”人は生まれた時から人生が決まっている。

その人生は決して曲げることはできない。

あの頃の私はそう思っていた。

でも、もし奇跡が起きたら？

暗い夜道に、光が差し込んできたら？

きっと私は迷わない。

迷わず生きた結果が、この人生だ。



京の街を初めて訪れた俺は、まず宿を探した。
拠点を見つけ、徐々に土地に慣れて、自分の腕を確かめたい。

「すまない。暫く世話になりたいのだが・・・これで足りるだろうか？」
「あらぁ、随分男前な方どすなぁ。ようこそ寺田屋へ。部屋へ案内しますさかい、少し待っておくれやす。」
「かたじけない。」

八神吾朗。それが俺の名前だ。
なんとか宿が見つかって良かった・・・各地方から猛者が集まるこの地で野宿は流石に勘弁だ。
女将もよさそうな人で良かった。

「お待たせしました。こちらです。」

案内されたのは、二階の角部屋。
ここなら、障子窓から月を見れる・・・いい部屋だ。

「感謝する。」
「夕飯はどないしましょ？」
「今日は外で済まそうと思っています。明日以降はできればこちらで。」
「かしこまりました。では、ごゆっくり・・・あぁ、街出る時は気をつけてくださいね？壬生の狼が嚙みつくかもしれへんからなぁ。」
「壬生の狼？」
「新撰組の事どす。京の治安維持言うてはりますけど、ただの人斬り集団ですさかい。隣に泊まっとるのもその一人ですわ。」
「忠告感謝する。」

では、と言い女将は仕事に戻っていった。
新撰組か・・・隣に泊まっていると言っていたな。後で少し話を聞きたいな。
俺が京に来た目的は、新撰組なのだから。
・・・今なら少し気を抜いてもいいかな・・・？
束ねていた髪をおろし、窓際に座る。

「・・・ふぅ・・・疲れた・・・。」

”八神吾朗”それは私の仮の名前。
——男として生きることを強要された、私の名前だった。