code.18【それぞれの正義】
名前変換
Your name?*.名前を入れると、登場人物に自動変換します。
より楽しく読むために名前を記入して下さい。
※愛称ですが、愛称がない場合は同じ名前を入れて下さい。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
地下からそのまま玉狛を出て、正午きっかり。
外出用の白ダウンに黒ジーンズ、大体いつもこんな感じ。
違うのは、弁当が入ったビニール袋を持ち歩いているという点。
「あの辺りか……」
川を渡り、市街を歩き、しばらくして警戒区域に入る。
本部から見て南西方面の、近くに公園がある住宅街跡。
その中で目立つ、七階建ての集合住宅。
共有された地図アプリのピンは、この屋上を差していた。
「月よ、力を……アパ」
階段を使うのが諸々めんどくさくなったアユは、まずは袋をシルザードに預ける。
次に赤の煌術、アパを使って身体強化。
ブロック塀から電信柱の頂上にジャンプし、そこから更に足場ギリギリの高さまで跳躍。
「からの……ウェイバ」
空中で今度は、青色の陣が背中に出る。
何も無いはずの足元に、空気の板のようなものが現れ、踏み台にして目的地に無事到着。
青の煌術は主に風関連の技が多く、ウェイバは小規模の竜巻を起こすもの。
今回は攻撃ではなく移動手段に使ったため、トランポリン無しのグラスホッパーのような感じになった。
「おいじん、居るんだろ」
「おっ、アユちゃーん! こっちこっち」
貯水タンクやアンテナなどが並ぶデコボコの屋上。遮蔽物が多く、気配を辿りにくい。
戦場としては悪くない場所だと思いながらも、フェンスを跳び越え、指定してきた張本人を探す。
奥にある室外機の陰から、ひょこっと顔を出して手を振ってきた。
「あれ、階段使わなかったんだ」
「上るの面倒だし。ほらよ」
「うわーい! アユちゃんの手作り弁当だ〜」
相棒に運ばせていたビニールから、昼食セットと道中の自販機で買ったお茶を渡す。
嬉しそうに受け取り、塔屋の壁を背に座った彼は、ちょいちょいと手招きした。
不服そうながらも、空腹には抗えないので、いただきま〜す! と手を合わせた隣に腰を下ろす。
美味い……美味いよ〜……毎日食べたい……とぱくぱく口に運ぶのを一瞥してから、無言でいただきますして箸を割った。
「……で? お前が弁当届けさせるためだけに私を呼んだわけないだろう」
チキンを一切れ、半分に割って咀嚼。
悪くない出来だなと評価しながら、確信を持って話を切り出す。
迅の割箸から卵焼きが滑り落ち、元の場所に落ちた。
「……アユちゃんには敵わないなー」
「伊達に付き合い長くないからな。私の気が変わらないうちに話せ」
たとえ手抜きでも、好きな人が作った御飯を三食とも食べたかったのは本当。
その証拠に今は生身だし、朝からぼんち揚も絶賛我慢中。
いずれ近いうちに伝えるつもりだったのが、計らずしも今になっただけ。
おかずカップから掴み直し、しっかり味を堪能する。
苦笑しているが、あまり驚いていない様子。
「おそらく三日後、遠征組が帰ってきた日の夜……玉狛が襲撃される」
最後の肉を掴んでから、視線を寄越さず未来の中身を伝えた。
パクリと彼が口に運ぶのとは逆に、ピタリと箸が止まる彼女。
白米も掻きこみ飲み込んでから、正確には、遊真の黒トリガーを狙ってだけど、と付け足した。
「……なるほど、ことわざでいうと『急がば回れ』ってやつか?」
「うんうん、合ってる合ってる。次の国語テストは良い点取れるんじゃない?」
「お前に言われるとムカつくんだが」
「おれ褒めたのに……」
自派の動かせるA級部隊で、七位の三輪隊が敗れるほどの相手だ。
B級なんて以ての外、ならば対抗できる可能性がある上位部隊を待つのが得策。
ボーダートップチーム、太刀川隊、冬島隊、風間隊を。
諺のチョイスは合格点レベル。でも素直に喜ばないのはお約束。
とほほ……と項垂れる悠一の横で、顎辺りに指を当てて思案し始める少女。
「(四部隊を相手にするのは想定の範囲内。問題は……“私”への“依頼相手”、か)」
ネアとしてはもちろん、全員と面識がある。
ほんの数回だけ、模擬戦をしたことも。
お互いの戦闘スタイルは把握しているし、今の所負けたことはない。
だがそれは個人での話で、部隊では皆無。
加えて、殲課としては“どちら側”につけるのか。
「心配しなくても、大丈夫だよ」
手が止まっていたのが、目を引いたのだろう。
ハッとして見ると、いつもの笑みを向けてくる自称エリート。
おれのサイドエフェクトがそう言ってる、と口癖も付け足してきて。
ピロンという通知音が聞こえ、画面をスライドする。
