BOJ-SSS4【Gills's One day】
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「旦那様、いくら何でも買いすぎだ」
「何故です、篁も似合うと言ってくれたではないですか」
「似合うとは言ったが『買え』とは言ってない」
時刻は昼過ぎ。なかなか訪れることのないシェリルの担当区域をうろつく少年姿のギルスと篁。
昼食は街中のカフェで済ませた。ギルスのわがままで無理矢理美味しいサンドイッチを出す店を探したせいで労力を使った。篁が店を尋ねるたび人々が怯えたせいもあったが。だが、いざ見つけた店で出されたトーストに香ばしく焼かれたチキンと野菜の挟まれたサンドイッチは確かに絶品だった。
腹ごしらえを終えて、ギルス待望のお買い物時間。あれもこれもととりあえず店を回り服を物色し、試着していくギルス。その度に篁に「似合いますか?」と問い、首を縦に振ればすぐさまレジへと直行。勿論成人時の際着る服も忘れずに。
そんなこんなで篁の両腕は既にギルスの購入した服の紙袋で埋まっていた。
「そろそろ夕刻だぞ。帰らないと飯の支度が」
「もー、せっかくシェリルさんの担当区域まで来たんですよ?もう少しお買い物したいです」
「いつでも来りゃあいいだろうが。ほら、帰る…」
「いーやーでーすー!」
少年姿のギルスが駄々をこねる様はなんとも年相応といった形だ。篁は小さくため息を吐くと、両手に提げた買い物袋を拡げて見せる。
「じゃあ、あんたが自分で持つんだな?俺はこれ以上持てないぞ」
「むぅ、やっぱり帰ります」
ギルスの扱いで篁の右に出る者はいない。荷物はいつも篁が持つもの。自分で持つのは買い食いするアイスクリームかクレープくらいと勝手に決めている。案の定、山程の紙袋を見て小さく唸ったあと渋々といった様子で了解した。篁にしてみればしてやったり。それに現実問題、重い。服だけではなく靴やネクタイ、腕時計。その他諸々が入っているのだ。重くないはずがない。
「ほら、ギルス。近場の駅を訊いてこい」
「わかりました。ついでに…」
そこのクレープ屋さんに寄ってきてもいいですか?ギルスがそう尋ねようと、こてんと首を傾げた瞬間だった。
悲鳴が上がった。中年の女らしい甲高い声だ。
「ひったくりよ!誰かそいつを捕まえて!」
「ギルス」
「篁、捕まえなさい」
「解った」