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BOJ-SSS4【Gills's One day】




 帰宅して一番に荷物の確認を始めたギルス。帰ったら手を洗えと叱られたあと、その衣類を綺麗にクローゼットに納めていた。その間篁は冷蔵庫を漁り、ギルスの我儘でハンバーグを作る事になった。なにも食べなくても問題無いくせに食事の好きなギルス。どうせ付け合せの菜類のグラッセが目当てだろうと少し多めに作りあげた。
 案の定、ハンバーグは半分残したが野菜類はおかわりしてまで食してしまった。食べ残したらラップをする。ちぐはぐな形だがハンバーグにラップをするギルスを篁は緑茶を飲みながら眺めていた。
 その後、眠るまではギルスの好きなゲームの時間だ。ソファにうずくまり、タブレット式の最新ゲーム機を膝に載せて様々なゲームに興じる。今ハマっているのはどうやらパズルゲームらしい。ぽちぽちと画面をタップする家主を余所目に篁は家事で忙しい。明日も晴れるそうだから洗濯機の予約をしたり、食器を洗ったり、主夫そのものだ。
 そして夜十時。ギルスが眠る時間が近付いていた。篁の言いつけ通りゲーム機を閉じると、ホットミルクを求めてダイニングへと向かう。

「篁、明日の朝は髪を洗ってくださいね」
「はいはい、今日は忙しくて風呂には入れなかったからな」
「篁は私が眠った後にお風呂に入るのでしょう。これからお仕事ですものね」
「まぁ、湯を浴びるだけだけどな。…ところでさっきの裁決。最後まで刑の名を聞いていなかったな」
「もちろん決まってます。目には目を、歯には歯を、悪には裁きを。極刑です」

 ホットミルクを飲み終えたギルスはあくびをしながらそう答えた。極刑。即ち、死刑。
 先程警察機関から連絡があった。あの犯人を仮釈放したと。篁は楽しみで楽しみで仕方が無かった。だからギルスが食べ残しても文句も言わなかったし、家事も鼻歌交じりにこなした。あとはギルスを寝かしつければ、『執行官』の篁の仕事だ。
 殺人が三度の飯より大好きなイカれた殺人者。篁が脅えられていた理由は間違いなくそれだ。彼がギルスと組む理由。それは全ての罪人が全て、ほぼ間違いなく極刑を与えられるから。正式に、おおっぴらに人を殺せる。先程も通行人が恐れていた『アレ』は、街中でいきなり極刑一歩手前まで人を痛めつける『拷問』を見なくて済んだからだ。

 午後十時半、ギルスはパジャマに着替えてベッドに潜り込んだ。もちろん歯も磨いた。目はもううとうとと眠そうに瞬かれ、今にも眠ってしまいそうだ。ベッド脇に腰掛け、横になったギルスに毛布をかけてやる篁。

「たかむら…おてて…」
「はいはい、握ってる」
「明日は、おにぎりが食べたい、です…」
「わかった。準備しておく。ほら、眠っちまいな」
「はい、おやすみなさい…」

 手を握ってやるとギルスはとても落ち着くらしい。リボンを解いた長い髪を手櫛で梳きながら頭をそっと撫でてやる。最後にまた我儘を一つこぼしてから、篁にそう告げてギルスは眠りに落ちていった。

 どれくらいそうしてやったろうか。するりと手を解き、篁は立ち上がった。
 無論、これから怯え逃げているであろう男に刑を執行するために。にんまりと歪んだ口元は、ギルスには見せたことがないほど不気味だ。


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