ボーダー専用のメッセージアプリからで、相手は担当オペでもある沢村響子からだった。
『ネアへ、忍田本部長から伝言よ。明日午前十時、本部長室へ来るように、だそうよ。都合が悪ければ連絡してちょうだい』
彼から呼び出される時は、どういう用件か大体決まっている。
内容がどうであれ、殲滅処理課への依頼が主だと。
「……視えてたな」
「うん、さっきたまたまね」
親指だけで、了解、とフリック入力してから、未だ微笑んでいる顔を睨む。
限界ギリギリまで達しつつある鬱憤を、直前で抑え、溜息を吐いた。
三分の一ある残りの弁当を、手早く食べ終わる。
「(あー、むしゃくしゃする。結局、他人に頼らなきゃ何も出来ない自分に腹が立つ)」
ボーダー本部、殲滅処理課のネア。
チームは組めない、ランクは無い、何故なら近界民だから。
命が続くかぎり一生その事実は変わらないし、変えようもない。
親友達のために際限なく動きたいのに、出来たのはご飯を作ることだけ。
……クソッ、と悪態をつく彼女を、横目で覗き見る迅。
「(朝から機嫌悪いのは察してたけど、相当キてるな……こんな時、未来が視えたらって望む自分が嫌になる)」
ボーダー玉狛支部、S級隊員の迅悠一。
相手の今後がある程度知れる、何故なら未来視の副作用を持つから。
先のことが分かって、得したことも、損したことも沢山あった。
でも、一番大切な人の未来は、読み逃すことの方が多い。
それでもいいと思っている自分と、やっぱり知りたいと思っている己がいて、いつも矛盾しているのだ。
しばらく無言状態が続くが、ふとアユがスマホの画面上部を確認する。
時刻は午後一時過ぎで、何処からか取り出したぼんち揚の袋とにらめっこして気を紛らわしている男を、今度は彼女が観察した。
「……おいじん、今日ぐらいヒマだよな」
「えっ……いやいや、おれまだ太刀川さん達の動き詰めてないから……」
「そんなん三日もあれば出来んだろうが、お前なら」
嫌いな部分はあれど、能力の高さは一応評価している。
自覚有りかは置いといて、至極当然のように言われた信頼にトゥンクした片想い男子。
「夕方まで、模擬戦の相手しろ」
おもむろにゴミを回収しつつ、立ち上がって確率外れの読み逃しお誘い。
迅は驚きながらも嬉しく、苦笑に見せかけたニヤけを浮かべた。
「……それって、風刃で? さすがにソロランク戦室じゃバレるでしょ。それに昔やったと思うけど?」
「やっぱこの時のためか。あれから三年も経ってんだから、おさらいしといても困らねぇだろ。それに、殲課の作戦室使えば問題ない」
仮峰がまだ玉狛所属だった時、風刃の所有者が迅に決まった。
その後色々あって、彼女が転属する前に幾通りかの訓練を二人でやったのだ。
どうやらその頃から、この未来が視えていたのかもしれない。
殲課の作戦室とは、彼女が居住まいを置く角部屋の隣にある。
オペレーターデスク、緊急脱出用マット等、普通の作戦室と同じ設備はもちろん、トレーニングルームも。
そこでなら、誰かに見られる心配もないわけだ。
因みに沢村が嵐山に教えようとしたのはこっちの部屋だったのだが『〇四二〇の隣』と書こうとして『の隣』が抜けたらしい。
「今かなりイラついてんだ。今までの貸しチャラにしてやるから付き合え」
左手で専用の銀トリガーを軽く投げ、横からキャッチする。
一日ぶりになる仮面姿のトリオン体に換装し、表情は窺えなくなった。
しかし、太刀川ほどではないが、戦闘好きな性分なのを彼は知っている。
ニヒルな笑みを浮かべているのだと、容易に想像できた。
「(未来が分からなくても、アユちゃんはいつも自分で切り拓く……そういう所も好きなんだよな)」
当たり前な話だが、未来視が全てではない。
だが、生まれた時から付き合ってきたであろう青年にとって、彼女の存在は衝撃を与えた。
家族も、友達も、すれ違っただけの他人さえも人生の一端を視てしまうのに、カリューネアだけは違う。
たまたま視えた未来では味方になる流れだったが、この先どう転ぶかはまだ分からない。
もしかすれば、城戸の思惑で敵に寝返るしかないかもしれない。
「了解、ネア。この実力派エリート迅悠一が、心ゆくまでお相手致しますよ」
それでも、彼女からの珍しい申し出を断る選択肢は有り得なかった。
右手を胸に当ててのお辞儀をした迅に、敬語やめろっつってんだろーがよ、と言いながらも踵を返した。
本部に通じる直通通路へ向かうためである。
その後、作戦室への道中、二人並んで歩いている所を誰かに見られたとか見られていないとか。
「ぼんち揚食べたい症候群が限界にキてる……一袋くらい……」
「ふーん、そうか。じゃあお前の分のカレーは要らないな」
「よーし今日は絶対ぼんち揚食べないぞー!」
そんな会話が交わされていたとか、いないとか。
*