ？」
「「大吾さん？」」
「？」

・・？2人同時して・・・大吾さんって呼ぶの何か変だったかな？
だって本人が呼んで欲しいって言ったから・・。

「そういえばシエルは何で兄さんを名前で呼ばないんだ？」
「・・それは俺も気になってた。」
「え・・えっと・・・・。」
「兄さんは呼んでほしいみたいだぞ？この前飲んだ時言ってたしな。」
「なっ？！桐生ちゃん余計な事言うなや！！」

・・・。
何でみんなこっち向いてるの？え・・・こ、ここで呼ばなきゃ駄目？

(・・・名前で呼ぶの、恥ずかしかっただけなんだけど・・・。)

「・・・えっと・・。」
「名前呼ぶだけだろ？そんな緊張する事ないだろう。」
「・・桐生さん、それは偏見ですよ。」
「ん？そうか？」
「あー・・ほれ、帰るで？長話して疲れたやろ？」

・・・真島さん、名前で呼んでほしいんだよね・・。
背を向けて歩こうとする真島さんのジャケットの裾を指で掴む。

「？シエル、どないした？」
「・・・・・・・・・・さん・・。」
「・・・？何やて？」
「・・・・・吾朗、さん・・・。」
「・・・・・。」

・・・後ろから桐生さんと大吾さんのおぉ・・って声が聞こえる・・！
は・・恥ずかしい！！顔見れない！！
そんな事思ってたら、次第に後ろ2人の抑える笑い声が聞こえる。振り返ってみると、物凄い体沈めて笑いを堪えている。

「シエル、兄さんの顔見てみろよ・・！」
「ぷっ・・・クク、真島さ・・っ・・！」
「・・・？」

2人に言われて真島さんの顔を見ると－－－タコが茹でられたくらい真っ赤な顔になって私をじっと見ていた。

「え？あ、あの・・・真島さん？」
「・・・シエル、もういっぺん。」
「へ？」
「もういっぺん、名前呼んでくれや。」
「！・・・・ご・・吾朗さん・・・。」
「〜〜〜ッ！！」
「－－－？！ひゃあ！！」

私は真島さんに抱きかかえられ、そのまま広間を後にした。

「・・・ベタ惚れですね、真島さん。」
「あぁ・・そうだな。」

『真島吾朗が東城会本部で女を抱きながら走っていた』

暫く本部内では、その話題が尽きなかったらしい。

「今度から名前呼ばんかったら罰ゲームな。」
「え？！」