第13夜【記憶と思い出】
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あれから、刻は過ぎる。
『巻き戻しの街』などと呼ばれていた場所は、アレンやリナリー、そしてミランダという勇気ある女性のお陰で、やっと日常を取り戻した。
しかし代償は大きく、エクソシスト二人は重傷を負い、数日療養を余儀なくされて。
やっとこさ退院し、教団へと戻って来たのだ。
「うーー……」
ある日の朝、様々な人間で賑わう食堂。
横繋がりの机に、頭を乗せるひとりの男。
片目は眼帯だが、唯一見える瞳は疲れているよう。
横向きの関係でほっぺが歪んでいる青年、ラビだった。
「おはようございます……ブックマン、ラビはどうかしたんですか?」
「おはよう小僧。こいつの事は気にせんでいい」
「はぁ……」
そこに大量のご飯を持った健啖家、アレンがやってくる。
隣で本当にどうでも良さそうな爺の反対側に、どかりと座った。
音が大きいのは食料の重さである。
「うーー、シナデ……」
「……え、シナデ?」
絶えず口に食べ物を突っ込む少年の耳に、聞き捨てならない名前が。思わず手が止まる。
「……んあ、アレンさー? おはよう~」
「おはようございます。あの、ラビ……今、シナデって……」
「へ……アレンもしかして、シナデの居場所知ってんのか!?」
「うぇっ!?」
現実に帰ってきたラビは起き上がり、やっとアレンの存在に気付く。
しかし彼の一言が、さらに覚醒へと導いた。
「昨日の夜任務から帰ってきて医務室行ったらもう退院したって聞いて、今日朝一にシナデの部屋行ったら留守で、教団中探し回ったのに何処にも居ないんさ!!」
バンッと机を叩いて、一瞬皿が浮く。ここまで一息である。
帰ってきたら、真っ先に会いに行くから。眠る彼女の手を取り、決めていたこと。
だが現実はそう上手くいかず、行き違いやら何やらが災いし、シナデに会えていない時間更新中。
「おい馬鹿弟子、食堂では静かにせんか」
「これが大人しくしてられるかよパンダジジィ! オレは今すぐシナデに会いたいんさ!! あ~~~、シナデ~~!!」
頭をガシガシかいて嘆いている彼は、後ろに反り気味。
「……あ」
ただ自分の恋焦がれる少女の事について聞こうと思っていただけなのに、予想もつかない反動が来た。
一周廻って引いているアレンだが、ふとラビの後ろを見る。
「え」
それに気付いて振り返ると、私服のシナデが食堂に来たところで。
視界に入った瞬間、身体は勝手に動く。
「っ、シナデッ!!」
「……あ、ナビ……わっ!」
自然と歩く速度は上がり、ストライクへ一直線。
彼に気付いてこちらを見るも、止まることなく突撃した。
性別の問題で支えられず、足が床から離れる。
その様はさながら、ラビに押し倒される形に。
「会いたかった……会いたかったさシナデ!! もう喋れるんだな!? 怪我も大丈夫なんだな!?」
「……うん……全部、治ったよ……」
「はぁ~〜、良かったさ……」
シナデは下のまま、力一杯抱きしめる。
至近距離で彼女の声も、表情も確認出来たことで、本当に完治したと安心した。
そう、彼はまだ気付いていない。
「良くねェだろうが発情兎」
「あ、ユウ居たの?」
特に問題無ければ、神田が必ず一緒にいることに。青筋が何本か、額に通っている。
「ラビ貴方、病み上がりのシナデになんて事してるのよ!?」
「げっ、リナリーまで!?」
たまたま廊下で合流した彼女も、後ろについてきていた。
誰の味方かと問われれば、迷わずシナデの味方だと即答するリナリーが怒らないはずもなく。
「ちょっと、僕がいることも忘れないでください」
一部始終をしっかり見ていたアレンも、背後から包囲。
倒れたままの少女を起こすのも忘れずに。
「アレン……ま、待つさ三人共、話せば分かるって――」
それから程なくして、青年の断末魔が食堂に響き渡ったという。
「大丈夫か、シナデ嬢。どれ、診てやるからじっとしておれ」
「……はい」
座り込んで後頭部をさする彼女に、膝を折って話しかける老人。
ブックマンは世界のあらゆる知識を有する故、医術にも心得がある。
「ふむ、頭をぶつけたぐらいじゃな。全く、うちの馬鹿弟子がすまんの」
「……いえ……ありがとう、ございます……」
幸い大事には至っておらず、弟子の非を詫びる彼に、立ち上がってから頭を下げるシナデ。
とかなんとかやっている内に、ウサギを締め終えた神田がジェリーから食事を受け取っていた。
アレンとリナリーもやることが終わったらしく、席に戻るなり注文するなりしている。
「行くぞ、シナデ」
「……うん」
頼んだものは、持ち運べる握り飯やサンドイッチにしたらしく、トレーに乗せたまま彼女の横を通り過ぎ、食堂を出ていった神田。
自分も出来上がったお弁当を受け取り、アレン達に軽く手を振って行ってしまった。
*