code.16【過去は過去 今は今】
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川のせせらぎだけが、耳に届く屋上で。
遊真にとってかなりの衝撃だったらしく、未だ瞳を大きく開いて驚いている。
「それって、つまり……アユが、近界民? おれと、同じ……」
「あぁ、そうだ。私の場合は、少し次元が違うみたいだがな」
只者ではないとお互い感じてはいた。先に知ったのは鮎の方だが。
因みに空郷界ってのは、私がつけた名称だ、と付け足しておく。
「それだけじゃないぜ。アユちゃんはボーダー本部所属の謎隊員、ネアでもあるんだ!」
「変に略すな。てかなんでお前がドヤ顔なんだよ」
「だって知ってる人少ないし」
「意味が分からん……」
鼻高々に教えている迅。
秘密を話す時は、ちょっと気分が高まる気がする。
他にも理由はあるだろうが、彼女には理解出来ない。
「ネアって、学校に出たモールモッドを倒した……アユがやったってこと?」
「あぁ、それは私だ」
「確かに、トリオン反応が同じだ。今まで気付かなかったな」
ぼんちエリートより反応は薄め。
むしろ数日前のイレギュラー門事件の方が気になったようだ。
実際、修と居るのを、バラバラのトリオン兵を、お互い見ている。
「じゃあ、迅さんたちともさいしょから知り合いだったの?」
「あぁ……騙しててごめんな、ゆーま」
「いいよべつに。なるほど、それであのときウソついてるように感じたのか」
「あの時?」
「アユが迅さんのこと、『じんさん』って言ったとき」
山守神社で父親の話を聞いた際だ。
確かにウソを吐いている。とても些細だが。
「……えっ、何それ聞いてない」
「話す必要ないだろ」
「えー、気になる〜!」
「うぜぇ……」
「(ふむ? 仲わるいのか?)」
今更だが、愛しい彼女に対しては口調が変わる。
逆に腐れ縁に対しては態度が酷くなる。初見で判断しにくい間柄。
「……そっか。おれだけじゃ、なかったんだ……」
結果、同じような経緯だったことが分かる。
目的の無くなった遊真にとって、ほんの少しでも良い知らせ。
なんとなく安堵したように見えた。
「引き留めるつもりは無い。さっきも言ったし、じんも言ってるけど、お前が決めることだからな。ただまぁ……仮峰鮎っていう名前の近界民が居たこと、覚えてってくれたらいいよ」
「……うん、そうする」
それでも元気無く見えるので、ぽんぽんと頭を撫でる。
年上なのに、ほぼ定番化の。
「長々と悪かったな。そろそろ戻るよ」
「アユ」
飲み終わったコップを二人分持ち、立ち上がる仮峰。
考える時間も必要だろうから。
そんな彼女の足を止める、背後からの声。
「ミルクティー、うまかった」
「……そうか。またいつでも作ってやるよ」
嬉しい言葉に自然と微笑む。
今度こそ迅を先頭で、屋上から退散しようとした時。
「お、メガネくん」
一瞬まさかという思考が浮かぶ中、背から覗くと本当に修がいる。
今来たところのようだから、近界民云々の話は大丈夫だろうが。
「あ、迅さん……と、アユ?」
「(同じ反応……)」
さっきの遊真と似た返し。
本人は気付いていないが、年齢も性別も違う迅と仮峰が一緒にいる事自体珍しい、と思う。
驚かれるのも無理はない。
「……ゆーまを頼むな」
すれ違う際、小声で零す。
きっと話し合いするのだろうと踏んでいたから。
返答は要らないつもりなので、振り返らず扉をくぐった。
「……ちか」
「アユちゃん?」
どうやら彼だけではなかったようで。
中間踊り場に座り込む、さっき別行動になった親友。
「……先行くね」
空のコップをさっと奪い、二人に笑顔で手を振って、自称実力派エリートは退散。
鮎だけに聞こえるよう、一言残して。
首を動かさない一瞥の後、千佳の隣へ立てた片膝に腕を置いて座る。
「さっきリビングに居なかったな、うさみさんと部屋で話してたのか?」
ミルクティーを作りに行った時は誰もおらず。
宇佐美が気を利かせたのだろうし、そのまま寝ると思っていたので少し驚いた。
「うん。ボーダーの事とか、色々聞いてて……ねぇ、アユちゃん」
「ん?」
ボーダーの概要を知るということは、知りたがるということは。
続く言葉は、必然に。
「わたし、ボーダーに入ろうと思うの」
隊員にだって女性はいる。
かくいう仮峰もそう、正体不明だが。
正直、こんな機会がなければ、一生聞かないだろうと思っていた。
「修くんには、止められそうになったけど……でも、諦めたくない」
だが、控えめな彼女の声に、瞳に、迷いは感じられず。
その場のノリだとか、友達が言ったからだとかでは無いと、理解する。
「……なんか、今日はそればっかだな」
先程から一大決心ばかり聞く側だ、と独り言つ。
「いや、こっちの話。ちかが入りたいって、自分で考えて決めたんだろ? 私はお前と一番の友達……ちょっと照れくさいが、親友だって思ってる。だが私は、お前の何もかもを決められる大層な人間でもない。仮に私がやめろって言って、お前はやめるのか?」
彼女は少々流される所があるのを知っている。
そして、変に頑固な部分があるのも知っている。
生半可な覚悟で務まるような組織ではない。
だからほんの少し試すつもりで、真っ直ぐ見つめた。
「……ううん、やめない」
「なら、答えはひとつだ」
そう言うと思ってた、自然と笑顔が浮かぶ。
ぽんっと、千佳の頭に手を乗せて撫でる。
「やれるところまでやってみればいい、ちかならきっと大丈夫。私はここに居るんだから」
「……うん!」
ぱぁっと明るくなったのは見てとれた。可愛いと思いながら撫でまくる。
「アユちゃん。わたしもアユちゃんのこと、親友って思ってるから!」
「っ……そ、そうか。ありがとう……」
とそこに、不意打ちで良い意味の爆弾投下をされた。
予想外に嬉しくて、顔が熱くなる。
照れているのだが、恥ずかしいのでそっぽを向いて頬をかく。
ちょうどその時、上方でガチャリと音がした。
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