BOJ-SSS6【"Period", those connecting golden chains】
「あなた方の正義と振りかざしましたね」
サーは手にしていた鞘へと刀を収めた。それから再度、鯉口を切る。
「ならばその『勝利』の背景で、どれだけの国民が貧困に喘ぎ、どれだけの子供が親を無くしているのか。あなた方は目を遣った事が一度でもありますか」
怒りの燃え盛る瞳は射抜くよりまだ強く、まるで無数の針を突き立てられるかのようにビリリと痺れが走る。身体中から汗が吹き出した。そんなものは気のせいだ、頭を軽く振る彼の下、ソルジャーは黙って砦を見上げた。そして第三部隊長の震える眼が視線を落とした瞬間、自身の首に親指を当てピッと横に引く。
ソルジャーの宣戦布告。その仕草だけで充分だった。
第三部隊長は咄嗟に手にした晩鐘をガランガランと盛大に鳴らし始めた。あれは恐らくロボの来訪を告げるもの。砦の方がにわかに殺気立ち始めた。武器のぶつかり合う音、師団員の走り回る音。そして砦の門が開かれた。走り出てきたのは制服に身を包んだ師団員達。
だがその顔色は困惑を極めている。何故、ロボの傍にサーがいるのだ?何故ソルジャーはこちらに敵意を向けているのだ?
「騎士王殿!どうかご帰還を!我々はそんな人々の無念を晴らすため戦うのです!」
「…我が師団の兵を木偶の坊呼ばわりは気に食いませんが。本当に話しても解らない木偶の坊が居るようですね」
サーは鯉口を切ったままの刀に手を掛け、上体を低く下ろした。馬鹿な子には何を言っても無駄だ。
「悪い子には、相応のお仕置きです。サラマンデ!」
叫ぶと同時にサーは思い切り砂地を駆ける。ソルジャーは自分の薙刀を真横に構え、突進するサーの前に歩み出た。
ソルジャーの数歩手前でサーは地を蹴った。それから薙刀の柄を、首を傾げたソルジャーの肩を踏み切り、砦の上へと飛び上がる。
「馬鹿げた道理は」
確かに復讐を望む者も、約定反対派には居るのだろう。やりきれない思いを持つ者も、何かを失い腸が煮えくり返る、もしくは悲嘆にくれる者も。彼等には申し訳も立たないと思う。力が欲しい。だがそれ以上、サーには守らなければならないものがある。
力があろうと救えるのは手の届く範囲だけ。戦争ともなれば失われるものは格段に増える。いくら手を伸ばしても、伸ばしても届かない先がある。そんな苦渋を噛み潰してでも彼は『間違ったもの』に立ち上がらなければならない。
それがジェノバ特急師団GHOSTの師団長、騎士王である彼の役目。
「あの世でほざけ」
既に刃は抜刀されていた。
振り翳されたそれが、第三部隊長を縦断した。