code.19【赤の五星と銀の菱星:前編】
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約束の時間まで二十分以上あったが、早めに行っても損はしないだろうと考える。
数分ほどで本部長室前に着き、横のボタンを押した。
「お疲れ様です。殲滅処理課のネアです」
『あらネア、来たのね。今開けるわ』
応対したのは本部長補佐である沢村だと、普段からよく聞いているので声で分かる。
程なくして自動ドアがスライドし、中に入った。
「おはよう、アユ。今日は早く起きれたのね」
「おはようございます、きょうこさん。これでも学校通ってますから……どんな印象抱いてんですか」
「大変な時に寝ちゃってて、報告も何もしてくれない印象かしらね」
「(まだ根に持ってるよこの人……)」
部屋には自分を合わせて三人のみ、しかも正体を知っている面子だったので、早々にペルソナを解除。
まるで常日頃遅刻しているような口振りをされ、少し不機嫌になるが呆れも半分。
恨みに持たれるよりは、可愛いものなので。
「ははっ、これから挽回していかないとな、仮峰」
ため息を吐く少女の前で、机越しに笑みを浮かべる男性。
ボーダー本部、本部長の忍田真史。林藤を含め、昔馴染みの関係だ。
……充分してるつもりですけどね、と零しながら、彼とも挨拶を交わす。
「それでにんださん、私に御用でしょうか」
「あぁ、その前に……昨日林藤支部長のお弁当を頂いたんだが、おまえが作ったと聞いたよ。美味しかった」
「え? あ、はい……ありがとうございます」
いつまでも世間話しているタチでもないので自分から聞いてみたが、先に不意打ちをくらう。
どうやら照り焼きチキンの一切れを貰ったらしく、感想を伝えられた。
「さて、まずは保留している案件から片付けよう。何か、私に報告することはないか?」
「あー……すみません、すっかり忘れてました。みくも隊員とくがゆーまの件ですよね」
そして、ここからは真面目な話に入る。
事の発端は、数日前に起きた未確認トリオン反応によるネイバー討伐から。
あの日、現場の一部始終を目撃した筈の人間であったが、他の報告とさして変わらず、その時は進展しなかった。
結局は追跡調査等の成果もあり、人型近界民の存在によるものだったわけだが。
「ま、もう調べがついてるとは思いますけど……A十一地区のトリオン反応はくがゆーまのもので、彼は近界民です」
「あぁ、それに関しては把握している。おまえが最初の時点で報告しなかったのは、三雲くんと友人だったからか?」
「まぁ、そうなりますね……不確定だったというのも本当だったので。今はゆーまとも友達になりました」
「そうか、それは良かったな。私も有吾さんには世話になった身だ……彼のためにも、出来ることはしておきたい」
数日で結構な情報が表に出ていたので、今更自分が打ち明けるのも気が引けたのは本当。
怒っている訳ではなかったらしく、お咎めは無かった。
「それでは、本題に入ろう。迅から聞いていると思うが、推定二日後に城戸派の上位部隊が玉狛を襲撃する可能性があるそうだ」
机に両肘を付き、指を絡ませて話す忍田。
斜め左後方には沢村が控え、こちらを見ている。
ネアは肯定の意を込め、コクリと頷いた。
「私としては無視出来ない案件と判断し、当日は嵐山隊を派遣する予定だ」
「あらしやま隊を? まぁ上位三チームもいるし、妥当な戦力でしょうね……これ、私いります?」
てっきり自分と迅だけで対応するのだと思っていたら、A級五位も手を貸してくれるらしい。
ボーダーの顔として有名な隊だが、広報業務をこなした上での順位だというのはよく知っている。
人数の差はまだあるものの、自分まで必要かと疑問をぶつけた。
「決まってるだろう。おまえがいればまず負けることはないし、戦力は多いに越したことはない。この襲撃は、必ず阻止せねばならんからな」
だが、普段の冷静さは何処に行ったのやら。
要約すると、過剰戦力になろうが絶対にぶちのめせ、ということで。
「へぇ……相当イラついてますね、にんださん」
自分より“年上”な彼が、ここまで怒りを露わにしたのを見るのは珍しく。
驚きで目を見開いたあと、ニヒルな笑みを浮かべたアユ。
自分も同じ立場なら、そうするだろうから。
「……そうだな、しつこいのなら私が出ようと思っているほどだからな。それと忍田だと言っている」
「はーいすいませーん」
さらっと爆弾発言しているが、ここでは誰も驚かない。
城戸であっても、せいぜい眉根を寄せるくらいだろう。
名前の件は自覚しつつ、軽く謝罪。
「(アユったら、本部長と仲良さそうに……)」
他人に対して素っ気ない、もしくは丁寧すぎて距離がある彼女が、隔てなく会話している。
逆に自分は、慕う気持ちを押し込めていることが多いのに。
嫉妬を滲ませた眼差しを、無意識に仮峰へ向けてしまう。
話の区切りに一瞬、視線が交わった。
「ところで……鬱憤晴らしに何戦か付き合ってもいいですけど、私よりきょうこさんの方が適任ですよ」
「……えっ!? ちょっ、何言い出すのよアユ!!」
自分を左手で指し、何を言い出すかと思えば。
まさかのいきなり指名で、思いっきり破顔する本部長補佐。
あろうことか、憧れであり恋慕を抱く彼との手合わせを推薦されたのだ。
沢村響子。五年ほど前からのメンバーであり、東と同期の元戦闘員。
ポジションは意外にも攻撃手で、緊急時の上層部護衛を任せられると認められた実力があるらしい。
彼女と共闘した経験は無い。
だが持ち武器や性格、少しの私情を考慮すれば充分だと。
「そうか? おまえがそう言うなら……沢村くん、今日は流石に難しいが、後日相手してもらってもいいだろうか?」
「もっ、もちろんです本部長! わたしで良ければいくらでも!」
「あ、その時は呼んでください。観戦したいので」
凄いスピードで敬礼する響子と、左手を顔の横で掲げてちゃっかり提案するネア。
そして忍田が振り返っている関係で見られていない、担当オペへの右手真顔グーサイン。
自分の恋愛事情は置いといて、人の恋路は応援したい派だった。
「……と、話が逸れたな。今回君を呼んだのは他でもない、殲滅処理課への依頼についてだ」
そろそろ締めの時が迫りつつある。
軸を元に戻し、彼の言葉を聞き入る姿勢をとった。
「依頼主は私と、玉狛支部長の林藤両名から。依頼内容は、来たるべき黒トリガー強奪部隊への対応。指揮は迅に一任する」
一息区切ったのちに、何か質問は? と問う本部長へ、ありません、と首を横に振る殲課隊員。
一度頷いた彼は、控えている補佐から渡された書類を机へ置き、向きを変えて滑らせた。
「では、こちらが命令書だ。提出のタイミングは、“おまえに任せる”」
目立つ大きさのフォントで書かれた【依頼通達書】
受け取ってつらつらと並べられた文字を追い、不備がないか確認。
一見普通のやり取りに見えるが、正規と違う部分がある。
本来、上層部へ即時共有しなければならないものを、個人に委ねるという――
「……了解、しのだ本部長。殲滅処理課、ネア。確かにその依頼、お受けします」
紙を下げるのと入れ替わりで、右掌を顔に翳す。
するとメイントリガーのペルソナが起動し、自動でフードと連結された。
命令書を綺麗に折りたたみ、太腿のポケットに入れる。
彼女が意図的に仮面を被るのは、表情を隠したい為。
不謹慎にも、思い通りにいったことでほくそ笑んだものを。
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