Episode.3【冷たさを温めて】
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ケテルブルクのあるシルバーナ大陸は、港から市街地まで距離がある。
街の方向さえ分かっていれば、最短で着くが。
「うっ……さむ、い……」
しかし生まれてからずっと、ホド島を出たことがないので知るはずもない。
着いた後のことは、両親から何も言われないままだったので、尚更。
「どこか、しのげる場所……」
でも、大好きな家族はこの世にいない。じっとしていたって、誰も助けてくれないのだ。
止むことのなさそうな雪から、身を守らねば。
適当に林の中を歩いては、道らしき開けた場所に出たりする。建物、もしくは洞窟でも無いか見回す。
ホドから出る時は就寝前だったため、パジャマと軽い上着だけだった。
靴は外出用だが、それでも冷たさが伝わってくる。
息も白くなると同時に、体力が減ってくるばかり。
雪は足音さえ消してしまう。
それでも、獣の唸りは耳に入った。刀を掴む手に力を込める。
「(まもの……はじめて見た。でも、逃げなきゃ……)」
前方を遮るように、一体の狼に似た魔物が現れる。
まっすぐ自分を捉えるのは、獲物を狙う目で。
剣術の修行はしてきても、まだまだ半人前であるし、戦闘経験もない。
ゆっくり後退り、一気に踵を返そうと思った時、背後から気配を感じる。
「(っ、囲まれた!?)」
見えるだけでも三体、左右の林にも数体の唸り声が聴こえる。
寒冷地に適応したアイスウルフは、群れで仕留める傾向。
加えて背の低い子供相手に、物怖じするわけもなく。
「(今のわたしじゃ、この刀で抜刀術は使えない……でも、あきらめないって決めたんだ!!)」
ワンドル流抜刀術は、腰に構えねば威力を発揮できない。
両手で少し持ち上げるのがやっとな父の形見は、基本の技すらも難しいだろう。
それでも、黙って襲われるわけにはいかない。
自らより丈のある神刀、斑を雪に斜めに刺す。
両手で柄を握り、後退して抜くと、刃こぼれのない刀身が顔を出した。
本来とは違う、抜いた状態の構えで、狼を見すえる。
「はあぁっ!!」
前方の一体が、リッシュ目掛けて跳躍してきた。
切っ先を雪に付けながらも、後ろから振り上げる。
「(はじめて、斬った……)」
名刀であるがため、斬れ味抜群。
ほぼ綺麗に真っ二つで、返り血が頬に飛ぶ。
魔物とはいえ、生き物を手にかけたのは初めて。
どくりと心臓が脈打ち、暑くもないのに汗が出る。
「(っ……今は、たおすことに集中しないと!)」
息もしずらくなってきて、酸素を求めた脳は酷く痛む。
一瞥した背後には、例えるなら白い絨毯に赤ワインが染みていくような光景。
でもそれが血液であると理解しているから、これ以上考えないようにと、頭を振りかぶった。
「くっ、キリがないっ!)」
続いて一体、時に二体と少しずつ倒していく。
だがどんどん仲間を呼んでいるようで、先程から減らない。
寒さと疲労から、遂に限界が来てしまった。
「わっ!?」
左足を踏み込んだ時、穴だったのかめり込む。前のめりに倒れてしまい、雪に全身ダイブ。
「ひっ、冷た……っ!!」
あまりの冷寒に、すぐさま顔を上げたリッシュテルト。
だが、視界に飛び込んできたのは雪景色ではなく。
唸るだけで睨んでいたアイスウルフが、一斉に襲いかかってきたのだ。
「(これを狙って……よけられないっ――)」
魔物は人間ほど賢くないと、父に教わったことがある。
だからどこかしら油断していたのだと、今になって自覚した。
もう間に合わない、でも諦めたくない、相対する想いがぶつかりあう中、目を瞑る。
「サンダーブレード!」
顔も伏せていたので、目の当たりにはできなかった。第三音素、雷雲の刃を。
誰かの声と衝撃、獣の断末魔から、勢いよく見上げた。
「わっ!?」
周りに雨の如く落ちてくる魔物。
様子を伺うと痙攣しているものもいるが、再び襲ってくる元気がありそうにもない。
一体何が起きたのだろう、緊張が解れ、次第に視界がぼやけてきた時。
「あなた、大丈夫!?」
くぐもった足音と共に、女の人の声が聞こえる。
譜術を放ったのも同じだったと、うつ伏せの姿勢で首だけ振り返る。
降り積もる雪と変わらぬ程の銀髪に、白衣を着た女性。
「(かあ、さま?)」
実際は全てではない、似ているといえば髪色くらい。朧気な意識も相まっていたのだろう。
縋りたくても、遂に限界がきて、意識を手放した。
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