壱ノ巻【蒼紅 宿命の邂逅!】
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戦の国と書いて、戦国。
言葉通り、戦いは常にあり“死”もまた常である。
ある日、ある時、ある場所で。戦いの火蓋は、既に切られている。
片や城を攻め落とそうと、片や応戦するが、復帰の目処が立たない。
再起の間もなく紅き軍が、驚異のスピードで向かってくるからだ。しかも、“ひとり”で。
堅く閉ざされているはずの城門。
それが今、振動とともに破られようとしている。
城を守る兵は、何者か分からぬ相手に息を呑みながらも、槍を構え直す。
三回目の衝撃が響きわたると、誰もが思った。響いたのは衝撃ではなく、爆発だったのだ。
当然、近くの者達は吹き飛ばされていく。爆風と同時に煙が辺りを包み、何も見えない。
破壊された門を通り、一頭の馬が駆け抜ける。煙をも抜け、姿がやっと確認できた。
乗っているのは、先程言った“ひとり”。服も、武器も、生身以外全てが紅い青年だった。
「駆様な城門に、我が槍は阻めぬ! 天・覇・絶槍! 真田幸村、見参!!」
炎を纏った二本の槍を携え、駆ける馬から勢いよく跳ぶ。
着地後に武器を回し、未だ驚く兵達へと構えた。
額には紅の長鉢巻。首に掛けられているのは、三途川の渡し賃と伝えられる六文銭。
背中には彼の家紋である、先程いった六文銭。
二つ名を【若き虎】真田源次郎幸村。
攻め落とす側の紅き軍、武田軍の若き武将である。
「勇猛なる者は、御相手仕る!!」
ただ単に一網打尽とするわけでなく、進言した上での攻城。
まぁ見て分かるように、熱血漢であるからだ。
触発されてであろう。それぞれ茫然としていた兵は、我に返り青年を包囲。この場合、やけくそにもなる。
囲まれた側の真田氏はというと、全く動じず迎え撃つ体勢。
一旦瞳を閉じ、見開いたかと思えば、片方の槍を目前に翳しクルクルと回す。彼の属性、炎を纏って。
またもや爆音と共に、今度は周りの者が吹っ飛んだ。
原因は言わずもがな幸村だが、彼は今、主君への誓いを口にしている。
「見ていてくだされ、お館様! 必ずや、都に御旗を立てましょうぞ!!」
光線のように飛びながら。
真田幸村が口にした、お館様。
彼の主君であり、甲斐を収める主でもあるその名は、武田信玄。
【甲斐の虎】とも呼ばれるその御方は、家臣の働きを遠目ながらも、しっかりと見届けていた。
彼の後方には、待機させている自軍の兵達。
そして彼の横には、青空よりも濃い蒼の傘。正確にいうと、その傘を差す人物がひとり。
影となって顔は見えないが、着物や容姿から、女性だというのがわかる。
「……して林音よ。城の状況はどうなっておる」
首も視線も動かさず、山上の城を見つめながら、隣の者へ問う信玄。
「わたくしがわざわざ答えずとも、分かりきっている事でしょう?」
林音と呼ばれたその女も、同じく見つめたまま、答えを出した。
口元にうっすらと、笑みを浮かべながら。
「風の流れは、変わらず幸村様の元に……」
彼女は腕を前へ伸ばし、掌を天へ向け、言葉を紡いだ。
少しばかり傘を上げ、視線も空を見上げる。
隠れていた瞳は銀色に澄んでおり、風で靡く腰までの髪は、傘と同じぐらいの蒼で。
光が当たる一部は、何故か翠にみえた。
少しして、笑みはそのままに腕を下げ、総大将へやっと顔を向ける。
「出る幕も有りませんでしたね、お父様」
二の腕の留め具と、刀の鍔が四割菱。
つまり、武田家家紋をあしらった、この女性。
名を、武田林音。風林の君という異名を持つ、横にいる信玄公の愛娘である。
* * *
武田軍が無事落城した、次の日。
「ふんっ! せい! はぁっ!!」
甲斐の中心部に位置する、躑躅ヶ崎館。
敬意を込めてお館様と呼ばれる、武田信玄の“居城”である。
広い敷地内のどこか。何者かの声と、何かを降る音がともに聞こえる。
二槍をそれぞれの手で回し、止めた瞬間に前方を薙ぎ払う。
技による風圧が起き、火の粉が暫く宙を漂った。
さっきから何度も説明しているので、これ以上の紹介はしないが。
今日も今日とて、真田幸村は熱いです。
もうひとつ、館内に響く音。
お盆の上に急須と湯呑みが乗り、両手に持って運ぶ者。
