code.17【束の間の一歩】
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午前六時十五分頃、玉狛の朝はこんな感じ。
いつもと違うのは、稀に泊まる元メンバーと、新たな隊員が入隊したことだろう。
「おはよ〜……あ! アユちゃん!!」
「あぁ、おはようしおり……ぐっ」
次にリビングへ入ってきたのは宇佐美。
少々残る寝癖はそのままに、眼鏡を浮かせた片目を擦っている。
ぼやけた視界で、見慣れた水色と薄黄だと理解した瞬間、背の低い方に突撃していった。
予想外だったため、なにかに潰されたような声が出る。
「やっと普通に喋れる〜! 今だけだけど」
「あー……なんかすまんな、しおり」
首元に巻き付く腕を軽く叩き、言外にちょっと苦しいことを伝える。
意味を察した宇佐美は少し離れるものの、絡めはそのまま。
こうやって気兼ねなくいれるのは、今だけかもしれないから。
お互いそれをわかっている。
「仕方ないよ〜、気にしないで! あ、当番ありがとね! 今日は遊真くん達への説明とかあるから助かるよ!」
「このくらいしか手伝い出来ないが、今日一日は任せてくれ。じんも、朝御飯はもう少し掛かるから待ってろ」
『はーい』
といっても、支度の邪魔になるので腕を戻す。
キッチンに戻り、作業に戻った鮎。
宇佐美と迅は、斜め向かいにあるソファに並んで座って待つことにしたようだ。
「……聞いてくれ、宇佐美。さっきここ入った時に、アユちゃんがエプロン姿でコーヒーポット持ってたんだけどさ……おれの奥さんに見えたんだよ」
流石に無言では面白くないので、迅から話を切り出す。
しかし何故か膝に肘を置いて前のめり、口元が手で隠れる、某ロボットアニメの総司令のような。
「迅さん、そろそろ発言改めないと通報されるよ」
そんな彼には目もくれず、スマホを触りながら辛辣な返し。
因みに意外と距離があるのと、極力小声で話しているので、中心人物には聞こえていないようだ。
「……なんか、アユちゃん関わると当たり強くない?」
「そりゃあアユちゃんはここのアイドルみたいなものだから! アタシ達は言うなれば親衛隊」
所属は移籍しても、玉狛にいた経歴は変わらない。
少々過剰ともとれるが、彼女を信頼している証拠。
メンバーは彼女以外に、玉狛第一と支部長。お子様はあんまり意味がわかってないので除外。
「確かに一理あるけど、おれも入れてくれないの?」
「迅さんはアユちゃんを性的な目で見てるからダメ」
「ぐっ……否定できない」
少しは否定しろとツッコミたくなるが、会話に気付いて、どうかしたか? と聞いてきた鮎。
なんでもないよー、と照らし合わせた訳でもないのにハモる二人に首を傾げつつ、作業に戻る。
それから数分経ち、午前六時二十分頃。
「あ、おはようみんな」
「おはよ〜う」
扉が開き、一番最初に入って来たのは修。
続いて千佳、最後に遊真。それぞれに、おはようございますと挨拶。
「おはよう、お前ら」
「おはよう……早いな、鮎」
「昨日言っだだろ? できる限りサポートするって。朝御飯もう出来るから、座っててくれ」
幼馴染みから聞いていたことがあるのだろう、彼女が朝に弱いことに。
驚きつつ、作っている料理に期待の眼差しを向ける。
宇佐美が率先してお皿を並べようとしてくれるので、三雲と雨取も手伝ってくれて、感謝を述べた。
「これって視えてたの?」
「……いや、全然」
既にお互い過去を共有し、支部メンバーへの態度も理解した遊真が、遠巻きに見つめる迅にひっそりと聞く。
彼女の未来が視えにくい話は一応していたので、視えなかった旨を伝えておく。
残念というより、逆に良かったような声調で。
ものの数分で出来上がったらしく、机に並べられていく。
合わせ味噌に、豆腐とネギとワカメが具材の味噌汁。
おかずは卵焼き、焼き鯖、ポテトサラダ、ウインナーなどなど。
主食は白米か食パンか選べる仕様。
『いただきまーす』
みんなで一緒に手を合わせて、食事への感謝を。
因みに昨日材料が一切無かったのに、千佳用の白米を含めてこれだけの料理を作れたのは、実は昨日の夜にひっそりレイジが買ってきてくれていたから。
といっても、まだ寝ている陽太郎と支部長と自分を含めれば少し足りないため、急遽朝からも買いに行ったらしく、不在である。
「美味しい……全部美味しい〜……天才……」
「大袈裟ですよ……」
「すごくうまいぞ!」
ほっぺに手を当てて堪能しつつ感動している宇佐美。
褒められ慣れていない本人は、苦笑いではあるが内心嬉しい。
証拠に、続いた純粋な賞賛で若干微笑んでいる。
その様子を、にこにこして見守る者が二人。あまり見ないなと驚く者が一人。
とにもかくにも、料理は好評でした。
「みんなー、この後は早速ボーダーについて説明しようと思うから、別室に行こうか」
『はい!』
「ほーい」
午前七時頃。皆朝食を食べ終え、宇佐美から声がかかる。
しっかり返事する修と千佳。緩く返事する遊真。
既に洗い物は終えて、まだ食べていないメンバー分の朝食を用意し始めている鮎。
「じゃあまたね、アユちゃん」
「あぁ。頑張れよ、ちか」
軽く手を振ってくれた親友の頭をぽんぽんと、応援の意味で撫でる。
リビングを出る前にも振り返った千佳に、自分も手を振って見送った。
それから五分も経たないうちに、また扉が開く。
「おう、おはようアユ」
「おはようございます、りんどうさん。朝食出来てますよ」
今度はスーツをパリッと着こなした支部長と、半ば引率されている陽太郎。
雷神丸の上でうつらうつらしている彼にも、おはよう、ようたろう、と言うと、おはよ……とかぼそい返事。
朝日射し込む窓を背にした席で、持参した新聞を開いて読むボス。
寝ぼけながら食パンを取り、口に入れる寸前でカピバラに食べられるお子様。
他人が見ればおかしな光景だが、経緯も事情も理解している鮎は微笑みつつ、新しいパンとコーヒーの準備をした。
「りんどうさん、これお弁当です。大したもんじゃないんですが……」
「おぉ! ありがとなアユ、助かるぜ。じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
残さずきっちり食べ終わった林藤は、皿を下げたついでに包みを渡される。
昼食の足しにする予定で作っていた照り焼きチキンを中心に、彼女が作ったお弁当。
感謝の印に頭をぽんぽんとしてから、部屋を後にした。
少々驚きつつ、嬉しさもあったのでしばらくニヤケてしまったが、一人になったリビングでは誰にも見られていない。
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