Crerk.4【常識の相違】

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※物語に登場する養子先の名字は、固定とさせていただきます。
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「よーっし、やっちゃっていいよ!」
「そんなみがまえなくても……」

カーティス精肉店の隣にある、ちょっとした広さの庭。
所有地の一角な為、ここで暴れても問題はない。

両拳を胸の前で突き合わせ、まるでこれから殴りに行くみたいな雰囲気のイズミ。
そんな予定は今のところありません。

因みにシグは邪魔にならないよう、自宅や仕事場の掃除をするらしい。

「だって攻撃系なんだろ? いざって時に防げるようにしないとね」
「さすがにぼうはつ暴発はしないとおもうけど……まぁ、ねんのためにおねがいします」

防衛のための構えだったようで、正直紛らわしい。
彼女なら魔法にも素手で対抗出来そうだな、と思いながら永久魔石を取り出した。

「ねんのために、ケアルかけとこうか?」
「そうだね、頼むよ」

今日はまだ調子がいい方らしいが、病人であることは変わらない。
りょうかい、と翠の石がついたアクセサリを突き出して、一言唱えると、昨日のように光が表れて、イズミに吸い込まれる。
うん、いい感じ! とさっきより顔色が良くなった彼女に、安堵の表情を浮かべたマリ

「……あ、たいしょうぶつ対象物とかあるとやりやすいかも」
「ふむ、確かにね……ちょっと待ちな」

的があると、狙いやすいものである。
快く了承してくれた彼女は、拳を掌に変えて合わせる。
次に足元へ当てると、そこから一メートル先くらいの地面に錬成反応。

ちょうど二人の間に、土で出来た腕が出現した。

「(何故コブシ型……まぁいいか)」

代償の影響で、肩程まで短くなった髪すらも靡く風圧。
何しろ地面から勢いよく生えてきて、グーパンチが空に突き出されているからだ。
センスの話なのだろうが、予想外の形に少々呆れ顔。

「じゃあ、いくぞ」
「いいよ」

咳払いをしてから、リングを目前に揺らす。
瞳を伏せると、足元に赤い光が広がった。

「……ファイア!」

瞼を開き、対象物に向かって手を翳すと、爆発のような音と赤く揺らめく何か。

次に見ると、拳の部分が焦げていた。

「ほぉ! 炎の魔法かい?」
「うん、ませきひとつではこのくらいかな。ふたつになるといりょくもあがるし、なまえもかわるんだ」
「なるほどねー……」

実際の火と同じなので、熱に弱い粘菌のギミックに使ったり。
一人で複数個使い、ラ編、ガ編に変化させることも出来るが、仲間とタイミングを合わせる方法もある。

「次は……サンダー!」

水色の光から発せられたのは、ビリビリとした電気。
的全体が目に見えるくらい、帯電している。

「今度は雷だね」
げんり原理はさっきのファイアや、ほかのまほうもおなじだ」

耐性のない魔物に当てれば、麻痺させることが出来る。
逆に自分もくらうと動けなくなるが、攻撃されると元に戻るので、わざと待つのも作戦だったり。

「そして、ブリザド!」

今度は青色の光で、周囲の温度が一気に下がる。
一瞬の内に、拳全体が凍りついた。

「氷かー……何も無い所から出せるんだねぇ」
「おそらくくうきちゅう空気中すいじょうき水蒸気もつかってるとおもう。それとみずつぼとかをつかえば、ふたつなくてもいりょくはあがるよ」

サンダーも同様だが、水溜まりがある場所だと強くなるのだ。
雨の日は無能になる誰かさんとは違う。
つまり、壺まではいかなくても瓶を携帯しておくのもひとつの手。

「あとは……この三しゅるいのこうげきまほうをくみあわせて、べつのまほうにもできる。ややこしいからまたこんどでいいか?」
「うん、充分だよ。ありがとうね」
「へへ、どういたしまして」

もちろんこれだけじゃないのだが、説明すると長くなる。
まとめると、攻撃系の魔法は三種類あり、炎と雷と氷。
補助系は回復のケアルと、まだ使っていないがあと二種類。
組み合わせで数通りの合成魔法がある、ということ。

うりうりと撫でられて、ご満悦なマリ
ご褒美代わりとでもいうくらい、気に入っている。

「さて、と……晩御飯までまだ充分時間があるし、調子もいいから、マリに聞いておきたいことがある」
「なんだ?」

頭から手が離れて、自然と見上げる。
心做しか、真剣な眼差しだと思いながらも、次の言葉を待った。

「お前、体術は心得てるのかい?」
「なぐるとかるとかのことか? もちろん、まもの魔物とのせんとう戦闘にはふかけつ不可欠だ」

魔物相手に素手で挑んでも大したダメージにはならないが、必殺技の一部や、攻撃を回避したりするのに使っていた。
特に彼女の血液半分を占めるセルキーは、四種族の中で身軽かつ俊敏なため、動けるものが多い。
マリも例外ではなく、クリスタルキャラバンでは一番の使い手だった。

「そうかい……なら、いっちょ身体動かさないか?」

不敵な笑みを浮かべたイズミは、少し体勢を低くしてクイクイっと手招きする。
さながら、挑発しているような動きに目を見開く少女。

「……このからだでどこまでできるかわからないが……ぜひたのむ」

だが、彼女はまず深呼吸をひとつしてから、イズミよりも腰を低くし、左右に身体を揺らす。
武器を持っている時の基本であり、素早く攻撃に転じるため、つまり戦闘態勢。
こちらも口角を上げて、一歩踏み込む。

砂利の擦れる音を合図に、少女から地面を蹴った。

それから夕暮れ時のカラスが鳴き始めるまで、二人はしっかり体を動かしたという。


――こうして、荷物整理とお披露目は幕を閉じた。

次の幕開けは、新たな家族の契り。



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