#sieben【新たな人生:後編】
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デフォルトが長い名前なので、それによる描写があるのをご了承ください。
※当物語の夢主は JOJO長編-闇の戦乙女-夢主と ほぼ同一人物ですので ご了承ください。
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男性陣のメインメンバーはあらかた自己紹介済み。
次は女性陣の番だと、近くに立つスーツの彼女に目を向けた。
「騒がしくてごめんなさいね。アルトよ、よろしくね」
「いえ、そんな……さっきのは、スカッとしたし。チェイン・皇、です……よろしく」
黒髪に落ち着いた色の瞳。クールビューティーな印象だが、恥ずかしそうにしながらも手を差し出す所はギャップがあって可愛い。
「チェインね、仲良くしてもらえると嬉しいわ」
「こちらこそ……」
ふわりと微笑み、握手を返したアルシュネムト。
中身はお互い人類でないが、友情は成立するだろう。
「アタシはK・Kよ。この前は不躾な態度とっちゃって悪かったわ」
続いて、アルトより身長が高いスレンダーな隻眼女性。
銃火器の使い手だというのは、以前の戦闘で目の当たりにしたので知っている。
しかも血操者であるのも、守護霊が見えると申告してくれたので。
因みに背景ではその幽波紋、アヌビスやザップ達が騒ぎ始めて、番頭に睨まれていた。
「気にしないで。慣れているし、貴女達の立場ならそうしちゃうでしょう。因みにK・Kっていうのはコードネーム?」
「えぇ、本名は伏せてるのよ」
「あらそう……なら、コードネームを省略して『キキ』って呼んでもいいかしら?」
「……何処かで見たジャパニーズウィッチみたいだけど……構わないわ。よろしく、アルトっち」
現状は世帯持ちというのを知らないが、なんとなく事情があるのだろうと察する。
それとは別に、元々名前で呼ぶ習慣がある闇水の姫。
明確な寿命の無い自分は、友人の子孫とも知り合う可能性が高いから。
だが、某スタジオの名作に出てくる主人公のような愛称を提案され、すこし顔がひきつる。
あまりに酷いと、ママから電話で叱ってもらわなければならないが、そこまででは無いらしい。
「ギルベルト・F・アルトシュタインと申します。何かあれば、なんなりとお申し付けください、アルトさん」
「ギルベルトね、この前は運転ありがとう。よろしくね」
最後は蚊帳の外で控えていた、包帯グルグル巻きの老執事。
この人も只者ではないとは思いつつ、何処かで聞いた覚えのある声だとも。
その辺は世界が違うのだから、おかしなことでもないと何も言わなかった。
「これで一通りかしら……といっても、ほんとはまだまだ居るんでしょ?」
「近いうちに紹介の場を開くつもりだ。その時にまた、お願いします」
「フフッ、わかったわ」
やっとこの場にいる全員との挨拶は完了する。
例えば善人悪人一心同体万年模範囚や、運がヤバすぎて嫌われおじさん(本人自覚無し)との邂逅はもう少し先である。
因みに、床に傷をつけたことや仲間に刀を向けたことに関しては、相手も相手なのでお咎め一切無しらしい。
とにもかくにも、上手くやっていけそうだ。
ギルベルトの薦めで紅茶を頂こうとした時、番頭の携帯が鳴る。
「スティーブン……わかった、直ぐに向かう。ギルダ通りに巨大スライムが現れたそうだ」
早速本日の出動案件。
毎度お馴染みギルダ・アベニュー通りで、正体不明の軟体生物が出現。
既に通りすがりの市民が巻き込まれて、養分にされてしまったらしい。
巨大スライム〜? ド〇クエかよ、と呟きながらも、ライターの確認をしているザップ。
他の面々も武器の調整をしたり、チェインの場合は窓から跳んでいってもう居ない。
「あらあら、忙しないわね。いつもこんな感じなの?」
「僕達は調停者……ライブラだからね。事件が起きれば現場に駆けつけるのは当然さ。君もその一員になったんだから、文句は受け付けないよ」
「はいは〜い。分かったわよ、偉大なる番頭さ〜ん」
呑気にアールグレイを嗜むアルトは、我関せずな様子。
