code.17【束の間の一歩】
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午前七時三十一分頃、引き続きリビングにて。
「ん? ようたろうは何処に……」
一人になった……それはつまり、さっきまで居たはずのお子様が居なくなったということ。
さっきまで椅子に座ってぽけぽけしていたのに。
雷神丸も一緒に消えたので、おそらく乗って移動したんだろうと考察している時、ドアが開く。
もしかして帰ってきたのかと振り返ると、そこに居たのは、赤い制服に身を包んだ長髪の女の子。
「きりえ……」
玉狛第一のエース攻撃手、小南桐絵。
予想が外れたと思っている鮎だが、そっちはそっちで目をぱちくりさせている。
「アユ? こんな朝から何して……」
と言いかけた途中で、あっ、と口に手を当てる小南。
迅から事前に聞いていた『お客さんがいる時は、他人のフリをしてほしい』を思い出したのだろう。
「……今は大丈夫だ。おはよう、きりえ」
「……おはよう、アユ」
その配慮は嬉しくて、ほんのり笑みを浮かべる。
改めて挨拶を交わす二人は、お互いに少し恥ずかしいようだ。
「えっ、まさか今日の朝御飯、アユが作ったの!? なんで知らせてくれないのよ!」
「いや、昨日の夜決めたことだから……」
なんてのも束の間、部屋中に漂ういい匂いと彼女のエプロン姿で察したのだろう。
怒りも含まれた形相で詰め寄ってくる。さすがに悪いと思った部分もあり、鮎は引き気味。
そこへちょうど、ガチャリというノブを回す音。
「アユに文句を言っても仕方ないだろう。諦めろ、小南」
おそらく結構な大声で叫んでいたのが聞こえたのだろう。
入ってきた時から状況を理解している男が二人。
「レイジ、とりまる、おはよう」
「あぁ、おはよう」
「おはようございます」
木崎隊でもある玉狛第一の隊長、木崎レイジと烏丸京介。
所属支部なので何ら不思議は無いのだが、照らし合わせたかのようにメンバーが揃った。
「きりえととりまるは朝食食べてきたよな。レイジはまだだろう? わざわざ食材買いに行ってくれて助かったよ」
「気にするな、一日でも当番を代わってくれて助かってる。俺の分はゆっくりでいい」
「分かった」
彼の手には、きっちり詰め込まれたビニール袋が四つ。
味噌汁を温めなおしているアユの近くで、冷蔵庫に食材を入れていく。
「ね、ねぇアユ、今日はお昼も夜もご飯を作ってくれるのよね?」
「あぁ、そのつもりだが」
ボウルに卵を割って、醤油とだしの素、それから水を入れる。
手はお箸で混ぜながら、カウンター越しの小南に視線は向けず、質問に答えた。
「なら夜はカレーにしてよ! あたし、アユのカレーが食べたい!」
「はぁ? カレーはお前の担当だろうが。大体私まで作ったら飽きるんじゃないのか?」
卵焼き用の四角いフライパンに油を引いて、混ぜた卵を少しだけ落とす。
五秒程おいてからスクランブルエッグにする要領で卵を混ぜて、上に寄せる。
空いた所へまた卵を落とし、奥から手前へ巻いていく。それを繰り返すことで、皆が知ってる卵焼きの出来上がり。
なんて作業をしながら、ただ単に得意料理を当番の時に振舞っていたのが担当みたいな認識になっている鮎だが、あながち間違いでもないので誰も指摘しない。
「俺はカレーでも構いませんけど」
そこへ小南に味方する者が一名。離れた所で見守っていた烏丸だ。
「とりまる〜! あんたいいこと言うじゃない!」
「いえ、俺もアユさんのカレーが食べたいだけです」
形勢が有利になって嬉しそうな彼女。
だがあくまで利害が一致したという体で、片手を上げてピシャリと言い切る青年。
こうなると自然に多数決という流れになり、三人で何も言わずレイジを見た。
「俺もカレーで構わないぞ」
なんとなく予想はしていたが、仮峰の味方はいなかったらしい。
色んな意味を込めて、大きくため息を吐く。
「……わかったよ。夜はカレーにする」
「やった〜っ! ありがとっアユ!」
結局作り手が折れる形で、本日の晩御飯メニューが決まった。
ぱあっと笑顔が咲き誇る桐絵は、反対側にまわって薄金の少女を抱きしめる。
おいきりえっ、危ないだろ! と注意しつつ卵を焼いているアユの表情は、全く怒っていなかった。
*