#Drei【幻のゴーストワゴンを追え!!】
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電子機器と時計の針だけが響く個人病室。
戻ってきた血濡れのコートを拭いてやりながら、目を覚まさない男を見つめる。
因みに自分のコートにもベッタリだが、青色なので赤は目立たない。
別に心配しているわけじゃない。どうせしぶといから……コイツはそういう奴だ。
結局、溜息を吐く。必然的に落ちた瞼が上がった時。
ほんの一瞬、視界にふわっとした紅色。細い、糸のような。
気の所為かと擦って、目を凝らしたくらい。
「……ヴィータ? 入るよ」
「……うん」
コンコンとノック音、次いで同僚の声。
意識はそっちに持っていかれ、ドアへ振り向く。
「ザップの様子は?」
「……命に別状は無いって」
スライドされて入ってきた女性、チェインは袖で顔……正確には目元を拭いていて。
自分の不甲斐なさから泣いたのだろうと察したが、指摘する気はない。
「そ……しつこいヤツだわ」
「……いつものことだよ」
「……そうね」
安堵の言葉は口にしない。お互い彼相手だと、柄では無いから。
隣の椅子に座った彼女を一瞥して、再度ベッドを見る。
沈黙の中、変わらず眠る男から、思い出した。
「(さっきの……気のせい、かな……赤い、糸みたいな……)」
確かにあったはずの光景。
見間違えたのかと思ったが、ふと上に吊るされた輸血パックに目がいく。
ここに運び込まれて三十分も経っていないのに、もうほとんど無くなっている。
通常ならば、一時間程かかるはずなのに。
「……あれ、輸血もう無いじゃん。どんだけ血失ってんのよコイツ」
同僚も気付いたようだが、少々の悪態付き。
しかし何故かまでは分かっておらず。
「輸血……赤い糸……紅、って」
「ヴィータ、どうしたの?」
あえて言葉にすることで、頭の中を整理する。
答えは、つい最近の記憶にあったのだから。
そう、新人の彼が入社するきっかけとなった、あの事件で。
「……血だ」
「血?」
オウム返しのチェインを気に止めることもなく、椅子から下りてベッドに近付く。
目を細めて集中すると、微かに赤い線が視界に見えた。
やはり見間違いではなかったと、再度ポケットからスマホを。
「……スメちゃん、ナースコールで輸血パックの補充頼んで」
「えぇ? ど、どういうこと?」
「……あとで説明する……スタにぃ達にも一緒に」
理解出来ていないが、とりあえず言われた通りにコールボタンを押す。
履歴の一件目に表示された「スタにぃ」の名前。
あとは通話開始するだけという所で、少し考えてから彼女に振り向く。
「それと……スメちゃん、銃貸して」
* * *
「糸!?」
「……うん。ザップは血を細く伸ばして、レオくんを追跡してる」
「……なるほど、そういう事か! でかしたぞ、ザップ!」
ものの数分で、新しいパックを持ったナースが部屋に入る。
こんなに早く血液が消えている事実に、気味悪がりながらも取り替えて退室していった。
スティーブンと繋げた電話をスピーカーホンにし、チェインにも聞こえるように。
そして彼女に借りた銃の弾を抜きながら、見解を話す。
襲撃者とぶつかった際、銀男は新人の衣服に自分の血を付けた。
その時はそれが精一杯で、連れ去られるのを黙って見ているしかなく。
しかし彼は、自分が気を失っても追跡が途切れぬよう、集中力だけは切れさせなかった。
車が進み続ける限り続くが、目的地に向かっているのだから、いつかは止まる。
「ハッキリ言って神技だ。いつもはあぁだが、ぶっちゃけヤツは天才なんだよ」
ザップが目を覚ました時、ライブラ内で瞬速筆頭候補:チェインの出番。
今度こそ見失わず、終点まで追うこと。
別働隊で準備中のクラウス達が、彼女のGPS信号を最短距離で突っ切る。
たとえどんな異界の中心であろうと、必ず辿り着く。
ライブラを舐め散らかしてきた連中に、我々の恐怖を存分に味合わせるために。
「しくじるなよ、犬女」
カチンと小気味いい音と共に、掲げられるジッポライター。
何時の間にか目を覚ましていた彼の物で、追跡劇が始まる合図。
「それとヴィータ……無理すんなよ」
「……うん」
人狼に背負われた小さな同僚へ、目だけを向ける。
自然と交わった視線は、それ以上語らずとも理解できた。
必ず皆で帰って来いという、命令紛いの本心を。
火花と共に、血糸へ光が宿る。
開け放たれた窓から宙に浮かんだそれを、ピッタリ並走して追い掛け開始。
「……重くない?」
「全然。むしろもっと食べなよ」
「これでも食べてる……」
「ふふ、そっか」
先程までの緊迫ムードとは打って変わり、跳びながら会話する二人。
両手が塞がっているのに、抜群のバランス感覚で街灯への着地もなんのその。
「……見つけたっ!」
そうこう言ってる内に、霧で溢れた道路の端で橙が見えた。
出火の原因は言わずもがな、斗流血法の技。
そして車が横転しているのは、神々の義眼による視界シャッフル事故。
「やっちゃえ、ヴィータッ!」
数メートル手前の通路灯に着地したチェイン。
彼女の背から下に降り、すぐさまローラーを出す。
声援を受けながら片膝を地に付け、借りた銃を前方に構えた。
「……ブレングリード流血闘術・改、-弐式」
安全装置を外し、ボヤける視界に目を凝らす。
狙うは手なのか足なのかが何本も生えた、白の異形。
「血雨弾丸」
人差し指を曲げ、引き金をひく。
すると弾切れのはずなのに、発砲音が響いた。
発射されたのは、紅く輝く一発の銃弾。
どうせ色が付いてるだけだろうと、相手は避けない。
その油断が失敗だとも知らずに。
「……はじけて、侵せ」
空虚の右手を眼前に伸ばし、広げた掌を握り締める。
すると、到達する直前に爆発して霧散したのだ。
これは彼女の血液純度百パーセントで精製された、猛毒の弾丸。
それが霧状となり、対象の皮膚に触れるだけでも効果がある。
案の定見えないレベルで接触していた箇所から毒が回り、白い肌全体に血管が浮かび上がった。
堪らず車両から転がり落ち、のたうちまわる。
「ヴィータ、足止め御苦労!」
本元は出てきていないので何発か撃ち込もうとした時、視界がホワイトシルバーに遮られる。
ドリフトしながら停車した、ギルベルトのスーパーカーだった。
……倒すつもりだったんだけど、と心中で思いながら、銃を下ろす。
「ブチかませ! クラーウスッ!!」
虫の息ながらも襲いかかってきた異界生物を、氷を纏った蹴りでボコボコにする番頭。
その傍らを跳んだ兄の左拳が、ギラリと光った。
同時に、妹の靴裏で車輪が回り出す。
「ブレングリード流血闘術、百十一式……十字型殲滅槍!」
赤く輝く歪な十字架。
悪しきものを断罪するために、大切な仲間を助けるために、容赦なく振り下ろされる。
あまりにも身に余る……というより規格外な一撃に、迎え討つつもりだった単眼の黒異形は、刀を落とした。
衝撃と共に、全てが木端微塵になった……はずだったが。
――こうして、新人誘拐事件は幕を閉じた……と思われる。
次の幕開けは、そもそもの研究分野と、新たな出会い。
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