BOJ-SSS6【"Period", those connecting golden chains】
サー=ジャルジェ。本名はついぞ昔に忘れられてしまったジェノバ特級師団GHOSTの元師団長。『騎士王』を引退した者だけが与えられる『サー』と言う敬称。今やサーと言えば彼以外を思い浮かべる人間はいなくなった。
彼は慄と言う人種。身体の成長が実年齢の半分程度にしか相当せず、肉体の成長が異常に遅い人類亜種。
だがしかし、間違い無くこの世界にたった七人しか存在しない最強の戦闘部族筆頭。
『慄』に立ち向かえる人間は、否、人間以外も含めほぼ存在しない。この世の理、『術式』すらも小細工と言い除けるその圧倒的強さはそれ故彼等を苦しめた。
これは彼の言う少し前の物語。皇家に皇子が誕生し、彼がそれを護るべき者として引退の道を選ぶ前の話。
『ロボ』、『サラマンデ』、そして『ピリオド』。
三人の勇猛な老体がまだそう呼ばれていた時代、三十年前まで遡ろう。
※ ※ ※
隣国に『ロボ』と呼ばれる男がいる。
サーがその話を耳にしたのは三十路を迎えて久しい頃だった。今の世は汎(人間)同士の争いが絶えない。それはジェノバ公国とて例外ではなかった。主に国を守護するのが彼の率いるジェノバ特級師団GHOSTの役目。だが時として降りかかる火の粉を払い除ければならぬ時もある。今回もそうだった。
隣国・煉(れん)で『忌避すべき一族』と呼ばれる爛族(らんぞく)。その中に孤高と蛮行を好む若き狼がいる。灰銀の髪の一匹狼。故に彼は『ロボ』と呼ばれていた。
その男が国境付近で暴れ回っていると言う情報が耳に届いた。先日小競り合いから戦争と呼ばれるまでに発展してしまった争いを、サーが停戦にまで持ち込んだ。それを蒸し返す愚かな狼。彼は頬杖をついたまま視界の先で小鳥と戯れる同い歳の男に目を遣った。