Episode.6【贖罪と変化】
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「――……ん」
リトが目を覚ましたのは、次の日の朝。
先生曰く肉体的な怪我は治ったが、精神的にも消耗していたから気を失ったらしい。
朧気な頭で目だけを動かすが、何となく違和感を感じる。
「あれ、ここ……って……」
確かに部屋の調度品は見たことがあるのだが、自分の部屋には無いもの。
だとすると何処なのか、身体を反対側に寝返りさせた。
「ゲルダ、さん……」
少女を抱きしめるように眠っている先生。
ちょうど浅い眠りだったのか、身動ぎの後に瞼を上げ、ぱちぱちとまばたきした。
「……おはよう、リト。調子はどう?」
「おはよう、ございます。えっと、わたし気絶したんだっけ……」
「そうよ。その様子だと、もう大丈夫そうね」
ふわりふわりと、頭を撫でてくれる。
心地良さに眠気が再び来そうになったが、それじゃ、と言ったネビリムはリトの下にある腕を抜き、彼女の両頬を包む。
そしてやわらかい部分をぎゅっとつまみ、伸びるだけ伸ばした。
「いひゃっ! いひゃいよしぇんしぇ〜!」
「貴女にだけお説教が終わってないのだから、我慢しなさい!」
つまりこれは、おしおき代わりということ。まだ優しい方である。
それから二人で起きて、ゆっくりめの朝食。
今日は昨日のこともあり、塾はお休みになった。
「それで、どうしてロニール山に登ってたのかみんなには教えたの?」
二段重ねのホットケーキを完食した後、ホットミルクを飲みながら話を振るリト。
カチャリというコーヒーカップとソーサーが当たる音が耳につき、空気が変わったのを感じた。
「……いいえ。ジェイド達には大人になってから教えると言っておいたわ。貴女も、それでいいかしら」
おそらく話していないだろうなとは思っていたが、二つ返事で頷く気はない。
「……ごめん、先生。我儘を言うけど、わたしには教えてほしい」
尾行がどんな結果になろうとも、決めていたことだから。
「今のわたしは先生の……ゲルダさんの家族だから。ゲルダさんの色んなこと、わたしも共有したいの。だから、お願いします」
机に頭が付きそうなくらい深々と頭を下げる。
興味本位ではなく、自分には話してほしいという願い。
「……分かったわ。先に言っておくと、良い話では無いからね」
「はい!」
諦めたという溜息を吐き出し、追加の飲み物を作ってから彼女は話し始めた。
今から五年前の、ND1989。
ローレライ教団の導師エベノスは、当時神託の盾騎士団の師団長を勤めていたネビリムに、ある計画を任せた。
その名は「惑星譜術復活計画」という、星の力を利用して強大な譜術とする恐ろしいものだった。
「惑星譜術……そんなものがあるんだ。それで先生は、神託の盾騎士団を辞めたんですね」
「今思えば、もし他の譜術士に任されていて、それを導師エベノスが利用していたなら……ぞっとするわ」
これは後の時代に分かることだが、この計画はもうひとつのローレライ教団でもあるユリアシティに内密で企てられたらしい。
いくらダアト防衛の為だったかもしれないとはいえ、求める力が大き過ぎた。
「でも、そんな計画が無かったら……先生がケテルブルクに来ることもなかったんだよね?」
「えぇ……そういえば、そうなるわね」
彼女が故郷でもないのにケテルブルクで腰を下ろした理由は、明確に言葉にはしていない。
でも、ジェイドやリトは見たことがあった。窓から見えるロニール山を見つめ続ける背中を。
「わたし、難しいことはよく分からないけど……過去を後悔しても、今は何も変わらないのは知ってる。それこそ希望を捨てることだから」
これ以上深く聞くつもりは無いし、聞いても自分の気持ちは変わらない。
「わたしは、ゲルダさんに出会えて感謝してる。だから、そんな実験をしてたからって、ゲルダさんから離れるつもりはないよ」
きっと一人で重責を背負い、辛いこともあっただろう。
全てを知っているわけではないが、責めようなどとは思わない。
ただ自分は、傍に居たいのだ。
気付けば椅子に座っている少女を、床に膝を付いて抱きしめていた先生。
突然でビックリしたが、嬉しくて抱きしめ返した。
「次の七の日からは、わたしも一緒に行ってもいい?」
「えぇ……ありがとう、リト」
今度は一緒にお出かけできる。皆には悪いが、それでも譲りたくない。
着いたら何の話をしよう? 今から楽しみになる。
だが、その日が訪れることはなかった。
――こうして、家族への進歩は幕を閉じた。
次の幕開けは、サヨナラへのカウントダウン。
*