第一部 仮面の選択
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「ほんまお前さん程の男うちの隊に欲しいくらいやわ。またよろしく頼むで。」
「はい、ありがとうございました。武田隊長。」
五番隊隊長、武田観柳斎。
沖田隊長ほどではないが、この人も強い。本当に新撰組の人達は手練れが多いな。
「おう八神。どうやった、武田に食われんかったか?」
「永倉隊長。・・・少々目をつけられていますが、なんとか・・。」
「お前さんは毎日忙しいな。」
「このくらいが丁度いいです。」
こうしていれば、余計の事を考えなくていいからな・・・。
「ところで・・・お前さん、ちゃんと休んでるのか?夜勤の日も早い時間に来とるらしいやないか。」
「必要な分はきちんと休んでいますから。大丈夫です。」
「ならええんやが・・・俺はそろそろ行くで。またな。」
昼の見回りに向かう永倉隊長を見送り、俺はその後も鍛錬を続けた。
・・・俺には休んでいる暇はない。時間がない。
先日新撰組に無事入隊できたことを父上に手紙で報告すると、まだ口利きできぬのかと催促の返事が返ってきた。
(早くしなきゃ・・早く・・)
その瞬間、視界が大きく揺れ動く。
(——あれ・・・目、が・・・・・)
「八神ちゃん!」
誰かに名前を呼ばれた気がしたけど、分からないままそこで意識は途切れた。
『何だそのか細い腕は!!そんなので武士になれると思っているのか?!』
『やめて・・・やめて父上・・!』
『その貧弱な根性、叩き直してやる!!』
『やだぁ・・・やだよ父上ぇ・・・!』
『貴様まだ泣くか!!それもその胸のせいか!?叩き斬ってやる!!』
『もう痛いのは嫌・・!嫌あぁぁ!!!』
「—————!!」
目を開けると、屯所内の個室だと分かった。
外は薄暗くなっていて、部屋の蝋燭の火がついている。
・・・嘘・・倒れた時は確か朝・・・今は夕方?もしかしてずっと寝ていたのか・・・?
「目ぇ覚めたみたいやな、八神ちゃん。」
その声に振り返ると、沖田隊長が壁に寄りかかって座っていた。
まさか・・・ここは沖田隊長の部屋・・・?!
「お・・沖田隊長!も、もうし・・・あ、あれ・・・?」
「無理に動かんでええ。酷い熱なんや。まだ横になっとき。」
熱?・・・そういえば、少し体が重い・・・。
「お前、ここんところ休みなしに散々無理しとったやろ?倒れた時大騒ぎやったで。何人かが部屋に様子見にきとったで。」
「・・・そう、でしたか・・・。」
みなさんに迷惑をかけた挙句隊長にまで迷惑を・・・。
穴があったら入りたい・・・。
「・・・そない親父さんが怖いんか?」
「——え?」
「魘されとったで。やめてってな。・・そない怖い男の言う事聞いてここまできたんか?」
「・・そ、それは・・・。」
「前に言うてたな。父上の望む八神吾朗になるって。それは・・お前も本当になりたいんか?お前が望んどる自分なんか?」
・・・八神家の跡継ぎとして、俺は生きなきゃならない。
父上の望む八神吾朗にならないといけない。それが"俺"なんだ。なりたいじゃない。「ならなきゃいけない」んだ。
俺は———。
「・・嫌に・・・決まってます・・・!」
”俺”も”私”も、そんなものになりたくない。
「嫌、なのに・・・駄目なんです・・!ずっと、ずっとそうだったから!俺は逆らえない!俺・・わ、私は・・・!あの人の八神吾朗になりたくないっ!!そんな人生嫌だ!!自分の人生を生きたい!!」
涙が止まらない。制御ができない。感情が止まらない。
打ち明けたい。自分が女である事を。誰かに打ち明けたい。
俺は”俺”でなくちゃいけないのに、”私”でもありたい。
頭が混乱しておかしくなる———。
「八神ちゃん。」
その時、突然目の前に胸板が現れた。鍛えられた腕で体を抱き寄せられ、俺はその身をそれに預けている。
「おき・・た・・たいちょ・・・?」
何が起こっているのか全く分からない。
どうして俺は沖田隊長に抱きしめられているんだ??
「・・・せやったら、ワシの八神吾朗になればええやろ。」
今まで聞いたことのない、低くて優しい声。
「お前は、新撰組一番隊隊士の八神吾朗や。ワシの大事な隊士や。ワシの為にその腕を振るえばええ。」
沖田隊長の・・・沖田さんの為に・・・。
「・・・それじゃアカンか?」
「・・・いえ・・・この命・・あなたの為に・・・。」
この人の為に・・八神吾朗として生きたい。
・・・いつか、”私”としても隣に立てるかな?