おっとりしているといえばそうだが、慌てにくく冷静に判断できるとも言える。
とにかく全員出動は決定なので、堪能も程々にカップを執事へ渡した。
* * *
それから車やらバイクやらでそれぞれ移動し、現場に勢揃いしたライブラ一同。
「うわ……人間のものか異界人のものか分からない骨がウジャウジャ落ちてますよ……」
「大体の現場はチミドロフィーバーしてるけど、これはこれで……」
メンバーはクラウス、スティーブン、レオナルド、ザップ、K・K、アルシュネムトの六人と、先行していたチェイン。
その内の目が良い一般人と、電撃狙撃手はぐったりした顔。
他三名も同じような顔で、内二名は特に変わらず。
開けた大通りには、車も人の姿もあらず。正確には“形の残っているものは”だが。
見渡す限りで、白骨・白骨・鉄クズ・白骨・なんか分かんない塊・鉄クズ……という状態。
血液は一滴たりとも落ちていないし、息のあるものも居ない。
そこから数メートル先に、ぶよぶよしていて青みがかった何かが見える。
「あれが目標のスライムか……予想以上にデカいな」
「移動速度は遅いが、触れるだけで取り込まれて吸収。最終的には骨だけになり排出されるようだ」
「えっぐ……」
高身長のクラウスより高く、血槌より体格がある。
だが手当り次第に捕食しているのはなく、接触してきた場合飲み込んで綺麗に溶かし、栄養にしているようだ。
「ケッ! あーんなキングスライムもどき丸焦げにしてやらァ! 姉貴の手は煩わしませんぜ!」
じわりじわりとこちらへ近付いてくる討伐対象。
要は触れなければ脅威は無いのだが、野放しにしておく訳にもいかないので。
いの一番に立候補(?)してきたのは、何が狙いなのだろうか自信満々な銀色のクソ。
それ自体が珍しいし、何より舎弟のような口調。
「姉貴……って、まさかアルトさんのことっすか!?」
「屈服させられたからなのか、下僕に成り下がってるし……キモ」
どうやらオフィスでの一件で逆らえないと理解したらしく、猿のくせに犬のように尻尾を振っている。
よく絡む二人は全くもって同情の余地なし。
「いつから私、彼のお姉さんになってたのかしらねぇ?」
「アイツ本当に分かりやすいな……」
勝手に姉貴呼ばわりされた当の本人は、全く気にしていない。
隣の番頭は、若干引いていたが。
それはそれとして、やっと真面目に討伐を開始するようで。
ライターを一度投げては向きを変えてキャッチし、カチンと蓋を開ける。
「斗流血法、刃身の四……紅蓮骨喰!」
掌から噴き出した血液が、身の丈半分以上の大剣へと形作られた。
くるくる回して平べったい切先を、道路に叩き付ける。
そしてガリガリとコンクリートを擦りながらも走り出し、自分ごと回転させることで刃から発生した炎を前方へ放った。
「やった!……って、えっ!?」
「あらまぁ」
彼の強さは皆よく知っている。誰もが勝利を確信しただろう。
だが、自然消火された後に残っていたのは灰ではなく、ツルピカの楕円体だった。
つまり戦闘不能になっていないし、丸焦げにすらなっていないのだ。
「……なんっっだこの水まんじゅうヤロウ! 俺の炎が効かねェってどういうことだよ!?」
「火力足りないんじゃないの? これだから知能弱めの類人猿は」
「んだとこの犬女ぁ! お望みならブラックウルフのヴェリー・ウェルダンステーキにしてやんぞコラァ!!」
「お前達、喧嘩は終わってからにしろ!」
自信満々の大技が見事に失敗し、煽られて怒鳴り散らすいつものパターン。
一応番頭に叱られるまでがセットで、その他メンバーは知らん顔。
因みにヴェリー・ウェルダンとは、十段階あるお肉の焼き加減で最大ランク。
つまり赤みが一切残っておらず、しっかりと火が通っているということである。
「レオ、このスライムの弱点はやはり、中央に見えるコアか?」
「そのようですけど……どうやらあのぷよぷよ部分がどんな攻撃も弾くらしくて……」
「はァ!? 全属性耐性かよ! やっぱドラ〇エじゃねーかメタスラか!?」
「ということは……」
顕微鏡レンズのように展開した円陣が、敵を丸裸にしていく。
