Episode.4【預言なき希望】
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ぱちぱちと、暖炉から薪の燃える音が聞こえる。
内部に含まれる水蒸気が気化したことにより、木が割れるからだそうだ。
「――ん……」
柔らかい感触に包まれながら、青髪の少女、リッシュテルトは目を覚ます。先ず見えたのは、焦茶の天井。
「……ここ、は……」
建物の中だというのは、未だ朧気な意識でも分かった。ならばここは何処なのだろう。
ふわふわのシーツに手をつき、上体を起こす。さっきの柔らかさはこれかと、納得しながら。
「……だれかの、部屋?」
ベッドは自分が座っているものがひとつ。
窓を挟むようにして暖炉が設置されており、薪は充分に燃えている。
視線を雪が降る外へ移した時、ガチャリという聞いたことのある音が聞こえる。
これはドアノブが回った音だと、反対側へ首を動かす。
「あら、起きたのね!」
白までいかない銀髪に、白衣を羽織った女性が張本人。
なんとなく見覚えのある、何処で見たのだろうと、見つめながら考える。
「(そうだ。かあさまと、同じ髪……)」
確か意識が途切れる前にも、あの人を見たのだと、芋づる式で思い出す。
必然的にこの家も、助けてくれたのも彼女、無言ながらに理解する。
「体の調子はどう? 痛いところは無い?」
「は、はい。だいじょうぶです」
「そう、良かったわ……今ひと段落ついた所だから、食事を用意するわね。この部屋で待ってて」
「ありがとう、ございます……」
ふわりと微笑んで、女性は退室していった。
しばらくぼーっとしてから、もう一度ベッドに寝転ぶ。
敵意は感じない。表情からして、本当に心配してくれていたのだろう。
「(違う……あの人は、かあさまじゃない)」
母親の笑顔と先程の彼女を重ねてしまうが、どうあっても違うことは理解している。
それと同時に、小さく引っかかる何かも。
* * *
程なくして、暖かいビーフシチューとパンを持ってきてくれた。
身体は充分温まってはいたものの、一口食べただけでじんわり心に沁みる。
「私はゲルダ・ネビリム。このケテルブルクで私塾を開いているわ」
ベッドの脇にある丸テーブルで、紅茶をカップに注ぎながら自己紹介をしてくれた女性、ネビリム。
ちょうど食べ終わった食器と交換して、リッシュに砂糖多めのミルクティーを渡す。
因みに甘さを要求したのは至って本人であり、彼女の独断ではない。
「やっぱりここは、ケテルブルクなんですね」
「えぇ、そうよ。あなた、この街の子じゃないわね? 私が把握してるだけで、ここには数人程しかいないもの」
ミルクを入れてもする茶葉の香り、子供舌に合わせた甘さ。
些細なことで記憶が呼び覚まされる。でも今泣くときではないと堪えつつ、否定すれば何故ここにいるか聞かれるだろうと黙ったまま。
「……無理に話してとは言わないわ。多分、色々あったんでしょうから」
俯いてしまった少女を案じ、詳しく聞こうとしないネビリム。ここで疑問がひとつ。
「……どうして、そう思うんですか?」
「服がかなり汚れていたし、この辺では見ない髪と目の色だと思ったからよ」
更に疑問はふたつめ。
説明するとなると微妙な所なのだが、リッシュの表情は曇っていく。
「本当に、それだけですか」
「……え?」
カチャリとカップをソーサーの上に置き、やっと彼女の顔を見る。
予想外の返答だったらしく、面食らった表情。
「どうもあなたは、何かをかくしている気がします」
他人からすれば、まだ子供のする発言とは思えないだろう。
だが、確信を含んだ睨みは、幼女のあどけなさとはかけ離れている。
「何故、そう思ったの」
「なんとなく、です。とおさまがよく言ってました。家族以外の大人に頼る時は、自らのカンを疎かにせず、見定めろ、と」
リッシュテルトの父であるアーディラ家当主、名をリドルアス・トオ・アーディラ。
爵位は子爵。始祖の頃より伝承されてきた、ワンドル流抜刀術の師。
普段から優しさと厳しさを併せ持つ、強くてかっこいい父を、彼女は尊敬していた。
そして彼の妻である母、ナノライヤ・シュミリス・アーディラ。
娘は最後の時まで知らなかったのだが、腕の立つ譜術師だったらしい。
最愛の二人とメイドのメルラはもういないが、教えを忘れることはなく。
嘘をついているかもしれない女性に対して、億さず射抜いた。
「……さすが、“アーディラ家”の子ね」
だが、まさかファミリーネームをピッタリ当てられるとは思っておらず、今度はこちらが目を見開く。
同時に警戒心は更に上がり、カップを持つ指が震えてしまう。
「驚かせてごめんなさい、私は貴女をどうこうしようなんて思っていないわ。貴女がアーディラ家だと知っているのには理由があるの」
食器が擦れる独特の音で気付いたのか、そっと少女の指に手を添えるネビリム。
ビクリと震えて見上げるが、表情は真剣そのもので、偽りを感じない。
程なくして飲み終えたティーカップを回収した後、ゲルダは昔話を語り始めた。
*