Episode.4【預言なき希望】
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シルフリデーカン・ルナ・四の日。
ケテルブルクでのちょっとした騒動になった、見知らぬ子供の保護から四日程経った。
これだけ日数が過ぎれば、忙しい大人達は些細な出来事など忘れてしまう。
だが、見るもの聞くもの触るもの全てが楽しい子供達にとっては違った。
「なぁ! アイツ今どうしてるんだろうな?」
褐色の肌に金髪青瞳の活発そうな少年、ピオニー・ウパラ・マルクト。
実は、マルクト帝国王族の血を引いている皇子らしい。
「あいつって、先生がはこび込んでた女の子のこと?」
突拍子のない切り出しに答える金髪茶瞳の少女、ネフリー・バルフォア。
この中では最年少で、紅一点でもある可愛らしい女の子。
「さぁ、わかんない……ねぇ? ジェイド」
オドオドしながら後ろの席にいる男の子に視線を送る白髪の少年、サフィール・ワイヨン・ネイス。
性格の問題か、ピオニーとは反りが合わないらしい。
「……興味ない」
そして視線を送られていた張本人、亜麻色の髪に赤瞳の少年、ジェイド・バルフォア。
視線を動かさず、眼下の本を読んでいる所から本当に興味が無いらしい。
四人がいるこの部屋は、ゲルダ・ネビリムが開いている私塾の教室。
授業開始までの自由時間でわちゃわちゃしていたが、程なくして扉が開いた。
「おはようみんな」
『おはようございまーす!』
元気よく挨拶を返す子供達……一人を除いて。
いつものことらしく指摘はせずに、ニコリと微笑んだ。
「授業を始める前に……今日から新しい子が入ることになったから、紹介するわね」
入って、と扉の方を向いて先生が言うと、すぐに開かれる。
まず目に入ったのは、ここではあまり見られない濃い青空のような髪。
肩よりも伸びたそれを、翡翠色の丸石が装飾されたバレッタでハーフアップに。
ネビリムの隣まで来ると前を向き、開かれた瞳は、スタールビーのような紫。
「はじめまして! リト・テンダークでっす! よろしくねー!」
誰が見ても満面の笑みに、ブイサインまで出しての自己紹介。
死んだことになっているなら、いっそのこと本名を捨ててしまうことにした。
なのでリッシュテルト・セン・アーディラから、リト・テンダークになったのである。
まさか開口一番、ここまで元気よく挨拶されるとは思わなかったのか、子供達四人……ではなく三人が驚いていた。
「……くっ、あっはっはっは! おまえ全然元気じゃん! 心配して損した!」
「心配? なによそれ、どういういみ?」
すると、一番前に座っていたピオニーが吹き出し、机もバンバン叩く。
言ってることは気遣ってはいるが、笑われたことにムッと膨れるリト。
理由を聞く前に、リト、とりあえず席に座りなさい。好きな所でいいから、というネビリムからの注意で、一旦収まった。
好きな席と言っても、初めて顔を合わせる子達の隣にいきなり座るのは少し勇気がいる。
何処に行こうか悩んでいた時、ふと目に入った色が。
「(あの目……)」
一番後ろで我関せずとでもいうように、本を読み続けている少年。
重要なのは文字を追うその瞳が、第五音素の炎のように真っ赤なこと。
一瞬ぼーっと見つめてしまうが、次には口角を上げて進んでいった。
「……なにか用」
「となり座ってもいい?」
とことこと横まで来たため、影が出来たことにより存在に気付く。
それでも動かないものの、用向きは聞くとまさかの質問……いや答えに、ページを捲ろうとする指が止まった。
「は?……好きにすれば」
「ありがとっ!」
訝しげな表情を隠しもせず、やっとリトを見た少年。
と同時に、キラキラ輝いているのかというくらいのパープルアイに内心驚く。
二秒程で考えを纏めた結果、相手にするのが一番面倒臭いと放置することにしたらしい。
その一部始終を見ていた先生はくすくす微笑み、妹や皇子は驚く。
大好きな友人を取られた気分になった少年は、ショックを受けていた。
色々あったものの、やっと授業が始まり、ウキウキしながら黒板を見ている彼女。
その様子をジェイドは時折一瞥しつつ、話もせず、時間は過ぎていった。
* * *
私塾の授業は午前で終わり、お昼ご飯の時間。
なんとなく予想はしていたが、折角だから一緒に食べようと誘われた。