義眼によると、ザップの炎は必然的に防がれたようで、某ロールプレイングに出てくるレアキャラ認定されてしまった。
この時点で結果が目に見えているだろうが、振り返りざまにスティーブンは空間を一蹴する。
コンクリートを伝って氷の世界が広がっていくが、目標に到達した途端、弾けて溶けた。
間髪入れずに、右手を上げた彼の横を銃弾が掠める。
電気を帯びたブツが着弾するものの、まるでゼリーをスプーンで揺らして止まっただけのように、何事もない。
通信機越しで聴こえた舌打ちは、仕留められなかったことへか……それとも、いけ好かない男に当たらなかったことへか。
「……やっぱり僕の氷も、K・Kの銃撃も効かないみたいだ。この分だと、クラウスの血闘術もあやしいな……」
突撃しようと準備していたリーダーを制し、攻撃を中断させる。
表情は変わらないが、シュンと落ち込んだクラウスを隣のレオナルドがフォロー。
万策尽きたかと思われた時。
カツンというヒールの音が、やけに耳に響いた。
「スティーブン、それなら私に任せてくれないかしら?」
ここまでほぼ無干渉だった姫が、満面の笑み付きで歩み寄る。
提案としては悪くないはずなのに、警戒心を抱かせてしまうような。
「……勝算はあるのかい?」
「もちろん。でなきゃ今さら立候補しないわ」
番頭も例外ではなく、訝しげな顔を隠しもしない。
しかし、他に案がないのも事実。
検討に時間をかけず、彼は対抗するが如く不敵な笑みを浮かべた。
「いいだろう。お手並み拝見といこうか、Ms.アルト」
返事の代わりに口角を上げたまま、スティーブンを通り過ぎる。
喧嘩が落ち着いた犬猿二人、狙撃ポイントから戻ってきた狙撃手、持ち直したリーダー達が見守る中、同系色の異形と人外が対峙した。
「殴ってもダメ、切ってもダメ、撃ってもダメ、凍らせてもダメ……それなら、内側から壊すしかないんじゃあなあい?」
左手の人差し指を立て、前方をさす。
言わずもがなスライムのことで、君に決めたとでも言うような。
指された方はというと、進行をやめて震え始めた。
体内のあぶくが増えていき、コアの色が変わる。
それから間も空けず、咲いた花のように広がって彼女に迫った。
「えっ!? さっきまで一切攻撃してこなかったのに!」
「危ないっ、アルト!」
突然の強攻に驚く少年と、駆けつけようとするボス。
だが平行線上にいる彼に視線を向けず、手で制すアルト。
ゲル状の魔の手で包みこまれる直前、パチンという音がした。
「あらあら、防衛本能かしらねぇ? でもざ〜んねん、貴方が私に手を出した時点で……運命は決まってたのよ」
誰もが悲惨な結末を想像しただろう……いや、一部の者はどうでも良さそうだが。
最終的に聞こえてきたのは、悲鳴でも断末魔でもなく、楽しげな女の声。
精神にも肉体にも全く影響が出ていないらしく、逆にスライムの方は身動きが取れず痙攣が酷い。
どうやらアルシュネムトの能力、流法で攻撃を制限したようで。
軟体生物とはいえ、内容量は半分以上が水。
たとえ有害でも無害でもあらゆる液体を操り、かつ個体や気体に変化させられる……それがSide.Aqua。
「闇水使断、Side.Aqua……水圧壊」
動きを止めた状態で踵を返し、数歩進んで傘を差す。
左の掌は上に向け、技名を言い終えた後、空虚が握り潰された。
説明がなくともそれは、さよならの合図。
剥き出しのコアへ再びゼリー部分が戻っていくかと思えば、最初よりもコンパクトに。
まるで、丸めた紙屑を更に小さく、固くしていくような。
凝縮されることによって、内部に圧力が掛かり、ヒビが入った。
次第に亀裂が増えていき、最後は爆散する運命。
「フフッ……やっぱり傘は、持ち歩いた方が便利ね」
びちゃびちゃと、ゼリー部分やら消化不良の肉片やら何やらが飛び散る中、服を汚されることはない。
空色の髪を靡かせて、新たな仲間達の元へ戻っていった。
これはかつて、闇水の戦乙女と称された人外者が、世界を壊してしまうまでの物語。
――こうして、異例のスカウト入社は幕を閉じた。
次の幕開けは、何気なくもないオフ日。
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