Episode.4【預言なき希望】
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「……神託の盾きし団の、元師団ちょう?」
パダミヤ大陸にある宗教自治区、ダアトを総本山としているのがローレライ教団。
かつてユリア・ジュエの弟子であったフランシス・ダアトが設立した組織であり、裏切りなどもあったのだが、今は深く語らないでおく。
「神託の盾きし団ってたしか、ローレライきょう団の兵……でしたっけ」
「えぇ、そうよ。預言を守るためなら何でもする……そんな組織」
話だけなら聞いたことがあったリッシュ。
なにせアーディラ家の人間の預言は、たとえ秘預言であっても記されていない。
そのため、教団のお世話になったことすらないのだ。
当然、神託の盾騎士団についてもいまいちピンと来ず、首を傾げながらも聞き返す。
実は昔『魔将ネビリム』という異名があった彼女は、何処か懐かしむような、軽蔑するような複雑な面持ち。
「私がまだ教団にいた頃、目を通した任務詳細に書かれていたのを覚えているわ。ホド諸島に住まうある貴族を襲撃するという、計画をね」
師団長クラスともなれば、自分と関わりがない任務でも認知する必要がある。
部下、もしくは別の師団だとしてもだ。
「まさか、それが……」
「貴族」と聞いて嫌な予感が過ぎる少女。
難しい内情はよく分からないが、ホドに住まいを置く貴族くらいは知っている。
ホド諸島の領主一族でもあるマリィの生家、ガルディオス家。
一度も会う事はなかったが、数年前に嫡男が産まれたというフェンデ家。
そして島民と一番距離が近かった自身の家族、アーディラ家。
他にもペールの生家なども含まれるだろうが、有名どころといえばその三家である。
というより、まだ早いだろうと教えられていなかった。
「えぇ……添付されていた資料には、アーディラ家の当主と奥方、一人娘とメイドの名前と写真、簡単な説明が載っていたと思うわ」
預言を守るためなら何でもする組織が、何故アーディラ家を狙ったのか、少し考えれば分かる。
預言に縛られないからこそ、預言の遵守に邪魔だったのだろう。
だが自分達は何もしていない。ただ六歳の誕生日会に必要だった第七核を取りに行って、それから……――
ここまで考えて、ふと疑問が浮かぶ。
なぜ第七核をも狙っていたのだろう。そして、今その宝珠は確か自分が……――
「一応警告しておくけど、復讐なんて考えない方がいいわ。今の貴女にはきっと……何も出来ない」
黙り込んでしまった少女の面持ちが、思い詰めているように見えたのだろう。
実際考えてもいたことなので、ハッと気付いて顔を上げる。
確かに魔獣の群れすら一人で倒せないのに、訓練された兵士を殺すなど到底不可能。
「……わかっています。とおさまが最後に言っていました。決して希望は捨てるな、と。わたしがふくしゅうを果たすことは、希望を捨てることとおなじ。それだけは……それだけは、ぜったいに……」
分かっていても、気持ちを切り替えるなんてすぐには出来ない。
自分の無力さに反吐が出る。もっと剣術をしっかり習っておけばよかった。
爪が食い込むのもお構いなく、拳をシーツの上で作る。
痛みなど二の次で、辛くて悔しくて仕方ないからだ。
その様子を、苦々しい表情で見ていたネビリム。
前触れもなく手を伸ばし、引き寄せて少女を抱きしめた。
「……な、にを……」
「ごめんなさい。私にはこんなことをするのも、言う資格すらも無いのだろうけど……我慢しなくていいのよ」
驚きで固まってしまったが、我慢しなくていいという言葉を聞いた瞬間、今まで押し込めていたものが弾けてしまった。
一度拭っただけでは止められない大粒の涙が、頬を伝ってネビリムの服を濡らす。
「ふ、ぅ……とおさ、ま……か、あさまっ、メルラ……リッシュを、ひとりにしないでっ!」
一緒にいた家族からすれば、リッシュテルトは少々泣き虫な子供だった。
でも知らない大人の前で、一切泣いたことがなかった。
それがわんわんと赤ん坊のように、泣き叫んでいた。
抱きしめ続けるネビリムは、彼女の頭を撫でてあやす。
次第に嗚咽が聞こえなくなった頃、暖炉の火は少し小さくなっていた。
「……落ち着いた?」
「っ……はい、すみません」
「謝らなくていいのよ、子供は泣きたい時に泣かなくちゃ」
ふわりと微笑む彼女の笑顔が綺麗で、自分の泣き腫らした顔がなんだか恥ずかしくて目を逸らす。
その間、扉の方を一瞥したゲルダだったが、少女は気付かなかった。
実は、小さな来訪者達が来ていたとは知らずに。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったわね」
「あ、申しおくれました。わたしはリッシュテルト・セン・アーディラともうします」
よろしくおねがいします、と頭を下げるリッシュ。
六歳といえど、マナーや礼儀の教育はきっちり受けている。
教え子の中の一人に見習ってほしいとも思ったが、口には出さない。
「リッシュテルト……良い名前ね。でも、きっと貴女は死んだことにされていると思うわ……貴女は、これからどうしたい?」
実際、爆発の影響で遺体も残らず亡くなったことになっているリッシュ。
たとえ生きていると名乗り出たとしても、実行犯達の耳に入れば再び命を狙われるだろう。
それも含め、ネビリムは聡明な彼女に問いかけた。
「わたしは……――」
目を見開きつつ、予想はしていたのか取り乱すことはしない。
時間を置いた後、曇り無き眼差しで、自らの決めた覚悟を口にした。
*