ネビリムに作ってもらったお弁当を持参して、街の上層にある広場に集合する。
「まずは自己紹介だな! 俺はピオニー・ウパラ・マルクト。よろしくな、リト!」
中央にある彫像近くに敷物を敷いて座り、おかずをつまみながら始まった自己紹介タイム。
トップバッターはピオニーで、二カリと笑う彼は気が合いそうだなと感じた。
「よろしく! えーっと、ウバラ!」
「ウバラじゃなくてウパラ! というかピオニーでいいだろ!」
「えー? ウバラのほうが呼びやすいじゃない。あだ名ってことにしてよ」
元々呼びやすい方を呼んだり、省略したりするタイプのリトは、早速ミドルネームの呼び間違いを愛称にしている。
まぁ、そういうことなら……と逆に呼ばれ慣れていないからか、反論も少なく終わった。
「ぼ、僕は、サフィール・ワイヨン・ネイス……」
必然的に時計回りで隣にいた少年の番になり、何故か警戒しつつ名乗る。
それもそうだ。自分は越えられていない壁を、彼女は容易く壊したのだから。
「サフィール! いい名前ね。よろしくね!」
「えっ……う、うん!」
しかしその悔しさも、あまり褒められ慣れていないからか霧散してしまった。
「私はネフリー・バルフォア……こっちは兄のジェイド・バルフォア。よろしくね、リトちゃん」
次は、どうせ自分から名乗ることはしないだろうと思い、兄の名前も紹介したしっかり者の妹。
当の本人は少し離れたベンチに座って、先程とは違う本を読んでいる。
「よろしく! わたしのことは呼び捨てでいいよ。わたしもネフィーって呼んでいい?」
「うん、いいよ! よろしくね!」
同性なのもあり、既に仲良し度が誰よりも高い。
このまま二人だけの世界に入るのかと思ったら、食べ終わった弁当箱を片付けて立ち上がる。
「よろしくね、ジェイド」
わざわざ彼の前へ行き、手を差し出す。見向きもされていないのに、だ。
だがさっきのこともあり、放っておいたらずっと居座られそうと感じたので、溜息を吐いた後に握手はしてくれる。
まさかの行動に、残りの皆は驚くばかり。
妹以外には全然優しくないジェイドが、嫌そうではあるがこうも折れているのだ。
理由はどうあれ、珍しすぎる。
「ねぇねぇ、その目って生まれつき?」
全員昼食を食べ終わり、自己紹介も終わったので遊びタイム。
……となるはずだったが、いつものように参加する気がないジェイドに、くっついたままのリト。
仕方なくピオニー達は、気にしすぎているサフィールの気晴らしも兼ねて、三人で雪だるまを作り始める。
雪を初めて見たのは数日前。雪だるまは一度も作ったことがない。
自分も混ざりたいとは思っているが、それでもリトは、どうしても彼を放っておけなかった。
「……これは譜眼、特殊な譜陣を目に刻んでるんだ。だからこんな色で……――」
ネビリム以外の大人達は、天才だと賞賛しながらも陰では気持ち悪いと蔑みもした。
まるで血を塗りたくったような赤瞳を、特に。
だからピオニー達とは違う少女だって、大人と同じ反応を示されるのだろうと。
「きれいな色ね!」
続けた言葉を遮って返されたのは、純粋な感想。
いくら天才でも、彼女の胸中を見透かす術は持たず。
真意を測れず、意味もわからず……は? とまたまた訝しげ。
「きれいな色だって言ったのよ。はじめて見た時から思ってた! 譜陣かぁ……ってことは、ジェイドって譜術得意だったりする?」
「……第一音素から第六音素までなら使える」
「へぇ、すごいね!! ならジェイド、わたしに譜術を教えてくれない?」
この世界には、七つの音素と属性がある。
第一音素の闇。第二音素の地。第三音素の風。
第四音素の水。第五音素の炎。第六音素の光。
そして、第七音素の音。
元々譜術の才に恵まれていたジェイドは、譜眼という技術を自ら編み出し、自らに刻んだことで、第七音素以外の譜術を操れるようになった。
「……どうしてそこまで譜術を覚えたいんだ」
だからこそ、自分に師事してもらいたいなどと言われたのは、生まれて初めてだった。
そんな物好きが知り合いにいなかったというのもある。
「どうしてって……だってわたし――」
普段は気にも止めないのに、彼はわざわざ聞くことにした。
リトは隠す様子もなく、理由を口にする。
それは彼女が、あの時望んだものだった。
*