二ノ巻【戦慄! 桶狭間の遭遇】
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桶狭間、日中(お昼辺り)。
「……誰だ? テメェは」
「ふふっ……こうやって名乗るのは、貴方が初めてになります」
蒼と紅がぶつかり合う中、こちらもまた、戦いの火蓋が切られようとしていた。
* * *
時は遡り、先攻された伊達を追う為、幸村率いる精鋭の馬は森を駆ける。
先頭の真田の後ろへ横向きに座る彼女は、いつになく真剣な顔。
「伊達政宗、今川をとらせはせぬ……」
操る彼も、生半可な覚悟で向かってはいない。
独眼竜と相見えることを、覚悟しながら。
「幸村様」
「……はっ、何でしょうか」
背を一瞥し、ひっそりと口を開く。集中していたのか、少々反応が遅れた。
「貴方は、独眼竜の相手をすることだけ考えてくださいませ」
「姫様、それはどういう……」
次の言葉は、幸村の耳を疑うもので。
思わず振り返ったが、優秀な馬は走りを乱さない。
主君は精鋭を伴い、伊達を追えと命じた。つまり、兵の命を幸村に託すということ。
もちろん彼も姫も、それを理解している。
「伊達軍に先を越された今、大将を倒さぬ限り、今川を討つことは叶わぬでしょう。それに貴方自身、兵を動かすのに慣れておりませんよね。精鋭達の指示は、わたくしにお任せを」
「りん姫様……」
分かっているからこそ、林音は幸村の渇望を叶えられるように。
「伊達政宗を相手取るのは、貴方しかいません」
父ならば良い勝負が出来るだろうが、今は手が離せない。
それに、相性とでもいえばいいのか。あの時感じた風は、淀みのない透き通った水のように。
お互い不満無く、ズレもなく、勝負への渇望は同じ。
「……心得まして御座います!!」
風の音にかき消されること無く、家臣の決意は耳に届いた。
「ふふっ……さぁ、森を抜けます。御準備を!」
「はっ!」
ほくそ笑むように笑顔を浮かべる林音の様子など知りもせず。
木々から盛れる光へと鞭打って、馬を早めた。
「待たれよーーーーっ!!」
日和良き桶狭間の平原にて。
一町(109m)先程は届くであろう叫びが、あと一手で今川義元の首を取ろうとした伊達政宗の耳に届く。
背を向けていたとしても、その者が誰かなど分からぬはずもない。
何しろ焚き付けたのは、自分なのだから。
「姫様、後は頼みまする!」
「お任せあれ」
姫君に兵を託し、若虎は空を跳ぶ。相まみえしは心を滾らせた男。
途端に安定感を失った前席に寄り、手網を握って速度を落とさせる。
完全に止まらせ、頑張ってくれた幸村の愛馬を撫でてから前方を見ると、睨み合う両者。
やがて覇気は高まり、蒼紅がぶつかる。まばゆい闘志は、激しき風を産んだ。
「(さて……これで伊達政宗を討てさえすれば、こちらが今川の首を取ったも同然になりますが……この勝負、そう簡単に決着がつきそうもありませんね)」
思う存分戦いの風を感じる中、草原に降りた林音。
後ろの兵に、何かを渡してくれ、という命を仕草で促す。
すると、愛用の蒼い和傘がその手に渡され、開いて差した。
「(だとすると、やることがありませんね……そういえば、あの方は何処へ……)」
眼前で繰り広げられる、熱き魂がぶつかる死闘。
見守るという選択肢もあるが、彼女としては“おもしろくない”。
なにせついてきた目的は、別にあったのだから。
ふと、それまで目を向けていなかった、独眼竜の後方を見る。
揺らめく旗色は、蒼と朱。ほぼ小競り合いと化してはいるが、勢いの差か、伊達が優勢。
その中心で兵達に喝を飛ばす、頬に傷のある男。
「(へぇ……思っていたより、厳ついのですね)」
最初は功績を、次は名前を、その次は背中を。
やっと彼の顔を見ることが出来た姫君は、同時に弦月の様な笑みを浮かべる。
「皆、命があるまで他を刺激せぬように。ただしこちらを攻める動きがあれば、わたくし達の許しを得ずとも撤退しなさい」
「はっ……しかし、姫様はどちらへ」
一番近くの若い兵に、振り向かず命令する。
戦うべき大将の相手は幸村がしているのに、と疑問に思ったのか彼は聞いた。
「わたくしは少し……ちょっかいを掛けてきますわね」
その言ノ葉だけでは、分からぬはずもないだろう。
竜の右目をつつく方法を、思いついたなんて。
*