code.13【心臓と副作用】
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鈴の機能は健在。
居ないかもしれないが、軽く鳴らして手を合わせる千佳。
「えっとね、ほんとはそうなの。近界民にさらわれたの。小学校のとき、なかよくしてくれた友達と……わたしの、兄さん」
隠すのはやめて、話すことにしたようで。
まだボーダーもない昔と、ボーダーが生まれてからの出来事。
ただひとり信じてくれた友人と、肉親のひとりを。
「二人がさらわれたのは、わたしのせいなの。二人とも、わたしが相談なんかして、巻き込んだから……」
「なるほどね……だから、もう他の人には頼りたくないって言ってたわけか。ボーダーとかにも」
「うん……だって、迷惑かけるだけだから……アユちゃんには、頼るけど」
さっき約束したのだ。でなきゃほっぺたのびのびの刑が処されるので。
一瞥した親友同士で目が合い、仮峰は頷く。
「まぁ、キモチはわからんでもないけどなー……おれも今日、オサム達を巻き込んだし。おれといっしょにいたせいで、オサムの出世をふいにしたかもしれん。だとしたらもうしわけない」
彼にしては、珍しく落ち込んでいる。
修と比べるなら、メンタル強い方だと思うので。
「……その辺は大丈夫じゃないか?」
「うん。修くんはたぶん、そんなこと気にしてない」
「む?」
「『自分の意思でやったことだ。おまえが気にすることじゃない』って言うよ、たぶん」
「うーむ、言いそう」
「同感」
二人して励ますというより、性格を分かっているから。
付き合い長めの彼女なんて、眼鏡の部分まで形を作って真似している。
ちょっと大きくないかと思うが、可愛いので許す。
「修くんはさっきも、自分じゃなくて遊真くんの心配してたよ」
「あいつは、他人の心配と自分の心配のバランスがおかしいからな」
「むしろ自分の心配ちゃんとしてるのかこっちが心配になる」
『たしかに』
他人の為に一生懸命なのは、中々できることではない。
人間は欲望を持っているから。
でもそればっかりじゃあ身が持たないだろう。
「学校に近界民が襲ってきたときも、まっさきに、みんなを守ろうとしたよね。修くんって、いつも自分以外の誰かのことを心配してる気がする」
「……言えてるな」
「あぁ」
だからこそ、周りの友は気遣うのだ。彼が倒れてしまう前に。
「そもそも、おれのことも心配する理由なんかないのに」
「え、でも……ボーダーの人が、遊真くんを狙って来るんでしょ?」
「ボーダーが何人で来ようと、本気でやれば、おれとレプリカが負けるような相手はいないよ」
随分と自信ありだが、実際彼は強い。
A級七位の三輪隊を退けているし、トリオン兵相手に無傷。
「……いや、一人……二人いるか」
「二人?」
「迅さんと……ネアって人」
思い当たる人物を二名上げた。
ひとりは先程も手を貸したりしてくれたS級隊員、迅悠一。
なんだかんだ自称するのは伊達じゃなく、そもそも黒トリガー適合者。
遊真に話してないはずだが、見抜かれているらしい。
「あのおでこにサングラスの人と……ネア、さん?」
「そう」
もうひとりは、ぶっちゃけると今ここにいる仮峰鮎。
またの名を、殲滅処理課のネア。
ランク戦には諸事情で不参加のため、順位もランクも無い、UNKNOWN。
だがボーダー内では一目置かれているらしく、実力者からの悪い噂は今のところ皆無。
聞き覚えのない名前に、千佳は首を傾げる。
「迅さんは、たぶん相当強い……勝てるかどうかは、やってみなきゃわかんないな。ネアって人は、おれ自身見たことないけど……レプリカ曰く、きっと強いと思う」
「(中々評価されてんな、アイツ)」
それぞれ曖昧なものの、なんとなく嬉しそうに見えた。
彼女自身、名が出たのには驚いたが、反応は薄め。
元々強い強いと言われて、舞い上がる性格でなし。
「じゃあ、あの人達が追っ手になったら!」
「いいや、そうはならないよ」
慌てる少女を他所に、確信を持った声色。
立ち上がり、千佳を通り過ぎていった。
彼の背中を見つめるアユは、当然の疑問を口にする。
「どうして、そう思うんだ?」
「ふむ?」
迅との交流歴は、表面上遊真の方が長い。
事実は勿論、彼女が上だが。
どちらにしても気になったのだ。何故言いきれるのかと。
「……いや、愚問だったな」
しかし答えを聞いても、違和感のない反応を百パーセント出来るか微妙に感じた。
こちらも立ち上がって、ふたりを通り過ぎ、鳥居と少年の間くらいで振り返る。
「随分と、信頼されてるんだな……じん“さん”は」
ここで初めて、彼女は遊真に嘘をつく。
内容としては些細な『敬称』だが。
瞳孔が黒く染まり、彼の視界に靄が写る……かと思われた。
「おまえ……」
「ん、何だ?」
「……いや、何でもない。(ウソついたように見えたけど、気のせいか?)」
見た目でいうと灰色で止まり、元に戻る。
口から出てくるモヤも、瞬きする間に分からなくなった。
反応しかけて止まった、という所かと。
今までにない感覚に一瞬固まるが、顔には出さなかった。
人は、心の中で考えを纏めることが出来る。
だが実際、どの器官を使っているだろう。
心臓なのか頭なのか、子供に質問されて答えられるだろうか。
もし、人間としてあるべきところに“無かったら”。
延長線上の力が、問題なく発揮するかなんて、誰にも分からない。
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