蒼と翠に輝く、独特の髪色をした女性。
武田の姫、林音。戦場で身につけていた衣服ではなく、淡い赤の紬を着ている。
「あら、幸村様ー」
廊下を歩く途中、庭で武器を振りまわす彼に気付いたのだろう。
お盆を右手だけに持ち替え、左手を上げて声をかけた。
因みに、真田氏はあいも変わらず戦闘服である。
「ん? おぉ、りん姫様! お早うございまする!」
「お早う御座います、幸村様。いつも朝から元気ですね、貴方は」
「勿論でござりまする! この幸村、日々精進を怠るべからず。いついかなる時も、お館様とりん姫様をお守りできるようにと!」
「ふふっ、確かに。戦というのは常日頃、いつ起こるやも予見しえぬ災厄のようなものです。ですが……わたくし、そんなに弱くありませんよ?」
「はっ! そうでございましたな……では、いざという時に全身全霊をもってお助け致します!」
「えぇ。期待していますよ、幸村様」
槍を持ったまま拳をつくり、心の臓へと押し当てる。
揺らがぬ固き誓いを、表した行動であった。
その心意気をしかと見た林音は、うっすらと微笑む。
返した言葉にはトゲがあるように見えたが、これは彼女の通常運転なので。
もうひとつ言うと、幸村はド天然なので、トゲすら気付いていないが。
朝といっても、彼は鍛練を始めてだいぶ経っていたので、そろそろ休憩時。
林音は持っていたほっこりセットを見せ、お茶にしません? と提案。
そして勿論、頂戴致します! と返した真田氏であった。
「ふぅ……いつ頂いても、りん姫様のお茶は美味でございます!」
「褒めたって、今日はみたらし団子ありませんよ」
「本日は無いのでござるか!? 残念でござりまする……」
シュンと落ち込んだ幸村。見間違いだろうか、頭に犬の耳、お尻に尻尾があるような。
「……今度、作りますからね」
この方も見えてるか分からないが、案外と折れるのが早かった。
「誠でござりますか!? 有り難き幸せにございます、りん姫様!!」
「いいえー。(痛いんですが……)」
嬉しさのあまり、姫の手を掴んで上下に降る紅い少年。
少々興奮しているので、力が入ってる事に気付かない。反射的に眉を寄せる林音。
「(まぁ、仕方ありませんね……)」
苦笑して、小さなため息。どうも憎めない家臣なのである。
「……幸村様、御手をお離し下さいます? お茶を入れないといけませんので……」
「え?……あぁ!? も、ももももも申し訳御座いませぬ!! 某我を忘れて姫様の御手を!」
ふと、何かを感じた姫は少しの間の後、幸村に促した。
もちろん自分で掴んでいた事に気付いていなかったので、慌てふためく。
彼は天然の他にかなりの初心で、普段から女性のちょっとした事でも、破廉恥でござる!! とか言い出す。
今回の場合、自らやらかしていたので、いつものは言ってないが。
「気にしないでください。むしろもう少し女性に慣れませんと、後生、好いた御方ができた時に大変ですよ?」
「そ、そう申されましても……某は、その……」
世間話を挟みながら、新しい湯呑みにお茶を注いでいく。
この場に二人しか居ないのに、だ。
ほんの一瞬、風が騒ぐ。
「……なんて、余計なお世話ですね、貴方には。そう思いません? 佐助様」
先程の湯呑みを持ち、彼女自身の左側、幸村とは逆の方へ差し出す。
程なくして、湯呑みは誰かの手に渡った。鋭い爪仕様の篭手に。
「そうっスね~、真田の旦那が恋を覚えるのは、まだまだ先の話でしょうしー……」
頂きま~す、と軽快に述べ、貰ったお茶を口に含む、迷彩柄の忍び装束を来た男性。
武田軍、真田忍び隊、猿飛佐助。
幸村の右腕的存在であり、武田軍のオカ……世話事を受け持つひとりでもある。
「おう佐助! 戻ったのでござるな!」
「ただいま帰りましたー、ってね。りん姫様のお茶の香りで、すぐ場所が分かったっスよ~」
「まぁ、それは良かったです。とりあえず、おかえりなさいませ」
ニコリと目を細める林音。
こうやって三人揃って話をしたりするのは、日常の一部だからである。
この後、佐助の仕入れてきた情報により、本日の深夜に川中島への出陣が決まった。
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