BOJ-SSS4【Gills's One day】
真っ先に箸を伸ばしたのは勿論ほうれん草。他はあまり興味が無い。だが残すのは『もったいない』らしい。何かを食しても、どうせ消化もされずナノマシン細胞が砕いて肌表面から全て放出されるのだが。しかし篁の料理は美味いと思う。一応人間的細胞の基礎として味蕾のあるナノマシン群体、その程度の判別はできる。ゆっくり食事を摂るギルスを篁は満足そうに眺めながら、人間の彼には必要不可欠なエネルギー補給をしている。
「そう言えば今日はどうするんだ?」
「今日はお散歩とショッピングです。夜は仕方ありません、『切り裂き魔』を探しましょう」
「最近はその『切り裂き魔』も仕事してないようだがな。あんたみたいに」
「私に仕事が無いのはこの国が平和な証拠です。シェリルさん達もきっとお暇でしょう」
口に出してから思い立った。そうだ、どうせ暇をしているかも知れないならシェリル達の所へ遊びに行こう。ギルスとシェリル――シェリル=アモンは現在この国に数人しかいないS級裁官だ。そして次期最高裁判官『裁き司』の座を競り合うライバル同士でもある。『完璧な裁判官』を目指して造られたギルスに対して、シェリルは単に珍しい少女型のナノマシン群体。だがその判決はいつも思慮深く行われる。今この国では今、『ニンゲンの罪をナノマシン群体が裁く』と言う異例の裁き司が誕生しつつある。ギルスはその候補、篁は現在も判決の後裁きを執行する『軽犯罪懲罰執行官』の立場にいる。故に彼等は相棒同士なのだ。勿論シェリルにも相棒がいる。名はギルバート=ソロン。この国で最も年寄りのナノマシン群体だ。と言っても稼働は十年前、人間とナノマシン群体では感覚が全てが全て違う。二人はこちらにあまり好意的ではないが、それはギルス本人の『価値観』と相棒の『趣味』のせいである。それでも少なくともシェリルは友好的な方だ。最古参のナノマシン群体が何と言おうと今の階級はギルスの方が上、特に権力体勢に興味の無いギルスでもそれくらいは知っている。
食事を終える頃にはどんな手土産を持って彼女を訪ねるかもう、決めていた。
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「シェリルさん、喜んでくれるでしょうか」