BOJ-SSS6【"Period", those connecting golden chains】
「あれが、ロボ…」
悠々と酒を煽りながらこちらに近付いてくるその姿。これが第三部隊長の言う『呂律の回らない酔っ払い』か?この距離でもひしひしと感じる圧力。現れただけで砦を混乱に陥れる存在感。
サーは刀を抜き放つ。長さは丁度太刀程度。片手には鞘を握ったまま、ソルジャーに目配せをする。
「参ります」
「え!?」
師団員の驚きの声を遠くに残し、二人は地上から遥か高い基地の壁から外へ向かって飛び降りた。
地面は砂地。ここから国境までは煉との和平地帯だ。二人は足を捻ることも無く着地すると、そのまま随分と近くまでやって来ていたロボの姿を見据えた。
たっぷりと勿体ぶるように時間をとって、ロボは二人の前に立った。やはり巨大な白狼、その脇に立つ彼の姿は思っていたものとかなり違っていた。
綺麗に剃られた髭に無骨だが鼻筋の通った顔つき。短く刈られた前髪と反して一括りにされた腰まで伸びた髪は手入れされている。上背は目測通り百九十を越すソルジャーと同等。いや、年齢自体二人とさほど変わらないようだ。
武装した二人の姿を認めたロボは、首を傾げながら手にしていた徳利から酒を食らう。
「はて?あんたらは誰だ?」
「貴方のお望みの『二強』ですよ」
「『二強』?」
「私はGHOST第一部隊長。こちらは第七部隊長。貴方が出せ出せと要求していた二人ですが?」
「はぁ?」
男は更に首を傾げた。訝しげな顔は酒を食らっているにも関わらず赤みひとつ無い。じろじろと二人を見る瞳は珍しいオッドアイで、髪と同じ灰銀とアメジストの様な紫を湛えていた。
「…我々を知らないと?」
「二強は知っちゃあいるが、なんでこんな所にお出ましなんだ?俺が用事があるのは…」
「弓兵、前へ!」
ポリポリと頭を掻きながら記憶を辿るように目線を逸らすロボ。いや、ロボと思しき人間。彼が言葉を終えないうちに、凛とした声が頭上から降ってくる。第三部隊長の声だ。サーとソルジャーは砦の上を見上げる。
そこには矢を番えた師団員が八人。中央で指揮を執る第三部隊長の姿。
「…おかしいと思ったんです」
サーは頭上を眺めながら小さい溜息をひとつ。
それから「撃ェ!」の号令で弓兵の矢が一斉にロボに放たれる。サーは首を戻し、『消えた』。
「…なんの真似ですかな。騎士王」
「罪無き隣人を保護したまでですが?」
矢は全て、ロボの前に『現れた』サーの斬撃で切り落された。ロボはぽかんとそれを見ている。まだ容姿は十代半ばの青年。瞬間移動でもしたかのような、弓のスピードを越す脚力。それは現在、この場でサーしか持ち合わせない。
「ソルジャー=サラマンデ。我々は騙されていたようです」
ソルジャーもこくりと頷いた。
たかだか第三部隊長ごときが、GHOSTの師団長、即ち国の軍事のトップに立つサーにでたらめを吹き込んだ。その上でロボを殺そうとした。
『殺してしまえば停戦は破棄』と言う、この場でだ。