code.17【束の間の一歩】
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午前七時五十分、引き続き引き続きリビングにて。
卵焼きは完成し、同じフライパンでウインナーを焼きながら、グリルで鯖を焼く。
出来上がったら皿に乗せ、味噌汁とポテトサラダ、ご飯を器に盛り、レイジの分の朝御飯が用意できた。
「ふんふ〜ん。今日の晩御飯は、アユのカレ〜!」
一方、まだ朝なのに夕食を楽しみにしている小南。
鼻歌を歌いながら、広間に置いてある戸棚の引き戸を開ける。
「……あれ?」
しかし、中を確認した途端、笑顔が消えた。
「どうかしたんですか? 小南先輩」
棚前で俯いている彼女に気付き、声を掛ける後輩。
「あたしの……あたしのどら焼きがないっ!!」
次第にぷるぷる震え始めたかと思えば、突然大声を出した羽髪の少女。
「ねぇとりまる、あたしのどら焼き知らない!?」
「いや、知らない、です」
隣に来ていた烏丸の身体をぶんぶん振りながら聞いているが、所在は判明しない。
「レイジさんは!?」
「俺も知らないな」
「アユは!?」
「どら焼き? どら焼きなら昨日しおりが……――」
と口にして、思い出す。
昨日迅が言っていた、いいとこのどら焼きは小南に渡してくれればいいという話を。
作業をしながらだったので、思考が遅れてしまったのだ。
「うさみは!? うさみは何処!?」
「お、応接室だが……」
訂正しようと思ったのだが、時既に遅し。
涙も浮かんだ凄い形相で迫られ、質問に答えることしか出来なかった。
そこからの行動は素早く、あっという間に部屋を出ていく。
残された二人は暫く固まっていたが、味噌汁をすする音で我に返る。
「……しまった。代わりのどら焼き、私が持ってるのについ答えちまった」
「まぁ、あの勢いじゃしょうがないっすよ」
「だが、あのまま放っておくのもやばいんじゃないのか?」
三者三様の反応の中、最年長の意見がごもっともで。
「分かってる。だが今の私は、お前達とも面識が無い一般人だから、きりえの所に行ってもどう止めればいいか……」
そう。うさみや迅の時もそうだったが、本来は気心の知れた仲でも、修達の前ではほぼ初対面という設定。
例えばリビングで料理をしている時に顔合わせし、お互い自己紹介したとする。
それからどら焼きが無いという話になり、宇佐美の名前を出したので小南が応接室へ向かった、という流れは理解されるだろう。
だが昨日鹿のやで追加分を買ったことを修達には話していない。
なにもかも説明すればなんとかなるだろうが、嘘で凝り固めた形になるのが正直嫌なのだ。
「わかった。なら俺も行こう」
「俺も行きますよ」
不機嫌そうに見える面持ちの奥にある心情を察したのだろう。
ちょうど食べ終わって箸を置いたレイジと、実は卵焼きを一切れ口に運んでいた京介。
嫌な顔せず立ち上がり、驚いている彼女を通り過ぎた。
「俺達が一緒に行けば、一般人“設定”のおまえがいても問題ないだろう。それにもし小南が失言しても、フォローできるしな」
「小南先輩、素で間違えそうっすしね」
ぽんぽんと少女の頭を撫でるレイジ。
さっきも撫でられたのでニヤケはしないが、二人の配慮が嬉しくて、無意識に微笑む。
「……ありがとな、二人共」
「気にするな」
「このくらい、お易い御用です」
普段から、お互い助け合う間柄。貸しも借りも必要ない。
先頭は木崎に任せ、途中部屋に寄ってから応接室に向かうことにしたアユだった。
* * *
ついでに皆にお茶でも出そうかと思ったが、あの三人が後輩と顔合わせした時点で、迅がそれぞれ師弟に結びつけそうだと予想する。
小南は強い子じゃないと気が済まないだろうから、おそらく遊真。
チームのバランス的に、千佳は銃手か狙撃手に落ち着きそうなので、どっちも経験があるレイジが担当しそう。
となると、余った修は万能手の烏丸になるかもしれない。
ふと、もし自分が近界民でも何でもなく、ただの三門市市民で。
千佳達と一緒にボーダーへ入隊する、なんてことになったとしたら、自分の師匠は誰になるのだろうか。
この時点で空いているのは迅だけだから、多分彼だろう。
ほんの少し想像してみる。
「……殴りそうだわ」
結局いつも通りというか、やっぱりそうなるだろうというか。
人間として嫌いではないが、好きでもない。
だからこそ、自分的に気に入らない時は物理に走ってしまう。
何故ならそれが、偽りない本心だから。
「騙したのぉっ!?」
色々考えている内に、応接室の近くまで来ていたらしく。
可愛い女の子の悲痛な声が聞こえてきた。
「(また騙されてんのか、あいつ……)」
もはや彼女が一日一回以上騙されるのは当たり前な日々。
おそらく迅か烏丸辺りだろうな、と苦笑。
部屋のドアは開けてくれている。
気持ちを切り替えるために一度深呼吸してから、中を覗いた。
――こうして、朝の一時は幕を閉じた。
次の幕開けは、手伝いの継続。
*