ここは神室町。
人々の誘惑を叶える場所であり、人々に絶望を与える場所。
カタギ。ヤクザ。マフィア。
様々な人間がこの町で日々を過ごしている。

「よっしゃ！いっちょ一発決めたるわ！」

真島吾朗。俺もこの町に生きる人間の一人や。
世間じゃ狂犬と言われておる。俺は楽しく喧嘩ができればなんでもええ。

「本当にこの後喧嘩するのか・・・兄さん。」

コイツは桐生一馬。俺の一番のお気に入りの男や。
普段町で会うては喧嘩してくれる最高の相手や。
たまに細かいこと言うときは面倒やがな。

「当たり前やないか桐生ちゃん！ワシと会うた時点で喧嘩せなかんのや。よう覚えとき？」
「はぁ・・・わかったよ。」

それからしばらくバッセンで打ちまくり、近くの公園で喧嘩し帰路につく。
最近は楽しゅうことがなくてつまらんのう・・・何かおもろいことないんかいな・・・。

「じゃあな兄さん。遥が待ってる。」
「おう。ほな。」

まだ帰る気起こらんなぁ・・・どっかで酒でも飲むか。
そないなこと考えながら神室町を歩く。
この生活・・・”真島吾朗”を楽しむと決めてから、もう何年経つんやろうな。
楽しむっちゅうんは悪くない。自分の思ったことを言え、自分の行きたい場所へ行ける。こないな生活、あの牢獄のような街にいたころは考えてへんかったな。
せやけど・・・

（なんなんやろな・・・この虚しさ）

そんな事思とったとき、ふと公園のほうに目がいった。
公演は普段ホームレスの溜まり場か酔っ払いの寝床になっとる。
せやけどおるのは———女やった。
別に不思議な事やない。誰でも座る時はある。
でもその女は少し違った。何なのかは分らんが、その女からは”気配”を感じん。
俺は自然と女のほうに歩み寄っとった。

「なぁ姉ちゃん。こないな公園で何してるんや？」

俺が声をかけると、女は少し驚いたような様子やった。

「何やボーっとしとったからの。具合悪いんか？」
「あ、いえ・・・大丈夫です。ありがとうございます。」

微笑んでくれる女の目とおうた時、思わず見惚れてしもうた。
女の目はさっきの気配のなさとは裏腹に、硝子のようなきれいな目をしとった。
吸い込まれるっちゅうんはこういうことなんやな。

「あの・・・大丈夫ですか？」

女の声に我に返る。
アカン、今度は俺が呆けてしもうた。

「いや、なんでもあらへん。ベッピンさん思うてな。見入ってしもうたわ。」
「へっ？！そ、そんな事・・・」

赤面になってもうた。
せやけど・・・相変わらず気配がないのう。

「せや、ワシ真島吾朗いうねん。姉ちゃんは？」
「あ・・・八神シエルです。」
「シエルちゃんか！ええ名前やのう！」

これが俺とシエルの出会いやった。
これから起こる他愛のない日々。

残酷な真実。

そないなこと、考えとらんかった。