このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

BOJ-SSS4【Gills's One day】



「引くと思うぞ、いきなりそんなもの贈られても」
「だって我々は食事は要りませんし、これくらいしか思いつきませんでした」
「しかもその背丈。合わせてやるのはいいと思うが誰か分からないぞ、ぱっと見」

 ナノマシン群体の衣類は本来自己細胞で生成する。が、ギルスは服選びも好きだ。本日の彼の外出背丈は百六十五センチ。ナノマシン群体は身長すら自在に変えられる。衣装持ちの彼はその中からやはり少年用に丈を膝まで詰めた白いスーツを選び、紫のリボンで結び直してもらった髪を風に遊ばせながら篁の先を往く。さながら少年そのもののギルスの腕には真っ赤な薔薇の花束。女性にはすべからく優しく。それも人間を見て学んだ。女性には花を贈るものだ、それは本を読んで学んだ。背後の篁は呆れたような声を掛けてくるがギルスは全く意に介す様子も無い。
 さて、この通りをまっすぐ行って右に折れ、更にひとつブロックを進んだ先に二人の住むマンションがある。二人が住むのは都市部南西区画。何故こんな古びた区画に住んでいるのか、近代化も久しい東区画に住むギルスには理解しかねることだった。
 中央区画を環状に巡る電車から乗り換えここまでやってきた二人。篁の言う通りギルスが何者なのかは他人には分からないようだった。だが篁の存在は国中のほぼ全ての人間が知っている。頭の後ろで腕を組み、つまらなそうに少年の姿をしたギルスに付き従う彼を行き交う皆々が避けていた。

「篁、あなたはもう少し目立たないようにはできないのですか?」
「仕方無いだろう、俺はあんた達みたいに見た目も変えられない。だから付いて行くのはやめるかって訊いたんだ」
「篁が居ないお出掛けなんてつまらないに決まっているでしょう。せめてその真っ黒な服を変えるだけでもいいと思うのですけど」
「そいつは無理な相談だ」

 ギルスは休み気分でも、お目付け役を仰せつかっている篁には毎日が仕事である。それに彼の私服に黒くないものは少ない。それはギルスもよく知っていた。しかしなぜ篁は黒にこだわるのか。人間のポリシーなどというものはやはりナノマシン群体の彼には理解し難いことだった。彼当人も白いスーツにこだわりを持つのと同じことだが、ギルスの頭は何故か別物と解釈していた。

4/11ページ
スキ