Episode.5【銀世界での日常】
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「え……今、のは……」
またもや見えていない間に、何かの譜術が発動された。
爆風が止んだ後おそるおそる瞼を上げると、お皿のように溶けた雪に、中央の焦げ付いた地面から上がる黒い煙。
その奥に見えた靴から視線を昇っていくと、そこにいるのは見知った顔。
「おまえ、何やってるの」
「ジェ、ジェイド!?」
普通の子供が着るには少々洒落た服に身を包む少年、ジェイド・バルフォア。
右手を横に払った状態で立っていたので、先程の譜術は彼だったのだろう。
「なんで、ここに……夜も遅いのに」
「……それはこっちが聞きたいんだけど」
いつからいたのだろう。もしかして、剣術の修行から見られていないだろうか。
内心ドキドキしながら顔色を窺うが、帰宅する先生を見た感じでもなく、ただ呆れているだけのようで。
「わたしは、譜術の練習してて、そしたら魔物に当たっちゃって……って」
とりあえずバレていないらしく、ホッと胸を撫で下ろす。
その時、雪上に落ちている金属の欠片が目に入った。
それが何なのか理解すると同時に、あーーーっ!! と大声を出したリト。
離れていても響いたので、うるさ……と顔を顰めるジェイド。
「バレッタが……壊れてる……」
「バレッタ?」
そういえば、いつもと髪型が違うと気付く。
彼女の視線の先を辿っていけば、言っている意味が分かり……あぁ、それか、と納得はした。
ただそれだけ。同情も慈悲も感じない。否、感じたことがない。
「こんなことなら、外してくれば良かった……」
だが、いつもいつもへらへらと笑っている少女が、この時初めて彼の前で悲しみを表に出した。
人間の複雑な感情の起伏を理解出来ていない少年にとって、ほんの少しでも興味を持たせるには充分で。
「先生にでも貰ったの」
壊れて悲しいと思うなら、大切な人に貰ったものではないか。
そのくらいは自分に経験がなくてもわかる。
「ううん、母さ……母の形見なの」
しかし、予想の斜め上な答えだった。
「形見、って……」
「もう居ないんだ、父も母も。きっとあの星の中のどれかになってるかもね」
彼女がネビリムと血縁関係がないのは聞いている。ケテルブルクの外から来たのだということも。
でも両親が既に他界しているなど、こうやってわざわざ聞かなければ知らなかっただろう。
天涯孤独となった身なのに、目の前の少女は夜空を見上げてもう笑顔が戻っている。
その立ち直りの早さに若干失望しつつも、謎が増えた。
「……どうして」
「え?」
「どうして笑ってられるんだ? 親が死んで悲しくないのか」
生き物の死が理解出来ないジェイドに、リトの心境など全く予想できなかった。
「悲しいよ、すっごく。今すぐ泣き出したいくらい」
だが、彼女だって克服したわけではない。
「でも、泣かないって決めたんだ。わたしが本当に強くなれるまで」
むしろ、流れないよう我慢している。自分で誓ったことだから。
「……そんな日は来ないかもしれないのに?」
「だから、やってみないとわからないでしょ? あれ、これ前にも言ったような……」
諦めるという考えが元から無いのかという程、前向きな返答。
嫌味で言っているのさえ気づいていないのだろう。
どこかの皇子と似ているようで、また違う朗らかさ。
「……やっぱり理解できない」
隠そうともしない溜息を吐いて、歩き出す少年。
呟きをしっかり耳に入れていたリトは、はぁ? とガンを飛ばそうとしたが。
その前に右手を出し、それ貸して、と壊れたバレッタを見る。
突然だったが、断る理由もないので、え? うん、と拾ったもの全部を渡した。
「……一体なにをするの?」
「ネフリーの人形で成功はしてるけど、念の為これも実験に使わせてもらうよ」
質問には答えてもらえず、というより聞いてないのだろう。
受け取ってから手を制し、離れてて、と言ってある程度距離をとる。
しゃがんだ後に雪の上にバレッタだったものを広げ、それを挟むように手を置く。
すると、術のようで術とは違うような譜陣が広がり、周りを照らす。
雪が反射板になって眩しいくらいだが、幻想的にも見えるそれを何も言わず見つめた。
そう時間も経たない内に、輝きはおさまる。
陣があった場所には、何故か物がひとつ増えていた。
紛れもなく、壊れていない母の髪留め。
「バレッタが、もうひとつ……」
「……うん、成功だ」
驚くリトを他所に、上手くいく確信があったのだろう。
ひとつ頷き、元通りの方を持って立ち上がる。
この時初めてリッシュテルトは、フォミクリーを目の当たりにしたのだ。
*