「はい、ありがとうございました。武田隊長。」
五番隊隊長、武田観柳斎。
沖田隊長ほどではないが、この人も強い。本当に新撰組の人達は手練れが多いな。
「おう八神。どうやった、武田に食われんかったか?」
「永倉隊長。・・・少々目をつけられていますが、なんとか・・。」
「お前さんは毎日忙しいな。」
「このくらいが丁度いいです。」
こうしていれば、余計の事を考えなくていいからな・・・。
「ところで・・・お前さん、ちゃんと休んでるのか?夜勤の日も早い時間に来とるらしいやないか。」
「必要な分はきちんと休んでいますから。大丈夫です。」
「ならええんやが・・・俺はそろそろ行くで。またな。」
昼の見回りに向かう永倉隊長を見送り、俺はその後も鍛錬を続けた。
・・・俺には休んでいる暇はない。時間がない。
先日新撰組に無事入隊できたことを父上に手紙で報告すると、まだ口利きできぬのかと催促の返事が返ってきた。
(早くしなきゃ・・早く・・)
その瞬間、視界が大きく揺れ動く。
(——あれ・・・目、が・・・・・)
「八神ちゃん!」
誰かに名前を呼ばれた気がしたけど、分からないままそこで意識は途切れた。
『何だそのか細い腕は!!そんなので武士になれると思っているのか?!』
『やめて・・・やめて父上・・!』
『その貧弱な根性、叩き直してやる!!』
『やだぁ・・・やだよ父上ぇ・・・!』
『貴様まだ泣くか!!それもその胸のせいか!?叩き斬ってやる!!』
『もう痛いのは嫌・・!嫌あぁぁ!!!』
「—————!!」
目を開けると、屯所内の個室だと分かった。
外は薄暗くなっていて、部屋の蝋燭の火がついている。
・・・嘘・・倒れた時は確か朝・・・今は夕方?もしかしてずっと寝ていたのか・・・?
「目ぇ覚めたみたいやな、八神ちゃん。」
その声に振り返ると、沖田隊長が壁に寄りかかって座っていた。
まさか・・・ここは沖田隊長の部屋・・・?!
「お・・沖田隊長!も、もうし・・・あ、あれ・・・?」
「無理に動かんでええ。酷い熱なんや。まだ横になっとき。」
熱?・・・そういえば、少し体が重い・・・。
「お前、ここんところ休みなしに散々無理しとったやろ?倒れた時大騒ぎやったで。何人かが部屋に様子見にきとったで。」
「・・・そう、でしたか・・・。」
みなさんに迷惑をかけた挙句隊長にまで迷惑を・・・。
穴があったら入りたい・・・。
「・・・そない親父さんが怖いんか?」
「——え?」
「魘されとったで。やめてってな。・・そない怖い男の言う事聞いてここまできたんか?」
「・・そ、それは・・・。」
「前に言うてたな。父上の望む八神吾朗になるって。それは・・お前も本当になりたいんか?お前が望んどる自分なんか?」
・・・八神家の跡継ぎとして、俺は生きなきゃならない。
父上の望む八神吾朗にならないといけない。それが"俺"なんだ。なりたいじゃない。「ならなきゃいけない」んだ。
俺は———。
「・・嫌に・・・決まってます・・・!」
”俺”も”私”も、そんなものになりたくない。
「嫌、なのに・・・駄目なんです・・!ずっと、ずっとそうだったから!俺は逆らえない!俺・・わ、私は・・・!あの人の八神吾朗になりたくないっ!!そんな人生嫌だ!!自分の人生を生きたい!!」
涙が止まらない。制御ができない。感情が止まらない。
打ち明けたい。自分が女である事を。誰かに打ち明けたい。
俺は”俺”でなくちゃいけないのに、”私”でもありたい。
頭が混乱しておかしくなる———。
「八神ちゃん。」
その時、突然目の前に胸板が現れた。鍛えられた腕で体を抱き寄せられ、俺はその身をそれに預けている。
「おき・・た・・たいちょ・・・?」
何が起こっているのか全く分からない。
どうして俺は沖田隊長に抱きしめられているんだ??
「・・・せやったら、ワシの八神吾朗になればええやろ。」
今まで聞いたことのない、低くて優しい声。
「お前は、新撰組一番隊隊士の八神吾朗や。ワシの大事な隊士や。ワシの為にその腕を振るえばええ。」
沖田隊長の・・・沖田さんの為に・・・。
「・・・それじゃアカンか?」
「・・・いえ・・・この命・・あなたの為に・・・。」
この人の為に・・八神吾朗として生きたい。
・・・いつか、”私”としても隣に立てるかな?