Episode.5【銀世界での日常】
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オールドラントの暦は日数が多く、一年が長いのが特徴だ。
それでも、充実した日常はいつの間にか過ぎ去っていく。
リトが来てから、季節が一巡りしたある日の夜。
ケテルブルク港から街へ行く途中の雪原で。
「それじゃあ今日は、前回のおさらいからいくわよ」
「はいっ!」
この街にきて少しずつではあるが、譜術の他に剣術も教わってきた。
しかしそのことは、師に当たるネビリムしか知らない。
ワンドル流抜刀術は、アーディラ家にのみ伝授されてきたもの。
もし何処かで漏れるようなことがないように、二人だけの秘密にしようと決めたのだ。
「魔神剣! 虎牙破斬! 獅子戦吼!」
木材で出来た剣を振り、剣技を繰り出していく。
だが全て抜き身の状態であり、鞘に納刀されていない。
「うん、基本的な技は問題ないわね。後はワンドル流抜刀術の方だけど……」
「わたし自身、魔神剣と風牙絶穹しか教えられていません。指南書を手に入れようにも、実家は爆発でおそらく燃えてしまって……」
何故なら、彼女が指南しているのは片手剣での剣術。軍人が訓練するのと同じ内容なのだ。
伝授されてきたとはいえ、全く資料がないわけではないのだが、今はホドに戻れない上、行方も絶望的。
なので、手直に教えられる技術から、ヒントでも得られればと先生は考えた。
抜刀術の魔神剣は、抜いた剣を振り上げ、衝撃波を飛ばす特技。
風牙絶穹は、剣を頭上に構え、風の牙となって、敵を高速で貫通する特技。
それ以外に様々あるが、父の技を見たことはあっても、使うとなれば話は別。
指南書の手がかりも、襲撃者により絶たれてしまった。
私が言えた義理じゃないけど、酷いわね、と同情するネビリム。
「……とにかく、日々の鍛練は怠らないように。私の方でも、指南書のことは調べておくわ」
「ありがとうございます、先生!」
自由に動けない彼女のために、情報を調べてくれるらしい。
しょんぼりしていた顔から、ぱあっと明るくなったリトの頭をつい撫でてあげる。
「さて、そろそろ帰りましょうか」
「あ、譜術の練習もしたいのでもう少し残ります」
「……分かったわ、でも長居は駄目よ。夜も遅いし、ここも魔物は出るんだから」
「はい」
いつもなら一緒に帰るのだが、今日はどうしても試したかった術があった。
剣は持っておく? と先生は聞くが、いえ、念の為持ってかえってください、と頼んでおく。
ネビリムなら白衣の中に隠しておけるが、リトだとどうやってもバレるため。
誰もいないのを見計らってから、港と街の丁度中央辺りの地点に移動する。
「よし、やるぞぉ!」
ぐっと胸の前で拳を作る。意気込みは充分。
「雷にぃ、打たれればいい! サンダー、ブレーードッ!」
独特の詠唱を経て、発動させたのはイカヅチのツルギ。
前方に勢いよく落ち、子供がやった割には悪くない出来かと。
もちろん、先生や天才少年にはまだまだ追いつけていない。
「うん! サンダーブレードは完璧〜! 次は〜……」
自分の基準的には問題ないので、次に移行する。
ちなみに先程から試しているのは中級譜術。初級は今の所、エナジーブラストのみ習得済み。
「砂塵の大波、岩とかも混ぜてぇっ! ダストヴィロー!」
子供らしい詠唱を挟みつつ、発動させたのは第二音素の波。
砂や塵、時には岩も混ざる、彼女が編み出したオリジナルの譜術だ。
発動事態は成功したのだが、身長を越えないぐらいの波が一度起きただけで終わってしまう。
「うーん、イマイチ威力と範囲がなぁ……よし、もう一回!」
納得のいく結果では無かったので、もう一度目を閉じて集中する。
「砂塵の大波ぃ! 岩とかも混ぜてぇ! ダスト、ヴィロー!!」
心持ち大きな声と尺を持たせて唱えると、今度はさっきより強めに出た気がした。
だが、奥の草むらまで届いてしまい、続いて、きゃうん! という動物のような声が聞こえた。
「げっ!?」
この鳴き声は聞いたことがある。
忘れもしないこの島へきた誕生日、嫌になるくらい耳にした。
「あー……やってしまった」
今となっては恐怖もだいぶ薄れているが、危険なことに変わりはない。
一匹のアイスウルフが、ぐるるると唸りながら現れた。
譜術が使えるようになったとはいえ、戦わないに限る。
ゆっくりゆっくり、街を背にして後退していく。
が、ここに来て、うっ! と重心が傾いた。
冷たくなった足を見ると、見事に膝まで雪に埋まっている。
前にもこんなことがあったような……
それはさておき、そんなチャンスを見逃す筈はなく。
飛びかかってきた魔物の鋭利な爪が迫るが、首を回して間一髪、避けられた。
その時に後頭部の髪留めを掠ったらしく、雪に落ちるがそれどころではない。
「っ、こんのっ!」
背後に降り立ったウルフは、軽やかに方向転換して再度跳んでくる。
だがこちらも、首を回しながら硬い部分の雪に手を付き、足を引き抜いておいた。
そして咄嗟に作った雪玉を、顔目掛けて投げる。
運良く目に入ったらしく、こちらへ届く前に落ちて、もがき始めた。
「今ならっ!」
隙ができたので、ここで逃げる選択肢もある。
だがその途中に追いつかれ、街にでも入られれば一匹といえど大変な事態になるだろう。
今の自分には、斬る以外に倒せる力がある。
「ズバッといくよ! メラメラの竜剣っ! キャリバー、サラマンダー!!」
これまたオリジナル、第五音素の中級譜術。
大剣型の火柱を出現させ、避けられても火竜のように追いかけて仕留める。
相性的にも悪くないと思って発動させた、のだが……
唱え終わって目を開けたのに、何も変わっていない景色。
炎で燃えているわけでも、魔物が倒された訳でもないのだ。
挙句の果てに、足元の譜陣は消えている。
「……え、あれ?……も、もしかして、音素が足りない!?」
どうやら練習に譜術をぽんぽん使った所為で、音素が不足してしまったのだ。
俗にいうTP切れなのだが、詳細は割愛する。
「(なにか……なにか方法はっ――)」
そうこうしているうちに、ウルフが雪を振り払い、再度こちらに狙いを定めた。
もう為す術がない。今度こそ本当に死ぬのか。月光が反射した牙が届く前にぎゅっと目を閉じる。
二度あることは三度ある、というのは、この事なのか。
「終わりの安らぎを与えよ、フレイムバースト!」
*